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異世界転生売ります!会社を追放された俺は、営業無双で異世界をも救う  作者: 猫屋敷 むぎ
《現実世界編》 異世界転生売ります ―Re:Birth Business on Sale― ~希望を紡ぐ、魂の残響~
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第3話 プロローグ ― Trash Panda ― エピソード④「鳳凰、“ゴミ拾い部隊”に入隊す!」

氷室に従い、オペレーションルーム(執務室)へ戻る。

「新人くんは、ここね~♪」

神楽に導かれ、お菓子の袋とぬいぐるみで彩られた神楽のデスクのとなりに座る。

「あ!」

声に驚いて、隣の神楽を見る。

「紹介、忘れてたけど、うちには“幽霊社員“が一人いるんだよ。」

「“幽霊社員“?」

「地下5階に夜な夜な現れる幽霊社員…。そして…見てしまった者は…キャー!」

神楽が叫び、俺はビクッとする。


「ね、怖い?怖いよね?」

「いや、君の叫び声の方が怖かったわ。つまり、会社に来ないって意味だよね?」

「つまんないのー。」

「でも、正解~。風祭君って言うんだけど、ほとんど会社にいないし、いるはずでも、いるかいないかわかんない人。うちの隠密担当だよ」

「どんな人だ??」

「そのうち現れるから、お楽しみにねっ♪」

(隠密担当!?)

しかも、会社に来ない社員がいる、それでいいのかSTF部…。

などと一人ごちる。

(それにしても、ほんとに、ひと癖もふた癖もある人たちばかりだな……)

けれど、その人間臭さに、不思議と居心地が悪くない…気がする。

そんな風に感じていた時……、


『桐島部長、戻られました』

『ミッションルームへ集合してください』

アスティのアナウンスが室内に響く。


「あっ、部長来るって。新人くん、初ミッションの時間だね♪」

神楽が軽く肘でつついてくる。

(“ミッション”って呼び方…)

重ねるように、耳打ち。

「部長って、自衛隊の特殊作戦群出身なんだよ~。」

(極めつけは、“特殊部隊”か…でもなるほど、納得だ)

面接で桐島と名乗った女性の鋭い目つきを思い出し、少し肩をすくめる。

でも、やるしかない。俺は、“選ばれ、そして選んだ”のだから。

――これからが、俺の本当の初日だ。



セールスタスクフォース(STF)部 ミッションルーム。


中央にある、大型の円卓型スマートデスクを囲み、メンバーたちが集まっていた。


『皆さん、桐島部長からミッション説明があります。そのまま待機してください』

円卓の上空に浮かんだホログラムのアスティは、淡々と告げる。


皇はまだ少し慣れない部屋の空気に身を置きつつ、神楽の隣、空いている席に腰を下ろす。

(…ミッション、ね)

ふと視線を感じて目を上げると、手を軽く後ろに結んだ、アスティの青い瞳が悪戯っぽく俺を見つめていた。

アスティがにっこりと微笑む。

親愛の情を示しているようにも見えるが…、いや反応を観察しているのか?

(好奇心のようなものまで感じる…、まさかAIが…ね。)

少しむずがゆい気もしたが、美少女に微笑まれて悪い気はしない…。

思わず、微笑み返した。


(!…)

誰かの視線を感じて正面を見ると、氷室が目を逸らした。

(…睨まれてた?)

くすくす笑う声が聞こえて隣を見ると、神楽が肩をふるわせて口をおさえている。

一方、氷室の隣の獅堂は、微動だにしない。

(やれやれだ…。)


…しばらくして、桐島が入室。

「皇、ようこそ、ELICが誇る“トラッシュパンダ”へ」

「トラッシュ…、パンダ?」

「ああ、我がセールスタスクフォース部の別称だ」

「“あらいぐま”のことだよ~。他の部署からそう呼ばれてるんだ。かわいいでしょ♪」

神楽がやんわり解説し、氷室がぴしゃっと重ねた。

「“ゴミ拾い”って意味よ。”別称”というより”蔑称”ね」

(え…、“ゴミ拾い”!?)

他部が投げ出した案件を拾う役割、とかそういうことなのか?

カオスなオフィスに超個性的なメンバー。果てはゴミ拾いに超未来技術…。


(うん。これは“ワクワク”する、以外の選択肢は無いな。)

“人は限界を超えると開き直る“と聞くが、今の俺の境地が、まさにそれなのか?

などと一瞬考えてしまう。


「では、本日のミッションについて、説明を始める。」

そんな俺を気にも留めず、黒のジャケットを着た桐島は、立ったままてきぱきと指示を出す。

「アスティ、資料を出して。みんなは座ったままで結構」

『はい、こちらに』

アスティの周囲に、円柱状に浮かんだ5枚のブリーフィングシートに顧客情報が並ぶ。


「ありがとう。」

「クライアントは三崎真奈美。」

「三十七歳。独身。過去にインサイドセールス部と第一営業部が接触済み」

「契約の意思は明確に示してる。でも…」


ホログラムのブリーフィングシートがめくられ、過去の面談ログと医療記録が表示される。

「どちらの部もクロージングに至れなかった。なぜかって?」


桐島が視線を巡らせると、氷室が静かに応じた。

「G-MIBのデータを見る限り、現在は安定期の慢性疾患」

(…G-MIB?)

俺が眉を寄せると、もう一枚、小さなホログラムがそっと浮かび上がる。


――G-MIBジー・ミブ=Global Medical & Insurance Blockchain

世界医療連盟と保険業界連携による国際機構が管理する医療情報ネットワーク。

加盟保険会社は、顧客同意の上、各種医療データにアクセス可能。

分散型量子サーバーとブロックチェーン技術により、情報の改ざん不可・漏洩リスク極小。


困惑している俺にアスティが気付いてくれたのだろう。

(ありがとう、アスティ。)

そっと目を上げて目配せすると、小さくウィンクが。

(……。要するに、医療情報開示請求…だな。やはりELICはすごい…。)



「……面談記録によると、本人は“余命が短い”と信じ込んでいるようですが、医学的にはそこまでの状態ではありません」

桐島の視線が俺に移る。


俺は、少し身を乗り出して言った。

「……なら、なぜ急いで転生保険に?」

「急いでいるようで、実は避けている?」


神楽が腕を組みながら呟く。

「これ、わりとよくあるやつじゃない?」

「“死ぬつもり”で来るけど、まだ“生きてる理由”を整理できてない人」


桐島はうなずいた。

「氷室、あなたが担当。皇は同行して、現場を見てきて」

「アスティはアポイントを」

「獅堂はそのまま残って。別の案件について話したいことがあるの」

「神楽は…、任せるわ」

(…神楽だけ、雑な扱いなのか?)

指示を出し終えると、桐島は氷室と俺を交互に見やった。


「…、今回は、ちょっと丁寧に行ったほうがいい」

氷室が応じる。

「了解しました。」

「……俺でお役に立てるなら」

桐島が一瞬だけ柔らかく微笑む。

『アポイント取れました』

「OK。クロージングの方向性は見えてるわね?」

「……それと、今回は特務案件ではないから、シェルの使用は許可されていない」

「魂に関する確認は、必要に応じて事後に行う方向で」

「まずは、本人の言葉と選択に、丁寧に向き合って」

(……特務案件ではない?)

少し引っかかったが、要するに、丁寧に顧客と向き合えってことだな。


氷室はそっと視線を落とし、俺と一度だけ目を合わせた。

「行きましょう、皇君。準備はできてる?」

「ええ、もちろん」

ネクタイを軽く締め直す。



これは、単なる“保険営業”なんて生ぬるい世界じゃない……。

――そう、これは“魂”と向き合う仕事。

彼女の「やり残したこと」に寄り添えるだろうか。

そして、俺は初同行“ミッション”に向けて動き出した。


次回。

【第3話 プロローグ―Trash Panda―】

【エピソード⑤「“今”を選ぶということ」】

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