25-ヌワルリェス
「どうして、ヌワルリェスだと思ったんすか?」
空が白みはじめる前。まだ周りが薄暗い中、屋敷を出て闇夜に紛れながらヌワルリェスへと来ていた。
リュボフを確実に取り戻す為に、戦力としてティボーにも来てもらっていた。
そんな一緒に来ていたティボーが、何故ヌワルリェスにポヴァジェニが潜伏してると思ったか聞いてくる。
「簡単な計算だよ」
というのは嘘だ。ゲームの知識としてここに盗賊の根城が存在してる事を知っているだけだ。
オープンワールドだったので、ゲームの世界を隅々まで探検した経験がここで活きた。
「計算すか?」
「そう。俺が襲われた地点と、ギルドで小耳に挟んだ奴らが襲撃してた場所から同じ距離にあるのがここだった」
「そうなんすか」
口らから出たでまかせでティボーが納得する。
よかった。これで納得してくれなかったら、説明のしようがなかったからな。
「エズ様……」
「ああ。どうやら当たりみたいだな」
この場に似つかわしくない不自然な人工物。それに火の灯りが見える。
中からは人の話し声が聞こえてくる。
間違いない。ここが奴らの根城のようだ。
「でも、ここにリュボフが居るとは限らないすよね?その点はどうするんすか?」
確かにこの点はティボーの言う通りである。
ポヴァジェニの盗賊共が根城にしているのはここだが、リュボフがここに居るとは限らない。
すでにリグニッキャを去ったあとかもしれない。
だが、そんな可能性関係ない。
そんな事に悩んでいる暇などない。俺は無性にむしゃくしゃしているのだ。
そう、こいつらで八つ当たりするだけだ。
それにここにリュボフが居ると思った方が精神的にいい。
「いるいないは関係ない。とにかく、こいつらを全員血祭りに上げる」
「……一体いつからそんなバーサーカーになったんすか?で、そういうって事はプランはあるんすよね?」
「プラン?そんなものはない。闇夜に紛れて正面突破だ」
「それはプランとは言わないっす」
「ティボーが入れば余裕だろ?」
「それは流石に買い被り過ぎっすよ。はぁ、これが終わったら酒でも奢ってくださいね」
「ああ、奢る奢る。全てが無事に終わればな。それじゃ行くぞ『身体強化』!」
身体強化をかけて闇夜に紛れ、見張りをティボーと共に強襲する。
前回のことを反省して、俺は甘さを捨てた。
始めから首筋を狙い必死の一撃を与える。元々兵士のティボーは俺よりも筋よく殺している。
悲鳴を上げる暇さえなく、盗賊が地面へと崩れ落ちる。
……嫌な感触だ。殺人とは余り気分のいいものではないな。
「さて、行くとしますかねエズ様?」
「ああ、そうだな」
あたりが明るくなって来たと同時に俺達はリュボフ奪還に動き出した。




