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「殴るってそんな無謀な!」
「無謀だろうがやるしかないんだよ!」
ショートソードを握りしめ、未だ目の前に鎮座する魔結晶――アンチヴィーネに殴りかかる。
俺が殴りかかるより前に動き始めていたリュボフが、魔結晶に対して攻撃を行う。
――ガキンッ!
「くっ!」
万物を拒むように、固く鈍い音が辺りに響き渡る。
攻撃が加えられた魔結晶はびくともせず、破片さえ出てこない。
「ほら!だから言ったんだ!俺達じゃどうこう出来る様な状態じゃない!辺りの安全は確保したんだ!ここは一度街へ引き返して応援を呼ぼう」
遅れて後方にいるルシュキーが日和った事を口走る。
確かに言ってる事は正論だ。
すでにこの件は俺達の手に負える範囲を超えており、しかも依頼の内容自体は終えてるし、破壊まで行う義理もないのは確かだ。
しかし、それとこれとは別である。
当初はマヤの父であるナスタジョにハメられた思いが強く、そこそこで切り上げてシュトルツァを去るつもりだった。
だが、魔結晶を見つけてそこにいた元凶は因縁のタラースだった。
タラースには体よく逃げられ魔結晶だけが残った。
その時点で逃げるなんて選択肢俺にはないんだよ。
そうだよこれは私怨だよ。待たしてもタラースにしてやられて手も足も出ない怒りの八つ当たりだよ。
だからこそ!奴の目論見の塊であるこいつはここで破壊する。
――ガキンッ!
俺は怒りに身を任せてショートソードを亀裂に差し込む。
「ルシュキー!お前それでもギャンブラーか!ギャンブラーならこういう一面こそ一か八かだろ!」
怒りに身を任せたショートソードは亀裂に突き刺さるが、魔結晶を破壊するまでには至らない。
「ちッ!これが成功したら、領主にたんまりと追加報酬を請求しろよ!」
「ああ、任せろ」
その言葉を聞くとルシュキーはニヤッと笑みを見せて、自分の獲物を握りしめ、魔結晶を叩きつける。
それとともに、ショートソードが楔の役目を果たしたのもデカいのか、魔結晶の亀裂が拡大していく。
そして遂に魔結晶の亀裂は深刻なまで進行し、自重に耐えきれなくなって轟音とともに崩壊した。
は〜さっすがこのゲーム最強格の一撃だね〜。
と謎の関心を覚えた。