163-ほんのちょっとの差
「いきなり派手に来るっすね」
ティボーはその言葉と裏腹に、涼しい顔で楽々とライトニングショットを避ける。
避けたのと同時に、体を捻って体勢を立て直し、俺めがけて距離を縮めようとしてくる。
「悪いが、そうはさせねぇよ!」
ティボーの俺を狙った一撃を、ルシュキーが間に割って入って受け止める。
剣と剣が交差し、ティボーの重い一撃でルシュキーの体勢が崩れる。
その隙をティボーは決して見逃さず、正確かつ素早い一撃をルシュキーの鳩尾を狙って繰り出す。
だが、その動きは読んでいた!
「ルシュキー!仰け反れ!」
「くッ!全く!エズはいつも無茶ばっか言いやがる!」
悪態をつきながらも、しっかりとバックステップでティボーの一撃を寸でのところで避ける。
「あとは任せろ!『ファイヤウォール』!」
「中々いい連携っすね。相当、場数を踏んできたのが伝わって来るっすよ」
ファイヤウォールでティボーと俺達を分断して、距離と時間を稼ぐ。
この貴重な時間に体勢を再度整える。
しかし、炎の壁の揺らめきの向こうでは、相変わらず余裕の表情を浮かべているティボーが、模擬刀をくるくると回しながら待ち構えている。
「エズ……」
「分かってる。気引き締めて行くぞ。それじゃ、前は頼んだぞ」
「全く!人使いが荒いな相変わらず」
愚痴を零しながらも、消えゆく炎を前にして、ぐっと剣を握りしめてティボーに対峙する。
その表情からは明らかな緊張が伝わってくる。
永遠に感じる数秒の時を経て、小さな炎の揺らめきが消える。
「よく出来てるチームっすね。これで回復役と前衛がもう一人居たら申し分ないパーティーの完成っすね」
「お世辞をどうも」
「本心っすよ?ホントにいいチームだと思うっすよ。けどそれは低級の対魔物相手ならって話っすけどね」
その瞬間、一気にティボーがルシュキーとの距離を縮め、身体を捻り自身の体重を乗せた重い一撃を上段より放つ。
「ルシュキーッ!」
「ぐッ!」
咄嗟の反射で剣で一撃を受け止めたルシュキーだが、ティボーの攻撃は剣を粉砕して、一撃をルシュキーに喰らわす。
「いいチームだからこそ、大人としてエズ様達を粉砕させて貰うっすよ。じゃないとこの先足元を救われるっすからね」
その言葉と共に、今度は素早い刺突を俺めがけて繰り出す。
「くッ!『フィジカルブースト』!残念だが、俺はただの魔法職とは違うぞ!」
フィジカルブーストで身体能力を上げて、ティボーの刺突を避ける。
そのまま懐へと潜り込み、下段から顔へと向けてショートソードを振り払う。
「甘いっすよ」
俺の一撃はティボーの頬を掠めるのみだった。
だが、ここで反撃を許す理由にはいかない!
「『ライトニングショット』!」
「その技はもう一回見たっすよ」
ティボーの後方から出現させたライトニングショットは、まるで予期してたかの様に避けられる。
そして直ぐにティボーは体勢を整える。
「おいおい、俺を忘れて貰っちゃ困るぞッと!」
一撃を喰らってノックダウンされたはずのルシュキーが、ティボーの後方から脳天に一撃を喰らわす。
その一撃を受けてティボーが少しよろめき、ティボーがようやく余裕の表情から、驚愕の表情に変わった。
「遅いんだよ、助けが!」
「こりゃ驚いたっす。まさか、あそこからこれだけの一撃を放てるとは。でも、結果は変わらないっす」
そう言うとティボーは持っていた剣をルシュキーの胸に投擲して、自分は俺めがけて詰め寄ってくる。
その間、ひょいとしゃがんで地面の土を掴むと、それを撒き散らす。
その土が目に入り、つい目を瞑って隙が生まれてしまった。その瞬間にティボーが俺の胸ぐらを掴んで投げ飛ばす。
「これで俺の勝ちっすね」
「ぐほッ!ゲホッゲホッッ!汚いぞティボー!」
「何を言ってるんすか?バーリトゥードって言ったのはエズ様っすよ?それに殺し合いに汚いもクソもないっす」