37-王墓の大迷宮
早朝の空が白み始める頃。
いつものように起きて、戦闘の鍛錬を行う。
今日の鍛錬は、いつもとは少し違う。
いつもより、入念にイメージトレーニングを行ってから、剣の素振りに移行する。
「ふっ! ふっ!」
剣を振るうたびに、汗が飛び散る。
だが、そんなことは気にしない。
ただ無心で、一心不乱に剣を振るう。
「ふぅ……」
素振りを終えた俺は、昨日の事を思い出していた。
「ダンジョンか……。まだ、学園の授業が始まるまで時間があるし、今から行くのもありだな」
昨日は流石に疲れていたから、リュボフと一緒に行くことはしなかった。
だが、行きたいとは王都に来た時から思っていた。
なので、学園に行く前に行っておこう。
「そうと決まれば、準備をしないとな」
鍛錬でかいた汗をタオルで拭く。
そして、服を着替えて装具を纏い、リグニッキャで冒険者として活動していた姿になる。
「よし、こんなものでいいか」
準備を終えた俺は家を出た。
向かうのは、学園ではなくもちろんダンジョンだ。
「さてと……」
ダンジョンは王都の北の外れ。城壁で隔てられた内側に存在する。
ダンジョンはこの世界に無数に存在し、ダンジョン内全てが湧き点であり、あちらこちらから魔物が出てくる。
そんなダンジョンは、ダンジョン内部から様々な宝やダンジョン内の魔物から取れる資源で、ヌワルリェスと並ぶ国を支える重要な地となっている。
王都のダンジョンは、俺はただ単にダンジョンと呼んでるが、正式な名前は王墓の大迷宮といい、元々は王家の誰かの墓だったみたいだが、ある日突然ダンジョン化。
内部の構造が見る見る変わり大迷宮となった。
なので、王墓の大迷宮は城壁の内側にあり、王家が管理している。
「止まれ。ここから先は王墓の大迷宮である。中に入るなら、身分証の提示と通行料を支払え」
ダンジョンの入り口には、見張りの兵士が二人いた。
二人の兵士は槍を構えて、俺を静止した。そして、右の兵士が、通行料と身分証の提示を求めてきた。
「通行料はいくらだ?」
「大銀貨一枚だ。ただし、Dランク冒険者以上は無料だ」
「なら、無料で通してもらえるかな?」
ポケットからギルドカードを取り出し、兵士に見せる。
「Dランクなのか。意外だな?通っていいぞ」
兵士はそのギルドカードを、ジロジロと念入り見た後、興味を無くしたように言った。
見張りの兵士の横を通ってダンジョンへと入る。
王墓の大迷宮の入り口は下へ続く階段となっており、下へ下へと向かう構造になっている。
その最終階層は地下100階である。
「ゲームと違って結構暗いな」
ダンジョンの中は薄暗かった。しかし、壁が謎に光っており、意外と周囲は見える。
だがそれは、頑張れば見えるというレベルであり、薄暗いのには変わりない。
「灯りくらいは、準備して持ってくるべきだったかもな」
今更、後悔したところで全てはあとの祭り。次に来る時はちゃんと準備して持ってこよう。
気持ちを切り替えて、薄暗いダンジョンの中を、ある場所を目指して慎重に歩いていく。
目指している場所は、このダンジョンの隠し部屋で、まだ誰にも見つかってない所だ。
その隠し部屋には、成長率に補正をかけてくれる『始祖の指輪』がある。
序盤にそれが手に入れられれば、かなり強くなれる。
「ッッ!! 厄介だな。ゴブリンと出くわすか」
隠し部屋を目指して歩き始めて、しばらく経った時。
背中側から嫌な気配がして振り向いた。
するとそこには、手にこん棒を携えた、RPGではお馴染みのモンスターであるゴブリンがいた。
その数は三体である。
「戦うしかないか……。あんまり時間ないんだけどなぁ」
戦闘を避けようにも、通路が狭く、すでにゴブリンに見つかってる状態では厳しかった。
このまま無視して走り去ってもいいが、他の魔物に出会わないという保証はどこにも無い。
王都の中にあるダンジョンとはいえ、ダンジョンはダンジョンなのだ。
危険性は何も変わらない。命を落とす機会は誰にでも平等に訪れる。
(ま、それは今じゃない)
ゴブリン3体に遅れをとる事はない。
逆に今までの鍛錬の成果をこいつらで試してやろう。
ゴブリンは、対人戦を想定した相手として丁度いいしな。
「ふっ!」
勢いよく前に踏み込んで、ゴブリン達との距離を一瞬で詰めて、剣を振り抜く。
一瞬の出来事に、ゴブリンは対応できず、首を刈り取られる。
『グギャァァァ!! 』と断末魔を上げ、首を失ったゴブリンは事切れる。
「まずは、一体!」
そのまま身体を捻り、その力を使って、左にいたゴブリンの首も刈り取る。
「グギャ!グギャ!グギャギャギャギャァアアア!」
最後に生き残ったゴブリンが、ようやく何をされたのか理解して怒り狂うが、もう遅い。
剣を振り上げ、叩き斬ってお仲間の元に送り届ける。
一分も経たず、全てのゴブリンを倒し終えた。
そして、今回の戦闘では、身体強化は使っていない。つまり、素の力だけで、ここまで戦えるようになった。
「よしっと」
剣をしまって、足早にその場を去る。
さっさと隠し部屋に行って帰らないと。




