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異世界転生売ります!会社を追放された俺は、営業無双で異世界をも救う  作者: 猫屋敷 むぎ
《異世界編》 星灯巡礼 ―The Pilgrimage of Starlight― ~星の導きと、聖女の祈り~
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第8話 聖女の祈りと旅の仲間【後編】 ― The Fellowship of the Praying Holy Maiden ― エピソード④「祈りが灯す“希望“と炎が焦がす”焦燥“と」

そして――

祈りの光が空間に広がり、光の盾が音もなく展開される。


次の瞬間、ホブゴブリンの棍棒がそれに激突した。


思わず首をすくめると、「ぐうッ」と鈍い音が鳴り、セリアの足元の地面がきしむ。

だが――彼女の身体に痛みはなかった。


その強烈な一撃を防いだのは、祈りから生まれた“信じる光”。


(……大丈夫。わたし、ちゃんと落ち着いてる)

セリアは小さく息を整えた。


「今です、姉様!」

「――任せなさい!」


その声を合図に、ユリシアが二体目の攻撃を紙一重で回避しながら、大きく後方へ跳ぶ。


空中で身をひねり、旋回しながら姿勢を整える。

次の瞬間、ユリシアは三体目のホブゴブリンの懐へと、音もなく着地していた。


完全に虚を突かれた巨体が反応するよりも早く、ユリシアはその場で低く身を翻し、閃くように剣を振り抜いた。


「――はぁっ!」


閃光のような一閃。


セリアの“祈りの光”で強化された剣が、容赦なくホブゴブリンの腰を断ち切る。

黒い血が弧を描き、巨体は地響きと共に崩れ落ちた。


ユリシアは無駄のない動作で立ち上がり、

べっとりとついた黒い血をひと振りで払い落とす。


そして、ゆらりと立ち上る聖なる光を湛えた剣を静かに構え直し――

残る一体に、真っ直ぐな眼差しを向けた。


だが――

そのホブゴブリンは、他の個体とは明らかに“格”が違う。


巨体に似合わぬ洗練された動きと、鋭い眼光。

その動きには、どこか人間じみた“狡猾さ”が混じっていた。


地響きを立てて歩み寄るその手には、他と一線を画す巨大な棍棒が握られている。

無造作に――だが明確な殺意を持って繰り出される攻撃の連打。


ユリシアはそれらを辛うじて捌きながら、距離を取って息を整えた。


「セリア様、あなたの援護がなければ勝てません――ですが、あなたとなら勝てます」


その言葉に、セリアの胸が震えた。


(信じてくれてる――わたしを)


「……はい!」


セリアは深く息を吸い込み、両手を胸元に重ねた。

指先から、いつもよりわずかに強い光がにじみ出す。


(……どうして、こんなにも自然に)


祈りの言葉が、脳裏に浮かぶ。

どこかで聞いた記憶もないのに――それは驚くほど、しっくりと馴染んでいた。


(まるで、“光”が……わたしの中に、ずっと前から在ったみたい)


もう、詠唱は――止めようにも止められなかった。

口にすべき言葉が、最初から“心”に刻まれていたかのようにあふれ出す。


「Domine, lumen tuum intensum descende super servos tuos, ut robur et gratia floreant.

――(主よ、強き光を御しもべに降り注ぎ、力と恩寵が咲き誇らんことを)」


「ライトブレス・インテンシヴ!」


光が弾け、ユリシアの剣に純白の炎が宿る。

それは、ただの強化を超えた――“想い”の光だった。


(……なんて清らかな光。これが、セリア様の――“真の力”)


