0-プロローグ
「う、うそだろ?」
六畳一間の激安ワンルームアパートの一室。
その薄暗い部屋で暮らしている俺に起きた衝撃的な出来事に思わず声がでた。
「……おいおいおいおい!マジかよ……マジなのか?ゆ……め?夢じゃないよな、現実だよな?」
使い古してぺったんこの布団に寝ながら、目的もなく無気力に見ていたスマホ。
それでなんとなく確認した宝くじの当せん番号。それがまさかの俺が選んだ番号と全く一緒であったのだ。
望外な出来事にフッと身体の力が抜け、手からスマホが滑り落ちる。
落ちたスマホが顔に当たった痛みで、これは現実なのだとようやく理解した。
早鐘を打つ心臓を抑え込みながら、テーブルに無造作に置かれた財布から宝くじを取り出す。
そして、スマホと宝くじを交互に何度も見返して、番号を一つずつ一致しているか確認した。
「あ、あ、当たったぁぁああああああああああ!!!うよっしゃぁぁああああああああ!!!」
手に持っている宝くじの番号は、間違えなく1等の番号と同じであった。
その瞬間、時間帯を気にせず歓喜の絶叫を叫ぶ。
壁の薄いおんぼろアパートなので、すぐ隣人に壁ドンされるが、そんなことを気にする余裕なんてなかった。
歓喜のあまり、宝くじを持った手がいうことを効かず震え続けている。
だって、だって、だって!まさかのまさかだ。どうせ当たらないと諦めながら、惰性で買い続けていたロト7。その1等それもキャリーオーバー10億が当たったんだ!
まさかの奇跡に気が動転していた。その時、視界の端に妙にテカっている黒い物体が横切った。
「くそっ!こんな時に現れやがったな!ゴキブリめ!」
このおんぼろアパートに住んで何年になるか。当初は出る度に絶叫していたが、今となっては顔馴染みとなってしまった。
「だが、それも今日で終わりだ!10億あるんだぞ!お前らとは今日でおさらばだ!……って何だこの数!?」
部屋に現れたゴキブリは1匹ではなかった。おぞましい事に奴らは群れをなしており、100匹くらいはいそうな気配がする。それは吐き気をもようすに十分な数だ。
チッ!1匹みたら100匹いると思えというが、本当に100匹出てくるのは違うだろ!
しかもこの狭い部屋のどっからこんな数出てきたんだ!
部屋に現れた奴らは羽をバタつかせ、今にもこちらに飛びかかってきそうである。
臨戦態勢十分ってわけか?
「ぐうぇ!だが、それがどうした!?このまま、この家から出てけば万事解決だろ!」
即断即決。着の身着のまま、宝くじ片手に一目散に走りだす。そのまま玄関までやって来て、ぱちモンのクロックスに履き替えて勢いのままドアノブへ手をかける。
ワンルームのおんぼろアパートよさらば!
「うっせぇぞ!何時だと思ってんだてめぇ!」
外に出ようとしたタイミング。騒音にキレた隣人がドアを開けて押しかけてきた。
勢いをつけていたせいで、態勢を崩す。
そして、その時に足にグチャという妙な感触を感じる。
何を踏み潰したのか一瞬で理解した。最悪だ。すべてが最悪のタイミングだ。
勢いがついて態勢が崩れていたせいで、足が奴らの体表の油で足が滑っただけで体が放り出される。
そしてそのまま勢いをつけて、2階の共用通路の柵に激突した。
おんぼろアパートの柵はさびっ錆で、『危険よりかかるな!』との貼り紙もされていた。
当然、そんな柵に激突したら結末は一つで、バキッという嫌な音と共に崩れさる。
俺はそのまま地面へと真っ逆さまに落ちる。
なんだよこのクソ展開。
そんなむしゃくしゃした感情とこれ以上どうする事のできないやるせなさを抱きながら死を待つ。
最後の景色は宙を舞う宝くじ、驚愕の顔をした隣人。
そして、まるでトラップとして配置された踏み潰したゴキブリとこの愉快な出来事に満足したかの様に飛び去るゴキブリどもだった。
上げて落とすの究極系かよ。
人生の有頂天にいたのに、カップ麺ができるより早くに人生が転落した。
天国から地獄とはいったものだな。
人生のどん底と人生の絶頂期からの終末。これがわずか3分だ。何だったんだよ俺の人生。
しかし、全てはそこで終わらなかったのである。
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