20- 接敵
完全に囲まれた。背後は岩壁であり、逃げ場はない。
あれだけ強烈に降り続いていた雨の勢いが、段々と弱くなって小雨になっていく。
それによって視界が開け、相手の風貌と規模がわかる。
相手は10数名。それぞれが好みの武器で武装しており、まったく統一感がない。
装いもそれぞれバラバラの格好だ。だが、リーダー格と思しきものとその脇の二人は同じ格好をしている。
この間にも相手はジリ、ジリっと包囲網を狭めている。
相手との距離が、踏み込めば殺れる距離になったところで、リーダー格と思っていた男が歩み出てきた。
「おい、小僧。そこのイヌをこちらによこせ。そうすれば悪いようにはしない」
「大人しく言う事を聞くとでも?」
マグロの解体で使ったショートソードを握りしめる。緊張で手が汗で滲んで来るのがわかる。
……覚悟を決める必要がありそうだ。
「渡すさ」
まるでそれが決定事項かの様に、目の前の男は淡々と喋る。
いつの間にか周りの奴らも武器を構えてこちらをいつでも殺れるとアピールをしている。
そんな脅しで、リュボフを渡してたまるかよッ!
「お前ら俺に手を出したらどうなるかわかってんのか?」
「ああ、理解してるさ。エズワルド・ズ・リグニッキャ。この地の伯爵のご子息さんよ。祝福無きし者、神に見放されしリグニッキャの恥部。ジョブ無しの出来損ないさんよ」
「…………何故、お前がそれを知っている?」
「さてね?」
……俺がジョブを保有してないのは、一部の人間以外は知らないはず……なんで知ってるんだ?
これはどこかにねずみがいそうな気配が。
それよりも、だ。これを普通に知っているならば、こいつらをここで生かして返すわけにはいかなくなった。
それにこいつの狙いがリュボフなら、戦闘は避けられない!
「リュボフ、下がってろよ」
「わ、わかったのだ!ご主人!」
リュボフが下がったのを確認して、武器を抜き放つ。
「さて、お前らの依頼主は誰だ」
「おいおい、俺がそんな簡単に依頼主を裏切る男に見えっか?何一つ喋る気はねぇよ」
「なら、直接喋らせるまでッ!」
「おいおい。小僧、実力差ってのを理解してっか?一人で俺ら全部をやれると思ってんのか?」
「だったら?」
……対人戦はゲームならしたことがある。だが、現実ではない。
自分に対して悪意を持っている敵に囲まれ、殺意を向けられるなんて経験は、前世にもなかった。
「愚か者だな」
それとともに敵が襲ってくる。
……果たしてはじめての対人戦で、俺はどこまでやれるのか?
しかし、そんな事どうでもいい。リュボフを渡すものか。それと奴らは触れてはいけないことに触れた。
必ずここで殺る。
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