第41話 散り行く残花
◆――……
時は現代へ戻る。灰人となった桜は、葉桜残花としてタネと共に御神木を治す旅をし、煉獄の門へ辿り着いたが、黄泉に敗れ、天地は再び灰と化した。桜はまたも灰人として地に落とされ、前回同様、三百年もの間、葉桜家として人々を守り、タネと出会う。
桜が地に落ちて早六百年。二度目の旅路を続け、再び煉獄の門へひとり足を踏み入れた。
◆
『黄泉。今度こそ、御前を斬る』
茨が茂り、黒炎燃え盛る煉獄にて。桜はすらりと桜花の剣を抜いた。茨を纏う黄泉は、見下すような目で、しゃがれた声を発する。
『何度来ても同じこと。貴様に私は斬れぬ』
黄泉が腕を軽く振るうと、幾本もの茨の鞭が桜を打たんと伸びた。桜は目にも止まらぬ振りで鞭を斬り、花弁と散らす。
舞い散る淡紅の花弁が黒炎に燃え煙る中、桜は素早い踏み込みで黄泉の懐に迫り、剣を薙ぐ!
――サンッ……!
が、黄泉は瞬時に跳び下がりこれを躱す。と同時に腕を振り、桜の足元から無数の茨の鞭が縛り上げんと伸びる!
『ちぃッ!』
桜はダンと跳び下がりながら、空中で足元を薙ぎ茨を刈る。茨の鞭は花弁と散り、音を立て炎に燃えた。煉獄の黒炎は火勢を増し、桜の視界を遮るように燃え上がる。
桜は片足が着地した瞬間、強く踏み込みながら燃え盛る黒炎を横一文字に薙ぐ! 視界を遮る炎を花と散らし、その先にいるはずの黄泉を斬らんと握りを返したその時――
――バチィッ!!
『かはッ!』
晴れた黒炎の先から茨の鞭が胴を打ち、思わず苦悶の息を吐く。動きが止まった刹那、足元から無数の茨が伸び、桜を縛り上げた。
『ぐッ……!』
『言ったろう。同じこと、と』
高く縛り上げられた桜を見上げ、黄泉がしