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異世界転生売ります!会社を追放された俺は、営業無双で異世界をも救う  作者: 猫屋敷 むぎ
《現実世界編》 異世界転生売ります ―Re:Birth Business on Sale― ~希望を紡ぐ、魂の残響~
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七英雄譚 序歌 ~銀瞳の詩亭にて~ ― The Ballad of the Seven – Told in the Minstrel’s Tavern of the Silver Eye ―

休載中です。2章完結まで草稿ありますので、投稿再開までお待ちください。

※本話は、異世界アルフェリアに語り継がれる「七英雄の詩」。

本編は現実世界編のプロローグから始まりますが、魂をめぐる物語の“始まりの歌”として、よろしければ耳を傾けてみてください。


異世界転生売ります!会社を追放された俺が、営業無双で異世界をも救う 

― The Chronicle of the Seven Souls ―

第二章より抜粋。



七英雄譚 序歌 ~銀瞳の詩亭にて~

The Ballad of the Seven – Told in the Minstrel’s Tavern of the Silver Eye


神聖歴 998年/冬の夜


異世界 “アルフェリア”

セレスティア神聖国/辺境伯領城下町

酒場 銀瞳の詩亭


石畳の町並みの一角、辺境の町には珍しく、夜も光を絶やさぬ酒場がある。

その名も――“銀瞳(ぎんどう)の詩亭”。

この国に伝わる叙事詩「七英雄譚」を、誰より美しく謡うと噂の吟遊詩人が、今宵も現れる。


――暖炉の火がぱちぱちと鳴る音が、酒場の空気を和らげていた。

木の梁に吊るされたランタンが、琥珀色の光を揺らし、剥き出しの床板には酒と汗の匂いが染み込んでいる。


辺境には、魔物が多く出没する。

大都市とは異なり、冒険者ギルドの依頼はあまり金にならないが、魔物との戦いや、戦利品を求めて集まった冒険者たちが、骨を休め、過去と未来を語らう場所――

それが、こういった酒場だった。


その日もまた、辺境の地に命を懸ける冒険者たちが、思い思いにテーブルを囲み、

ジョッキをぶつけ合いながら、火酒やエールをあおり、料理に舌鼓を打っていた。


ランタンの灯に照らされ、白いエプロン姿の給仕娘たちが、器用にトレイを捌いてゆく。

手慣れた動きで料理を配り、空いたジョッキを回収すると、常連に笑顔を向ける。

厨房の奥からは、香ばしい肉の匂いが漂い、空腹を誘うようだった。

冬の夜長を照らすランタンの下、酒と声が溶け合い、

語らいのざわめきが、絶え間なく酒場を満たしていた。


一方、カウンターには、人影もまばらだった。


入口から遠い席に、赤毛の長髪を無造作に結い、赤いマントを羽織った女がひとり、静かに腰掛けていた。

その面差しには、まだどこか幼さが残っており――少女と呼ぶのがふさわしいかもしれない。


彼女はエールを注文し、喧騒の中、静かにジョッキを受け取る。

無言のまま俯き、背もたれに身を預けると、

酒場のざわめきとは裏腹に――彼女だけが、ひとり静寂に沈んでいるようだった。


やがて、ふと耳を澄ます。

まるで、何かを待っていたかのように。


気づけば、ステージの一角に、一人の吟遊詩人が佇んでいる。

――彼の周囲も不思議な静寂を纏っていた。

近くの暖炉の温もりすら届かず、そこだけ空気が澄んでいるような、異質な気配。


ポロロンーー


喧騒の中に一滴、音が落ちた。

瞬間、そのしっとりとした音色が広がるにつれ、酒場の喧騒は止み、静まり返った。


時が止まったような静寂の中、音の主が――暖炉の灯に浮かび上がる。


漆黒の羽根飾りをつけた、つば広の帽子。

そこから銀糸のような髪が背へと流れ落ちていた。

面差しは端正にして冷ややか。

ただの語り部とは思えぬ気品を纏い、暖炉の揺らめきの中に立つ。

その瞳に宿るのは、哀しみの底に差す静かな光――

世界の記憶を映したような、深く冷たい輝きだった。

夜の帳を思わせる濃紺のマントに、黒檀の竪琴。

暖炉の火の粉が舞う中、その姿はまるで

――伝説の残影のようだった。


重力に捉われた魂が引き寄せられるように――誰もが思わず目を向けた。


彼女は静かにジョッキを置き、皆に遅れて吟遊詩人へ目を向けた。

まるで、彼女だけは、詩人の理の外にいるように

――そして、ゆっくりとそのルビーの瞳を閉じる。


詩人は、しばし沈黙したのち――第一の詩を奏で始めた。

そっと竪琴がつま弾かれる。

その旋律は、まるで過去の記憶を手繰るように、優しく、儚く――


「……静かにお聞きなさい。

 これは、遠い遠い昔のこと。

 混沌に沈みし世界に、希望の火が灯ったという、はじまりの歌――」


炎が揺れ、詩人の影が幕のように酒場の壁を這った。

ゆるやかな旋律に合わせ、彼は物語を紡ぎ始める。


「――此は、混沌に沈みし大地に、

光をもたらせし七つの魂の物語……」


低く詠唱するような柔らかな語り。祈りにも似た優しさが宿った、それでいてどこか懐かしさを感じる歌声に、誰もが自然と耳を傾けていた。


――七英雄譚 序章。


