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居眠り卿とファッテンの海賊  作者: 中里勇史
ガロナ水軍

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10/11

報告

 「全て解決しましたよ、伯爵」

 ファッテン伯の城館にやって来たウィンは、やる気が感じられない目で静かに告げた。

 「そ、そうですか。やはり島の連中が海賊行為を?」

 「実は海賊船を拿捕しましてね。面白い物を見つけました」

 ウィンがベルウェンに目配せすると、ベルウェンが懐から手のひら大の木片を差し出した。

 木片には、ファッテン伯の紋章が刻まれていた。

 「海賊船になぜ伯爵の紋章がはめ込まれていたのでしょう」

 「さ、さあ」

 「拿捕される可能性は考えていなかったのかな? こんなものをはめ込んだままにしておくなんて、正気ですか? 伯爵。頭悪いんですか?」

 ウィンの悪態に、ファッテン伯は真っ赤になった。

 「エ、エルエメン! 貴様、証拠になるようなものをなぜ付けていた!」

 逆上したファッテン伯の言葉で、全て終わった。もはやエルエメンが何を言ってもどうすることもできない。

 一瞬の静寂の後、伯爵の部屋の扉が蹴り開けられた。

 「セレイス卿、ご苦労だった。後はグライスが引き受ける。伯爵とエルエメンを拘束しろ!」

 雷鳴のような声を上げたのは、ナインバッフ公ケルヴァーロだった。ファッテン伯とその家臣は海賊行為を行ったかどで帝都に送られることになっている。ファッテン伯は帝国爵位を持つ皇帝の直臣なのでナインバッフ公をもってしても処罰することはできない。彼にできるのは関係者を帝都に護送し、一時的にファッテン伯領を統治することだけだった。


 ナインバッフ公の家臣たちによってファッテン伯らが連行されるのを見送ってから、ケルヴァーロはウィンとベルウェンを睨み付けた。

 「死人も出なかったしな、細かいことは言いたくねえが、お前たちのやり方はめちゃくちゃだ。今回の監察使の任務は調査と報告だと聞いていたが、何だこの騒ぎは」

 ケルヴァーロの口調は一転して静かになったが、腹から絞り出されるような低音にウィンとベルウェンは押しつぶされそうになった。

 「も、申し開きのしようがございません」

 横着者のウィンが萎れて頭を垂れた。

 ケルヴァーロは苦笑すると、ウィンの背中をバンとたたいた。

 「よし、この件はこれで終わりだ。ご苦労だった。無事の帰還を願っている!」

 ケルヴァーロは実に愉快そうに大笑した。


 ベルウェンはまだ腑に落ちないという顔をしている。「結局、ファッテン伯は何がしたかったんだ?」

 「現状維持さ。伯爵が海賊行為を続けるには、海賊と疑われるガロナ水軍を存続させる必要がある。だが、疑惑が確信になってしまったら帝国が本格的に討伐に乗り出すかもしれない。『それらしい連中がいる。しかしファッテン伯だけで対処できる』という線が最も好都合だった。ガロナ水軍は海賊にとっては邪魔だが、海賊行為を続けるための隠れ蓑としては必要でもあったんだ」

 「あの練度の高い水軍をよく出し抜き続けたな。水軍の動きを知ってたみたいじゃないか」

 「知ってたんだよ」

 「何?」

 「ガロナは真正直な男でね、水軍の完璧な行動計画を伯爵に提出してたんだ。それが『水軍は海賊ではない』という証拠になった訳だが、伯爵側はそれで水軍の動きを把握して、水軍を出し抜いていたというわけさ」

 「ひでえ話だな」

次回、最終回です。

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