「姉様!」


振り返った騎士が、柔らかく微笑み――


「この剣は、聖女様の光と共にある。貴女を、必ずお守りします」


呼吸を整え、気持ちを高めるように静かに呟いた。


「……聖女の守り手。光に誓いし騎士、ユリシア・ヴェルダイン、参ります」


彼女は剣を掲げた。天を仰ぎ、光に誓うように。


聖なる炎が、剣先を天へと導く――

そのまま、彼女は地を蹴った。


迎え撃とうと棍棒を振り上げるホブゴブリン。


だがその刹那、ユリシアの姿は跳躍し、宙を舞う。

振り上げられた、白炎を纏った刃は、まるで天の審判を帯びているようだった。


騎士として、姉として――すべてを乗せた渾身の一撃。


一瞬、息をのむ静寂。


そして、閃光のように――


「はあああああっ……!」


叫びと共に放たれた一撃が、棍棒ごとホブゴブリンの巨体を一気に断ち割る。

空気が振動し、土が爆ぜ、

夜の空に、白い光の尾が弧を描いた。


――そして。


ドスン。


斬られた魔物は、ゆっくりと崩れ落ちた。


断ち割られた棍棒が、まるで無力を晒すように音もなく砕け、

巨体が崩れ落ちたその瞬間――斬撃の余光だけが、夜空に滲み

――まるで星になったかのように、静かに溶けていった。


勝負は、ついた。




――その頃オーガーと対峙するレナ


「火が、通らない……っ!」


レナは歯を食いしばりながら、再び炎弾を放つ。

だが――オーガーは微動だにしない。


黒鉄のような皮膚が、まるで“受け流す盾”のように、炎をただ表層で滑らせるだけだった。


「どんな火耐性よ……!ヒノカゲ、軌道を変えて!」

「回るぞ、上から行く!」


ヒノカゲが回り込み、後方から炎の爪を叩き込む。

しかしそれすら、オーガーの厚い背に浅く焦げ跡を残すのみ。


「……炎が“染み込まねぇ”。こいつ、ただの肉塊じゃねえぞ、レナ」


(魔力障壁……? いや、“滑らせる膜”みたいな……何かが覆ってる?)


ただのオーガーじゃない。あれは……“何か”されてる。


「……マジで、洒落にならないわね」


レナは息を切らし、額に汗が浮かぶのを感じた。


少しずつ、身体が重くなっていく。

魔力の消耗――そして、心を蝕む“絶望”の輪郭。


オーガーが、ゆっくりと棍棒を構える。


(動きが遅い。でも、隙がない)


ほんの一瞬の判断ミスが、即死に繋がる――それを肌で理解した。

次の攻撃、避け損ねれば――命はない。


「ヒノカゲ、カバーして!」

「間に合うか……! くっ!」


オーガーが棍棒を振り上げた、その瞬間――


「来るっ!」


レナが地を蹴り、横へ跳ぶ。


「よし! かわした!」


だが次の瞬間、

轟音と共に地面が砕けた。

石畳がひび割れ、破片が爆ぜるように舞い上がる。


跳び退いたレナの脇腹を、

そのひとつが鋭く裂いた。


「……っ、あぐ……!」


鋭い痛みに、息が詰まる。

バランスを崩し、片膝が落ちた。


脇腹を押さえる手の隙間から――温かい血があふれ出す。

命が、音もなく零れていくようだった。


寒い。


視界が、白くかすんだ。


(これは……本当にまずいかも知れない……!)


呼吸が荒い。思考がにぶる。


オーガーは無表情のまま、棍棒を持ち上げる。

そこに宿るのは、怒りでも憎しみでもない。


ただ――

一つの命を、“処理”するという冷徹な意志だけ。


(……こんなところで、終われるわけないのに)


あの日、祭りの夜。

最後に交わした、あの言葉。

最後に見た、あの背中。


(……“彼”に、まだ……会えてない)


それに――


(あたしには、やらなきゃいけないことがある)

(“約束”だって……まだ、果たしてない)


どちらも、まだ終わっていない。

どちらも、まだ――ここで倒れるには早すぎる。


……だから、負けられない。


レナは歯を食いしばり、御鈴杖を握ろうとする。


だが――右腕が、震えて持ち上がらない。

足にも力が入らない。


踏み出したはずの脚が、思うように動かず――

片膝が、がくりと崩れ落ちた。


オーガーは、無慈悲に地響きを上げ、突進してきた。


(これで終わり? こんな、こんな量産型の相手に――!)


心が、折れかけた。


そのとき――

どこか遠くから、声が聞こえた。


「レナ! レナ姉さん、しっかりしろ!」

「くそっ、俺様の本来の力さえ戻れば……!」

「お前がくたばるなんて、絶対に許すかよ……!」


ぼやけた視界の先に、紅蓮の尾が揺れる。

燃え盛る巨大な狐の幻影。

光の中に、ヒノカゲの姿が重なった。


(ヒノカゲ……?)

(何やってんのよ、そんなの……効かないって……)


「レナが立つまで、俺様が時間を稼ぐ!」


叫ぶと同時に、ヒノカゲは全身を炎に包み、炎弾を連射した。


レナはただ、崩れ落ちたまま、焼けた石畳に片手をつく。

肌を刺すはずの熱も――もう、感じなかった。


――音が、消えた。


風も、焔も、痛みさえも、遠い。


(なんで……“あの時”だけ……本気で願っちゃったんだろう)

(こんな結末になるなら――信じるなんて、しなきゃよかったのに)

(……ごめん、みんな)

(“約束”も……なにもかも、まだ果たせてないのに)


そのとき――

どこか、遠い場所から、声がした。

それは、心の奥に火を灯そうとするような声だった。


――まだ、終わっていない? 本当に……?


誰? 聞いたことがあるような……少し幼いけど、なぜだか心に響く声。


次回。

【第8話 聖女の祈りと旅の仲間【後編】 ― The Fellowship of the Praying Holy Maiden ―】

【エピソード⑤「“戦巫女”と祈りの“雷鳴”」】

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