21-負けられない戦い
「我が身を解放せよ『身体強化』」
身体強化魔法を使って、身体能力と感覚を引き上げる。
これで、大人数相手でも遅れをとることはない。
「魔法を使えるのか……。こちらの情報にはなかった事だ。だが、お前の敗北という結果は変わらない」
「どうかなッ!」
一番近くにいた目の前の男を斬りつける。
しかし、その攻撃はあっさりと躱され、逆に強烈なボディーブローが飛んでくる。
なんとか体制を変え、剣で攻撃を受け止める。
「俺が相手にする程じゃない。あとはお前達で殺れ」
リーダー格の男はそう言って身を引く。代わりに周りの敵が距離を詰めて襲い掛かってくる。
「くたばりな!」
「ちッ!そう簡単にくらうかッ!」
横から剣の突き上げで襲い掛かられるが、防御の姿勢をとり、どうにかそれに反応する。
だが、攻撃は終わらず次々と斬撃が襲ってくる。
なんとか攻撃を追い払っているが、一撃また一撃とこちらの守りが崩されていく。
くそッ!まだだ!もっともっとだッ!限界を超えろ!
研ぎ澄まされた感覚で、相手の一挙手一投足を追う。相手の攻撃のタイミングに上手く剣を合わせて、受け止めながらそのまま攻撃を繰り出す。
「ぐあッ!」
よし!上手く相手に攻撃を加える事が出来た。
相手は浅くしかくらってないが、その程度でも一瞬の隙ができる。この好機をモノにするッ!
一歩踏み込んで、剣を振りかぶる。
「このクソガキが!」
横から別の奴が振るった剣が頬を掠める。血が頬からツゥーッと流れ出るが気にしない。
そのまま剣を振り抜く。
「ぐぎぃ……!」
一人目だ。目の前の敵の肩から腹部にかけて切り裂き、傷をつけることに成功する。
今度は深手を負わせられた。相手は、剣を落とし戦闘不能の状態だ。
「ふぅ……ふぅ……ふぅ」
緊張から息が上がる。鼓動は激しく早鐘を打っている。
……この疲労度でまだ一人目だ。敵は何人も残ってる。
雨がまた強くなってきた。
汗と服から垂れ落ちた水で剣の柄が滑る。再度、剣をしっかりと握りしめて敵と相対する。
「お前ら、あまり時間をかけるな。素早く目標だけ奪取しろ。無理にそこの小僧を倒そうとするな」
リーダー格の男が痺れを切らして指令を下す。
それによって敵の動きが変わる。今までは、俺を排除する動きだったのが、リュボフを狙う動きに変わった。
「リュボフに近づくなッ!」
「ご主人!」
リュボフに近づこうとする敵を、一人ずつ剣で殴りつける。
……魔力の限界が近い。身体強化で常時魔力を消費しているせいだ。魔力が切れたら、戦闘力が落ちる。
長引く戦闘のせいで体力も限界に近かった。
「ご主人!ご主人!頑張るのだ!」
「ああ。頑張ってやるよ。だから、こっちに近づかないで離れていろよ」
強まる雨の様に敵の攻撃もより熾烈になる。
それを一人ずつ地面へと叩き潰していく。その行動にもはや感情はない。
物語の英雄が憑依したかのように、怒りの一撃をくらわせていく。
「結構頑張るじゃねぇか。小僧」
行動可能な敵の数を半数に減らしたところで、リーダー格の男が声をかけてきた。
「だが、そろそろ限界じゃねぇか?」
「勝手に決めつけんなよッ!誰が限界だって!?」
「ふん。粋がるのはいいが、結果が伴わなければ意味がないぜ」
それとともにリーダー格の男が、目の前に飛び出て再度攻撃を仕掛けてきた!
咄嗟に剣で受け止める。が、重い一撃に体制を崩される。
「小僧。お前、人を殺したことがないだろ?」
「だったらなんだよッ!」
どうにか攻撃を捌き、後ろにバックステップを決めて間合いをとる。
「その甘さが戦場では命取りなんだよ。何が何でも守りたいモノがあるなら覚悟を決めるべきだったな」
その時、急に足を取られ引っ張られる。
下を見ると先ほど戦闘不能にした男の一人が、血を垂れ流しながら、俺の足にしがみついていた。
そのせいで体制を崩され、その隙に腹部を強打される。
追撃に剣の柄で頭を強打されて、意識を刈り取られる。
「りゅ、ボフ……に、手を……だす、なッ!」
「残念だったな小僧。これはお前の甘さが招いた結果だ。じゃ、イヌっころは貰っていくぞ」
朦朧とする意識の中、最後に見た光景はリュボフを連れ去る男の姿だった……。
「そうだ。敗者に俺の名前を教えておこう。俺はタラース。動乱をもたらすものだ。じゃあな」
俺は負けられない戦いに負けたのだ。
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