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樹法師タネの桜散る天地創造 ――灰で覆われた世界に花を取り戻す和風アクション旅譚――  作者: 星太
最終章 天地創造

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第48話 うまい林檎

 ◆


 それから私と根助は、桜の実を食べてはちょっと甘い実を選んで育て、また食べてを繰り返した。


 十年後には渋みが消え、

 二十年後には母上が倒れ、

 三十年後には甜瓜にも勝るほど甘みを増し、

 四十年後にはついに【桜花の剣】を造った。に触れたらば一刀桜散。剣自体に神力が込められているため、自身の命を削ることもない。


 でも私は、悩んでいた。

 これで黄泉が斬れるのだろうか、と。

 いや、ダメだ。桜花の剣と同じじゃダメなんだ。


 まだ黄泉の降臨まで時間はある。

 時空転送機もまだ出来ていない。


 もっと強い剣を造らなきゃ――。


 ◆

 

 残花が散ってから、五十年が過ぎた。


 ある暖かな日のこと。縁側の雨戸を開け、畳間に灰雲越しの陽が射す。


 庭の林檎の樹を見れば、実は黄に熟し、今にも落ちそうだ。葉を濡らす雨露が、茂る地にぽたと滴る。


「ねえ根助。雨、上がったよ」


 布団に横たわる根助のもとに座り、声をかけた。根助も、もう六十七歳になった。かつてのまあるい体は見る影もなく痩せ細っている。私も同い年のはずなんだけど、自身を神と認識してから姿形が変わらなくなり、私だけ十七歳の姿のまま。一緒に歳を取れない寂しさは、とうに覚悟している……つもりだった。


「おお……そうか。食いモンには、恵みの雨だったなあ」


 人生五十年、とは思いたくないけれど。目も、もうあまり見えてないみたい。喋り方も、前よりずいぶんゆっくりになった。


「……タネ。悩んでんのか」

「……うん」


 目が見えなくなっても、布団から動けなくなっても。根助は、私のことなんていつもお見通しだ。


「あのね……強い剣って、何だろうって。【桜花の剣】は造れた。でも、これで黄泉が斬れるのかなって」


 私の吐露に、根助はしばらく黙ってから、ゆっくり口を開く。


「……そうだなあ……。おら、『強え』ってのはわかんねえけど……あんまし食えなくなって、ようやっと、本当の『うめえ』ってのはわかってきた」


 私は、黙って根助の続きを待った。


「……ひとりで食ってもな、『甘え』だけだ……。おめと食うから、『うめえ』んだ」

「……うん」


 それは、よくわかる。何だか涙が出そうになって、ぐいと目を拭った。


「……もしかしたら……本当の『強え』ってのも……そういうこと……なんかも、しれねえ」

「うん」


 根助の言葉が、だんだんゆっくりになっていく。……母上の最期と、よく似ている。


「おめは……お日さまだ……。……おらは……あったかくて……」

「……うん」


 私はただ、頷いた。根助の言葉を、きちんと聞いてあげたかった。根助は小さな声で、ゆっくり、少しずつ、言の葉を残してくれた。


「……雨……上がったか……」

「……うん」


 そっと根助の手を握り、穏やかな顔を見つめる。


 庭から、林檎が落ちた音がした。

 根助が、ぽつりと言う。


「……ああ…………うまかった」


 それが、最期の言葉だった。


「……うん。……うん。うん……!」


 私は根助の手を握りながら、何度も何度も頷いた。ぽたりぽたりと涙が落ちる。


 覚悟なんて、全然出来てなかった。私だけが生きていく。この先、途方もない年月を。


 根助。あなたが、私のお日さまだったよ。

 照らされていたのは、私の方だった。

 大きくて、あったかくて、いつも包んでくれていた。


 何度も大好きって言って、

 何度抱き着いたかわからない。


 何度も喧嘩して、

 何度も泣いて、

 何度も笑い合って、


 その度、あなたとひとつになった。


 愛してる。


 最期の最期まで、心配かけたね。

 ホントは、自分の体の方が辛かったろうに。


 最期まで、私のことばっかり。


 雨、上がったよ。


 おやすみ、根助――……。




 ◆



 ◆



 ◆




 それから二百五十年後。

 ついに現世に黄泉が現れる。


 ――時空転送機は、まだ出来ていない。

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