この国で生きる者なら、知らぬものはいない建国の叙事詩。

詩人は時に朗読し、時に歌い上げ、巧みに竪琴を操り紡いだ。


「時に、千年の昔――幾万年続く混沌の時代。

世に秩序はなく、魔は野に放たれ、星は翳り、大地は悲しみに包まれん。

人は森に潜み、山に散り、種は交わらず、争いは絶えぬ」


竪琴の旋律が、少しだけ低く、哀しみに沈む。

その調べが、まるで過去の痛みを呼び起こすように、静かに暖炉の光と絡み合う。


「かくて、星詠みのとき、天より一筋の声あり。

降臨せし女神アルフェリスと静かなる啓示。

『汝らに、光の乙女を授けよう。

 彼女と共に歩む者こそ、世界を救わん』」


竪琴の音が、風のように高まり、静かなる炎の中に、一筋の光が差し込んだような錯覚が走る。


「かくして選ばれたるは、 銀の髪を風に揺らす、聖なる乙女。

その名を――アストレイア・セレスティア。

星詠みの巫女と呼ばれし原初の聖女。

神聖なる力を授かりし者にして、女神の言葉を地に紡ぐ者」


語りと共に、竪琴の音色は透明さを増し、聖女の姿を想起させるように空へ舞う。


「聖女が魂に導かれ出会いしは英雄王。

聖なる剣を携え、いずこからか現れし若き英雄。

その名を――エリディウス」


ここで、旋律がゆるやかに高まる。

勇壮で、どこか懐かしい調べが、七つの名を一つずつ告げるごとに重なる。

詩人が名前を挙げるたびに、聴衆も唱和する。


「やがて、女神に導かれし五つの魂が集い、七英雄の絆が紡がれん。


神秘を操る大魔導は、叡智の主アリオン。

矢のごとき風をまとうは、エルフの王子フィルミス。

大地を揺るがす戦斧の主は、獣人の王バルグレイン。

氷の魔獣を従えし乙女は、北の氷姫フィオナ。

英雄王の妹にして太陽に愛されしは――炎の巫女エルミナ。

星々が巡り、命が交わり、七つの誓いは空に刻まれた」


詩人の指が、そこでふと、竪琴の弦の上に止まる。

炎の揺らめきが、語りを一瞬だけ遮る。

再び悲しげな音色にむせぶような声が重なり、聞く者の胸にしみた。

自然と涙がこみ上げ、嗚咽を漏らす者もいた。


「終焉の戦いの果て、倒れしは炎の巫女。

悲しみを超え戦いに挑みしは六色の英雄。

紅き色無く、敵わぬと知ったその刻――

馳せ参じたるは、名も無き歴史の観察者、銀瞳の賢者。

封印の刻を見届け、静かに賢者は去れり」


再び弦が震える。今度は、淡く、夢のように――


「かくして、新たに生まれし光を掲げし聖なる国。

千年の安寧を約束されし千年王国ミレニアム

治めたるは聖女と英雄王。

――セレスティア神聖国」


暖炉の薪が爆ぜ、火の粉がはらはらと舞い、詩人の声がわずかに低くなる。


「大陸の名に刻まれし、英雄王。

――エリディア大陸


七つの誓いは、風となり、歌となり、 我らが心に生き続ける。

幼き者も、老いた者も、夜の焚き火で口ずさむ、

七英雄の物語


此は序章。夜明けの歌。最初の歌」


――吟遊詩人が奏でる最後の和音が、指先からそっと零れ落ちる。

アルペジオの波が、夜の静寂へ静かに溶けてゆく。


詩人は最後に祈るように、誰かに向けて語り掛けるように言った。

「……今宵の歌は、これでおしまい。

 だが、ゆめゆめ忘れるなかれ――

 物語とは、今も紡がれ、未来に語り継がれていることを」


その声も、やがて風とともに消え入り……再び静寂が訪れた。

誰もが、息を呑んだまま、その余韻に耳を澄ませていた。


彼女が目を開くと――酒場の喧騒が戻り、詩人は霞のように消えていた。

音も、気配も、風に溶けるように。まるで最初から、そこには存在しなかったかのように。


詩人の姿が消えたあとも、炎のゆらめきが脳裏に残る。

まるで、今夜の詩は――彼女の記憶に語りかけるために謡われたかのように。


彼女は、その燃えるような赤髪をひと撫でし、無造作にかき上げた。

そして、ジョッキに口をつけ、一口喉を潤すと、ジョッキに透けて揺らめく炎に話しかけるように――小さく囁いた。

「ねぇ……懐かしかった?」

「まあ、そうだな。俺様にとっては――ほんの少し前の出来事だけどよ」

「ふふ、特に誰が?」

ルビーの瞳を細め、彼女はいたずらっぽく笑った。

「言わせるなよ。……今は、寂しくなんかないぜ」


誰と話しているのか。

その声は、どこからともなく、暖炉の薪の音に紛れるように返ってくる。

確かに耳に届いたはずなのに――誰もその姿を見た者はいない。


「さてっと……!」

彼女はジョッキを手に、椅子を蹴るように立ち上がる。

赤いマントがふわりと揺れて、彼女の後ろ姿を照らす。


「今日も“転生者”の“彼”を探すのか?」

「もちろん! 今日も張り切って――情報収集、行ってきまーす」

彼女は太陽のように笑い、その声は酒場の喧騒と溶け合うように消えていった。


――その背に、ほんの一瞬だけ。

誰にも気づかれぬほど、小さな赤い焔が、ひらりと舞った。


――そして、物語は時を越え、世界を超え、再び、“選ばれし魂”を求め始める。

それは、現実世界と異世界を結ぶ“転生保険”を巡る、“魂の選定”の記録――

再び巡り継がれていく“七つの魂の物語”。



※いつも『異世界転生売ります!』をお読みいただきありがとうございます!

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