3-タチャーナ
「では、私は夕飯の準備がありますので、荷物は一先ずこちらに置いておきますよ?」
屋敷に戻って来て、タチャーナはここまで顔色一つ変えずに運んできた岩塩を中庭に置くと、夕飯の準備へと向かった。
くそッ!タチャーナの見た目華奢なのに何でそんな悠々と運べるんだ!
「こうなったら筋トレで力を付けるしかないッ!」
タチャーナと比べた時の若干の劣等感を、雑貨屋に向かう時に決めていた筋トレへとぶつける。
筋トレといっても、ベンチプレスなどの器具はないので、必然的に自重トレーニングのみだ。
「しゃぁあ!オラァ!」
中庭に置かれた塩を放置したまま、ひたすら己の筋肉を苛め抜く事に没頭する。
とりあえず、腕立て伏せ1000回!……と言いたい所だったが、50を超えた辺りで段々と身体を上げられなくなった。
嘘だろ?エズワルドになった俺ってこんなに力ないのか?
「無理なトレーニングは身体に悪いですよ」
夕飯の支度に行ったはずのタチャーナが、気づいたら隣にいた。
「焦らなくても、大人になればエズ様の方が強くなりますよ。さ、それよりごはんにしましょう」
確かにそうかも知れないが……。納得しきれない感情を抱いたまま夕飯の席につく。
夕飯の場には、俺とタチャーナしかいない。そもそも、この屋敷自体に俺とタチャーナしかいないからな。
だからこそ、タチャーナは俺の世話係メイドとしてだけではなく、姉のような存在でもあり、そんなタチャーナに体力面で負けるというのは、プライドに関わるというか、そもそも――あぁ、もう!グワッ!
この考えは無し!四男の扱いは酷いって事で終わり!
そんな纏まりのない思考で、夕飯をかき込みそのまま自室へと向かう。
さて、ここからは理科の実験の時間だ。
岩塩とコショノ実を調合したら、この世界でも塩コショウがちゃんと作れるか確認する必要がある。
ゲームでは、一度『錬金術師』のジョブに転職して、調合のスキルを獲得しないと出来なかった。
が、あれやってる事はすり鉢でゴリゴリするだけだし、スキルなくても出来るんじゃ?って事で、今回は適当にすり鉢を用意してゴリゴリする。
用意したすり鉢に、中庭から持ってきたいい感じの岩塩の欠片とコショノ実をぶち込んで、ひたすらゴリゴリ、ゴリゴリ。
「何か体積増加してね?」
しばらく続けていると、どういう原理か理解不能だが、ゴリゴリするたびにどんどん量が増えていく。
気にせずにゴリゴリし続けると、やがて体積の膨張は収まった。
「えっと、これで成功したってことか?舐めれば分かるか」
出来た物体を指に取り、舌でペロッと舐める。
「……塩コショウや、これ。本当にこんなんで出来ちまったよ」
ゲームとはちょっと違うが、ゲームと同じ事が出来てしまったことに、思わず天を仰ぐ。
『錬金術師』のジョブも必要なく、ただ必要な物を混ぜたら本当に出来るなんて普通思わないじゃん。
「とりあえず、この作った塩コショウをどうにかしないとだな」
この無駄に量が増えた塩コショウを何とかするべく、厨房に向かって手頃な空き瓶を見繕う。
運がいいことに、ちょうど同じサイズの空き瓶がいくつかあったので、それを使うことにした。
「さてと、これで金策の第一歩は無事成功だな。あとはこれをどうにかして売り捌くだけだ」
結構な量になった塩コショウを瓶詰めして、一段落する。
この塩コショウを無事に売り捌ければ、金策は成功だ。
今の状態のままだと、1万500スート使って、大量の岩塩と謎の塩コショウを手に入れただけで、ただお金を失っただけになってしまうからな。