ベンデ島
ウィンを乗せた小船は日没直前にある島にたどり着いた。その島は立派な港を備えており、多数の船が停泊していた。
「おお、セールミーンより船があるじゃないか」とウィンは感心した。
「お! あの船大きいなぁ。乗ってみたいな」
「お前な、自分の立場が分かってるのか?」と、酒場からウィンを連れ出した男の1人が言った。
「立場? ああ、これ?」
ウィンは両手を持ち上げた。手首のところで縛られている。両足首も縛られている。「うん、捕まってしまった……」
「そうだよ、捕まってるんだよ。死にたくなかったらおとなしくしてろよ」と、もう1人の男が言った。
「ウィン様、おとなしくするべきですよ」
「何か言ったか?」
「いや、別に」
船から下りると、足首の縄だけ外されて港の近くの建物に連れていかれた。建物の奥の部屋の、さらに奥に敷物が敷かれており、そこに大柄の男が座っていた。
岩を適当に掘ったような無骨な顔で、目も鼻も口もやたらと大きい。浅黒く日に焼けた肌が、白い歯を際立たせている。長くて黒い髪を首の後ろで縛っている。
「お頭、妙なヤツが居たんで連れてきやした」
お頭と呼ばれた男は、ウィンをジロリと睨むと「こっちに来い」と言って手招きした。
「お前、どこから来た」
「カルトメイメンさ」
「カルトメイメン?」
「ファッテン伯に用があったんだけど、酒を飲み過ぎてあまり覚えてないんだな」
「お前、ファッテン伯の仲間か!?」
「仲間? いや、ファッテン伯は帝国の家臣だよ?」
「ファッテン伯の大将ってことか」
「ああ、そういえば大将って呼ばれてる」。ウィンは、ベルウェンに大将と呼ばれていることを思い出した。
「ファッテン伯の親玉か!」
「そう……なるのかな?」。ウィンは首をかしげた。「お頭」が斜めになった。
「お頭、やっぱりコイツは魚のエサにしちまおう」
「傭兵も連れてきてた。俺たちの敵だ」
ウィンを酒場から連れてきた2人が興奮して処刑を主張した。のんびりしていたウィンは、突然空気が変わったことに気付いて慌てだした。
「エサ!? ちょっと待って。私はおいしくないぞ」
「俺たちが食うわけじゃないから気にしねぇよ」
「いやいや、気にしようよ」
「だから、そこはどうでもいいんだって」
「そ、そうだ。それより身代金を取ろう! 帝国に言えばきっと金を出す」
お頭と呼ばれた男は、それを聞いてニヤッと笑った。
「ほう、幾ら出す?」
「幾ら……だろう?」
ウィンは考え込んでしまった。
お頭と呼ばれた男は、その様子を見て腹を抱えて笑い出した。




