26-どこにいる?
「てめぇらどっから現れ……」
――ザシュッ
「敵多いすねぇ」
俺達はヌワルリェスで見つけたポヴァジェニの拠点を襲撃している最中だ。
拠点から現れる敵をティボーが鼻歌混じりに次々と無慈悲に命を刈り取っていく。
「よくもそんなに淡々と倒せるな」
「まぁ、殺さなきゃこっちが殺られるだけっすからね。エズ様も躊躇わない事すよ」
「その点についてはわかってる」
リュボフを奪われる事になった時に理解したからな。
あのタラースとか名乗ったクソ野郎……。ここに居るんだろ?今度は躊躇なしに殺してやる。
復讐の決意をして、足早に敵の拠点を駆けていく。リュボフは何処にいるんだ!
「これはちょっと不味いかもっすよ。エズ様」
入り組んで複雑な拠点を進んでいるうちに敵に包囲されてしまった。
どうやら、まんまと誘き出されたらしい。
「くそッ!嵌められたな」
リュボフの居場所を早く突き止めたいという焦りを利用されたのかもしれない。
しかし、今はそんな事を気にしている場合じゃない。一先ず、目の前の脅威に対処しなければ。
敵の数は10名程度。奇しくもリュボフを奪われたときと同じような数だ。
だが、今回はティボーもいるからそう簡単に負けはしない。
「どこのどいつだか知らねぇが!てめぇら俺らが誰かわかってんのか!?えぇ?!」
「勿論だとも――「勿論知ってるすよ。ポヴァジェニのクソヤロー共。散々煮え湯を飲ませてくれたっすね」
俺が言葉を発する前にティボーが食い気味で相手に返答する。その事に対して驚いた。
まさか、こいつらの事をティボーが知ってるとは。
「てぃ、ティボー?」
「あんたらが度々うちで暴れるせいで、貴重な休みを潰されんすよ!ふざけやがって!絶対に許さないっす!」
「チッ……。リグニッキャ伯の差し金かッ」
「滅んでもらうっすよ」
ティボーが剣を構えて突撃する。
おいおいおい!こいつ、俺の支援兼護衛で来たんじゃないのかよ!完全に私怨で突撃してんだけど!?
「ティボー!目的を忘れてもらっちゃ困るぞ!」
ティボーの突撃を合図に戦闘が始まり、突っ込んできた敵の対応をする。
ティボーの戦闘力の高さは舌を巻くものがあり、既に二人殺してるみたいだ。
「わかってるっすよ!こいつらを殺った後、運悪く生き残った奴を拷問して聞き出せばいいだけっす!」
えぇ……。この人考え方がヤバすぎないか?なんでそうも非情になれるの?休日潰されたのがそんなに頭にきたの?
ってそんな無駄なことを考えている余裕はない。なぜなら、相対している敵が強いからだ。
俺も一人殺ったところで相対した顔を隠したこの敵と実力が拮抗しており、気を抜いたら殺られる。
どうする?いい手段が思いつかない。
この間にもティボーは次々と敵を殺戮していく。殆どの敵はティボーを止めるべく、彼の下に行った。
完全にこの敵とワン・オン・ワンだ。
「くそったれ!二人だけで来て舐められたものだと思ったが、こいつの戦闘力イカれてやがる!」
「残りはあんたともう一人だけっすね。死んでもらうっすよ」
いつの間にか敵は最初にペラペラ喋っていた男と俺が相手をしている敵だけになった。
「どうやら、お仲間は俺の連れが全部殺したらしい。俺の目的はリュボフを取り戻す事だから、ここで降参するなら命までは取らないぞ?」
その言葉に対して敵がとった行動は突撃であった。剣で突いてくる動きをいなしつつ、サイドステップで躱す。
「甘さは捨てるっすよ!」
「おっとガキの心配をしてる場合か?」
またやってしまった。ティボーの相手も中々強いみたいだ。甘さを捨てなければ……。じゃないと目的は達成出来ないッ!
剣を構え突撃する。――とその瞬間だ。魔力切れを起こして身体強化の効果が切れる。
その影響で身体がよろめき、相手の攻撃を頭の数ミリ上で運良く避けて、剣を相手の肩に突き刺してそのまま倒れ込む。
――ムニュッ
倒れ込んだ拍子で敵の胸に手をついたが、手から柔らかい触感が伝わる。
こいつ!女なのか!まったく気づかなかった!
「ぐがッ!まさ、か!お……れさま、が!まけ……る、とはッ!」
こっちでハプニングが起きている間にティボーの方は勝利したようだ。
「さぁ、生き残りはあんただけみたいっすね。聞きたい事がいっ〜ぱい!あるから、大人しくするっす」
勝利してそのまま駆け寄ってきたティボーが、抵抗しようとする女の手に剣を突き刺し、反撃能力を奪う。
うわっ……。この人やっぱりエグいわ。




