14-冒険者ギルド
次の日の朝、空が白みはじめる頃。
まだ薄暗い中、日課のトレーニングを実施する。身体はかなり仕上がってきている。これならある程度のクエストもこなせるだろう。
日課のトレーニングを終え部屋に戻り、タチャーナが用意してくれたお湯で身体の汗を拭う。
その後、軽くストレッチをして身体をほぐす。
山羊のミルクを飲み干して朝のルーティンを終える。
「ご主人!早く支度するのだ!」
部屋にリュボフが突撃してきた。
「もうそんな時間か」
今日はギルドに登録に行くので、いつもの服装の上に厚手のコートを羽織る。
急かされながら支度を終えて部屋を出る。
「じゃ、ギルドに行ってくるから、その間屋敷を頼むよ」
「のだ!」
「はい。留守の間の屋敷の安全は、私に任せてください。リュボフ、エズ様の安全はあなたが守るんですよ?」
「わかってるのだ!ご主人はボクが守るのだ!」
「心配性だな〜。リュボフに守られなくても平気だよ」
心配性なタチャーナを見送って屋敷をあとにする。
今日のリグニッキャは久しぶりに天気がよく、雲の合間から日が照っている。
だが、相変わらず寒さが厳しく、吐く息が白い。
「うぅ……。ご主人くっつき過ぎなのだ!歩きにくいのだ!」
「ま、そう言わずに。寒いから温まらせてよ」
寒さが厳しいので、隣にいるあったか生物に密着する。あったか生物のリュボフは心底迷惑そうにしているが、そのままギルドまでの道を歩む。
しばらく進むと、道幅が大きくなり、木組みで出来た四階建ての大きな建物が見えてくる。
『ギルド』
誰が見てもわかりやすいように、ギルドの建物上面に書かれた文字。この建物が冒険者ギルドである。
建物一階部分は酒場となっており、この朝の時間には営業しておらず、人はいない。
階段を上り、ギルドの受付がある二階に行く。
二階に来ると、朝のこの時間帯でも結構な人で賑わっていた。
ある者はクエストボードの前で屯して依頼を吟味しており、ある者は同業と情報交換をしている。
そしてまたある者は、受付の奥で山積みの書類と格闘していたり、受付でクエストを受注していたりする。
そんな活気あふれる中を縫うように進み、奥にある受付カウンターへと向かう。
「登録に来たのだ!」
受付につくと、俺が話す前に、勇み足のリュボフが勢いよく声をかける。
「はい。冒険者の登録ですね?お二人ともですか?」
「いや――」
登録に来たのは俺だけなので、否定しようとしたがある考えが脳裏によぎった。
『リュボフも冒険者にした方が、行動の幅が広がるんだから別によくね?』と。
なので、このままリュボフも冒険者登録する事にした。なぜか知らんが本人もやる気みたいだし。
「 ああ、そうだ。二人ともだ」
「かしこまりました。では、こちらの書類に記入をお願いします。あちらの机で書いて頂いて、書き終わったら再度こちらにお持ちください」
差し出された書類を受け取って机で記入する。
書類には名前、年齢、職業、種族の欄がある。これらを適当に埋めていく。
しかし、職業――ジョブか……。
俺はこの世界の住人なら誰しもが持っているジョブがない。つまり、この欄には何も記入できないのだ。
う〜む。適当に剣士とか書いとくか。
適当に書いても多分バレないだろう。
「ごしゅじ〜ん」
自分のを書き終わると、書類を持ったリュボフが涙目でこちらを見つめていた。
「なんて書いてあるか、わかんないのだ!」
「なら、俺が代わりに書くよ」
リュボフから書類を受け取って、代わりに俺が書くことにする。
そうだよな。俺は貴族だから読み書き出来るけど大半の人は出来ないもんな。
じゃ大半の冒険者はどうしてんだ?
ゲームじゃそもそもこんなことした覚えないし、学園に通ってたから読み書き程度出来ただろうしな。
ま、いいや。えっと、名前はリュボフで年齢は10?種族は獣人として職業は……。
「リュボフって、自分のジョブが何かわかる?」
「ジョブ?ジョブって一体なんなのだ?」
あ〜。リュボフはこの王国含めた西方世界の慣習と馴染みがないのか。
この世界の住人は、幼少の頃に教会で自分のジョブが分かるのだが、おそらく教会に行ったこともないのだろう。
う〜む。どうしたものか。
ここはリュボフも適当に書くか。
「ちなみにリュボフは戦う時どうしてるの?」
「戦うときか?戦うときは引っ掻いたり噛みついたりするのだ!」
うん。よくわからなかったが、得物は使わないなら拳闘士でいいだろう。
あとモンスターに噛みつくのはやめようね。
書き終えた書類を再度受付に持っていく。
「はい。ありがとうございます。……ズ・リグニッキャ?もしかして、伯爵様にご関係のある方ですか?」
書類を受け取った受付は、書かれた名前をみてこちらが貴族――しかもこの街の伯爵の関係者だと気づいた。
「ま、一応息子だけど」
面倒なことになったら嫌だな。これならエズワルドとだけ書くんだったか。
「そうですか。貴族――それもこの街の伯爵様のご子息様であろうと、冒険者登録を行うなら、冒険者の掟に従ってもらいますがよろしいでしょうか?」
「ああ。別に構わない」
「そうですか。でしたら、このまま手続きを進めさせてもらいます」
受付が書類を持って奥に行ってしばらくすると、銀の大皿に二枚のカードを置いて帰ってきた。
「こちらがギルドカードになります。必要ないかと思いますが、身分証明としても使えます」
ギルドカードはステンレスの様な見た目の金属で、クレジットカードみたいな見た目をしている。
「魔道具としての機能の為に、最後に血を一滴カードの窪みにお願いします」
受付から差し出された針のついた台座で、人差し指を刺し血を出す。
そして、カードの右下の窪みに置くと血が吸い取られた。
「はい。ありがとうございます。これでカードに魔力が記録されましたので、固有の物として判別されます。再発行手数料は金貨一枚になりますので、くれぐれも無くさないように気をつけてください」
受け取ったギルドカードには固有の番号と名前と現在の冒険者ランクが書かれていた。
てか、これの再発行手数料は金貨一枚もすんのかよ。
「登録はこれで以上になりますが、冒険者についてのご説明は必要でしょうか?」
「いや、要らないです」
冒険者の説明ならゲームで散々聞いたからな。
当然、スキップだ!スキップ!チュートリアルなぞ何度もやってられるか!
「そうですか。説明の代わりに冒険者のしおりを差し上げますので、何かわからないことがあればご覧ください。それではこれで以上になります」
冒険者のしおりを受け取って、受付をあとにする。
さて、せっかくだしこのままクエスト受けようかな!
読んで頂きまして、ありがとうございます。
続きが読みたいと思ってくださる方は、ブックマークしてもらうと励みになるので、よろしくお願いします。
また、ポイント貰えると嬉しいです。