78-交渉
(どうしてこうなった)
心のなかで悪態をついても、目の前の状況に変化は訪れない。
マヤに案内されるまま、屋敷を通された俺に現れたのはマヤの父親にして、エンフィルド家を束ねる大商人であるナスタジョ・エンフィルドだった。
そして、わけのわからぬまま交渉の席へと通された。
「さぁ、遠慮せずに食べてくれ」
目の前には、贅を尽くした食事が所狭しに敷き詰められている。
一見すれば、穏やかな食事の席だが、この場から感じる圧がそれを否定する。
いつの間にかマヤは居なくなってるし、どうしてこうなった。
「はは、警戒してるのかな?毒など入ってないから遠慮なくお食べ」
ナスタジョはそう言いながら、目の前の食事に手を付けて次々と口へ運んでいく。
流石にここまで来て食べないのも不自然か。
「では、遠慮なく」
渋々といった感じで食事に手をつける。
食事の方は、流石王国を代表する商家といった感じで、大変美味なものが多い。
ただ、この場の圧のせいで味なんてものをゆっくり味わう余裕がない。
「さて、本題なのだか……」
(来たッ!)
その言葉で、食事の手が止まる。はてさて、何が飛び出してくるやら。
「先日は、わが娘のマヤをさる貴族から助けてくれたみたいだな。まず、礼をいう。さて、そこでなのだが、そんな君の武勇を見込んで頼みがある」
「な、何でしょう?」
ゴクリと食べ物を飲み込んで返答する。
「うむ。実は、投資先の一つのとある貴族が、最近領地の魔物に困っているらしくてね、手を貸してほしいのだよ」
「はぁ。それはわかりましたが、どうしてエンフィルド家がそこまでするのですか?」
「まあ、簡単に言ってしまえばその貴族に対処能力が無くてね。このままでは投資分だけ損をするから、仕方なく肩入れするってわけさ」
そう言い切るとナスタジョはワインを口に含む。
「それで、その話を受けるメリットは?」
「ん?その貴族に恩が売れるし、我家ともパイプが繋げられるだけじゃ不十分かい?」
ああ、何となく読めてきた。
その貴族に破産されては困るけど、エンフィルド家として肩入れした時に失敗したリスクが大きい。
その点、ナスタジョが個人的に俺に頼んで、俺が介入した時に失敗したとしても、エンフィルド家としては知らぬ存ぜぬが出来る。
しかし、成功したときのリターンは大きいと。
「まあ、ある程度の依頼料なら出そう。それで何て言ったか、あのゲームセンターに入り浸ってる彼も一緒に連れてくといい」
はは。こっちの交友関係まで調査済みですか。これは受ける以外の選択肢がないな。




