30-父との交渉
「はぁああッ!」
「まだまだ狙いが甘いっすね」
練習用の木刀を構え、ティボーの首筋を狙いに行くが、その目論見は失敗する。
ティボーはあっさりと俺の攻撃を木刀で受け止める。
その瞬間に手からビリビリとした感覚が伝わってくる。そのせいで木刀を持ってるだけで精一杯だ。
ティボーの放つ一撃はその見た目以上に重い。どうやったらそんな事が出来るか不思議である。
「攻撃ってのはこうやるんすよ!」
俺の攻撃を利用してティボーがそのまま攻撃をして来る。今度は俺が受け手の番だ。
なんとか体勢を立て直し木刀を構え直すが、その時にはすでに手遅れであった。
ティボーとの間合いは近すぎて、ここから回避行動がとれない上に、ティボーは木刀を上段に構えて攻撃の準備を終えている。
その攻撃を致命傷を避けるべく、木刀を構えて受け止める。
しかし、その抵抗むなしく、木刀ごと叩き折られて、地面へと叩き潰される。
「くそッ!またダメだった」
「エズ様はその歳にしては強いっすけど、狙いがバレバレっすね。俊敏さに秀でてるわけでもないから、狙いがバレバレだと今みたいにすぐ対策されるっすよ」
「わかってるが、そう簡単に上手くいかないさ。さて、もう一回だもう一回!」
「ご主人!もうボク飽きたのだ!」
ティボーに再戦を申し込むが、模擬戦をずっと眺めていたリュボフがくっついてくる。
そして、タチャーナもいつの間にかタオルを持って横に来ていた。
「リュボフがこうなったから、もう終わりの合図っすね。また今度っす。それに今日は大事な用事があるはずっすよ?」
最近の朝のルーティンは、ティボーと模擬戦を行いそれに飽きたリュボフに止められるというのを繰り返している。
リュボフに止められないと永遠とやり続けてしまうからな。
それに今日は父との話がある大事な日だ。
「そうだな。着替えて向かうとするか。リュボフは留守番な」
「 え〜!つまんないのだ!」
「と行っても今日は連れてくわけにはいかないからな。それじゃ後は頼んだタチャーナ」
俺は素早く着替えを済ませ、家をタチャーナ達に任せて、ティボーと共に本邸へと向かう。
「久しぶりだな」
「ええ。久しぶりですね父上。ポヴァジェニの一件以来でしょうか?」
父とはリュボフが攫われたポヴァジェニの一件以来に会う。あの時は大変だったな。
「そうだな。最近もお前が冒険者の真似事をしてるのは知っていたが、よもや本当に学園に通いたいとはな」
このリグニッキャの領主である父の元には様々な情報が入ってくる。勿論、俺のこともだ。
そして、俺はついこの間学園に対して入学の申請をした。貴族である俺は勿論すぐに許可されたのだが、その手紙が何の間違いか本邸に届き、父に知られた。
今日はその件に関して呼び出されたのだ。
「許可して頂けますね?学園で必要な資金なら僕の方で既に稼ぎました」
その言葉で父は表情を固くする。
ま、俺の中では答えが決まっている。許可されようがされまいが、学園には行く。
なぜなら、リグニッキャは何らかの原因で滅びるからだ。
「出来ればお前にはこの街に居てほしいのだが」
「それは何故です?今までの行動に干渉してこなかったのに街を出ることには反対なのですか?」
「お前に聖別がないからだ」
「またその話ですか……。ならば、リグニッキャの名を捨てましょうか?そうすれば迷惑はかからないでしょう」
「そういうわけではない。そういうわけではないのだ」
父はそう言ってまた難しい表情をする。
あまり、父と会話をしてこなかったせいでどうにもすれ違いを感じる。
「仕方ない……。お前の意思は固いのだろう。許可しよう。そうしないと出奔しそうだ。はぁ。お前はリグニッキャ伯爵の四男として学園に行くのだ。いいな?」
数分の後に父が最終的に折れた。
父の中でどういう葛藤があったか知らないが、これで無事に学園に行くことが出来る!
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