43-一悶着
「ふぅ。ようやく終わったか」
王都の大聖堂の鐘から、昼を告げる音が鳴り響く。
それを合図として、午前の学園の授業は終わりを告げた。
「エズワルドさん?どちらへ行くのですか?」
カフェテリアに向かわず、そそくさと特待生側のクラスに向おうとすると、フィーネに見つかる。
少し面倒な事になったなと思いながら、ここは正直に目的だけ言うことにした。
「ちょっと、特待生側のクラスに行こうと思ってね」
「特待生側のクラスに?特待生にお知り合いでも居るんですか?」
「いや、知り合いは居ないんだけど、ちょっと野暮用があってね。それじゃ」
話をそこそこで切り上げ、肝心な内容はフィーネに明かさずに、特待生クラスに向けて小走りで向かう。
早く行かないと、特待生達も普通に昼食に行ってしまうから、主人公が存在するかどうかの確認が出来なくなってしまう。
はやる気持ちを押さえながら、特待生クラスに向かって行くと、前方から喧騒が伝わってくる。
何やら前方で人集りが出来ている。
クソッ!こっちは急いでるっていうのに一体なんなんだ!?
躱すことが難しいので仕方なく、人集りを割って突き進んでいくと、この喧騒の正体が分かる。
そして、それはあまり出会いたくない奴のせいだった。
「平民風情が、栄光ある本校の入学の挨拶を務めたなど虫唾が走る」
そこにいたのはボニフォーツだった。
どうしてお前がここに居るんだよ。てか、喧騒の原因はお前か。……ん?いや、これゲームのイベントであったやつか!
確かヒロインの一人で、平民出のマヤ・エンフィルドが入学の挨拶を務めた事にキレたボニフォーツが、イチャモンをつけて決闘になるんだよな。
それをマヤの代わりに同じクラスの主人公が決闘を引き受けて、ボニフォーツと決闘するんだった。
「何を理由の分からないことを!わたくしは、学園と王から正式に入学の挨拶を承ったのですよ!それに意を唱えるのは王に対する不敬ですよ!」
「ええい!うるさい平民風情がごちゃごちゃと!剣を抜け!決闘だッ!俺が勝ったら、お前が入学の挨拶の機会を不正に奪ったと認めて、俺の奴隷になれッ!もし、お前が勝てたら俺の奴隷を一人与えてやろう」
「あなたって人は!一体何を言い出すんですか!そんなの出来るわけ……!」
「おやおや、平民は所詮その程度。やはり貴族の理には疎いようだ。決闘を仕掛けられて受けなければ、それすなわち敗北を認めたのと同義だ」
「くっ!卑怯者」
「卑怯者はどっちだか。さぁ、受けるのか?受けないのか?」
この事態に周りは騒然としている。もはやこの事態にお祭り騒ぎで、賭けを行うやつまでいる。
ふむ。俺としては好都合だ。イベント通りなら、ここで主人公が登場するはずだ。
出てくれば主人公の確認が終わって昼食にありつける。
…………。しかし、待てども主人公は現れなかった。
おいおいおい。どうなってんの?主人公居ないのか?居たとしたら、このイベント無視するのヤバいだろ。
このままだとマヤがボニフォーツの奴隷になるよ?
だって、この時点だとマヤの戦闘力皆無で、ボニフォーツの方が強いんだよ?
え?ちょっと待って、マヤがボニフォーツの奴隷になるのは相当不味いんだけど。
もしかしなくても、この状況を打開できるのって俺しかいないの?
……仕方ない。腹くくるか。
「こんなところで何をしてるのかと思えば、しょうもない事をしてるな。ボニフォーツ」
「エズワルドォ!てめぇ何しに来やがった!?」
「ちょっとこの決闘、代わりに引き受けようと思ってね。そうだな。俺が負けたら、俺とこの特待生がお前の奴隷に。お前が負けたら、お前の奴隷を二人貰おう。つまりベッドを二倍にしようって話さ」
「ちょ、ちょっとあなた!いきなり現れてそんな急に変な事言わないでちょうだい!」
マヤが慌てて制止するが、お構い無し。実力差なら俺のほうが上。普通にやってまず負けはしない。
「ほぅ。お前が俺の奴隷にねぇ?いいだろう。そこの女の代わりに俺と戦え。負けたら奴隷になれよエズワルド!」




