9-ネコを拾い、イヌの少女を貰う
面倒なので、塩はこのまま中庭に放置する事にした。
いずれ使い道が来たときに何とかしよう。
ズノイモまでの慣れない長旅で疲れ切った。
これから数日は、前みたいに屋敷に引きこもって本でも読んでいよう。
元々、転生する前から俺は引きこもり気質なのだ。
それから数日間は、地道に複製魔法で大銀貨を複製しつつ、本でこの世界についての情報収集を行った。
だが、引きこもり生活は長く続かなかった。
「エズ様。あまり苦言を言いたくありませんが、お部屋にばかりいると健康を害します。少しは外に出てください」
「え〜。面倒だ――」
「なら、中庭の片付けでもしますか?」
「あ、ちょっと散歩に行ってくるから留守は任せるね!」
タチャーナに詰め寄られる前に、そそくさと支度をして外へと逃げ出す。
塩の後片付けをするくらいなら、外に行くほうがマシだ!
家から逃げ出して街の郊外を目的もなく歩く。
父の統治能力は優れていて、子供一人が出歩いていても問題ない治安が維持されている。
「父さんはこういう事には熱心だからな〜」
自分の興味関心がある事しか目に入らない。俺のエズワルドとしての性格も父親譲りなのかもしれない。
そんな父がリグニッキャを治めていたのにゲームではあっさり滅びるんだよな。
ラスィーツィカに攻められて滅びるんだけど、実はここらへんの詳しい経緯は描かれていない。
多分、ゲーム的にどうでもよかったんだろう。
「エズワルドとなった今じゃどうでもよくないんだけどな。……ん?」
しばらく歩いていたら、どこからか『みゃーみゃー』という鳴き声が聞こえてくる。
周囲を見渡すと少し先に木箱が置いてある。
駆け寄って確認すると、木箱には拾ってくださいと書かれており、中にはキジトラの猫がいた。
「この世界にも捨て猫っているんだ」
中にいたキジトラ猫を抱きかかえる。こんな可愛らしいもふもふを捨てる奴がいるとはッ!
出会ったら成敗してくれるッ!
「てなわけで、これからこいつを飼うことにした」
「構わないですけど、もちろんエズ様がちゃんとお世話するんですよね?」
「も、もちろん!」
もう名前だって決めているのに、手放すなんてありえない!それにこの家の主人は俺である!
……この家を切り盛りしてるのはタチャーナなので、結局のところ彼女の許可がなければ飼えない。
キジトラ猫は自分の未来がタチャーナにかかっているなどつゆ知らず、差し出されたミルクを飲んでいる。
「はぁ。まぁ、いいでしょう。ちょうど家事の手伝いに、ネズミ捕りの名人が欲しいところでした。そのかわり!ちゃんとエズ様がお世話するんですよ?」
「わ、わかってる」
「それで、この子の名前は決まってるんですか?」
「ああ。こいつはフェルナンって呼ぶことに決めた。可愛いだろ?」
「可愛いですかね?もっと可愛い名前がある気が……」
なんか結構受けが悪い。え〜フェルナンって可愛いと思うんだけどな〜。男の子だし。
ところでこの世界にカリカリや缶詰はないが、餌ってどうすればいいんだ?
……自分でネズミでも取ってもらおう!働かざる者食うべからずだフェルナン!頑張れ!
そんなある日、父から突然呼び出された。
「お前が学園に行きたいと言っていたからな。こいつをやることにした」
父のもとに行くと、首輪を付けられた二足歩行のイヌ――獣人の少女がいた。
いやいや、一体どういうことよ?
「これが学園となんの関係が……?」
「同年代の話せる相手がいなくて寂しかったのだろ?だから奴隷市場でお前の相手になりそうなのを買ってきた」
あ〜。この人統治以外のこと、特に息子のことになるとポンコツになるのか。
発想が飛躍しすぎでしょ。単純に俺が学園に通いたいと思ってるって考えはないのか?
え、てかこの子持って帰んないとダメ?なんか父が妙に期待した表情してるし。
「あ、ありがとうございます」
「仲良く暮らすんだぞ?用件は終わりだ。帰っていいぞ」
退室を命じられて部屋をあとにする。来たときと違ってイヌの少女が隣にいる。
……これタチャーナになんて説明しよう。
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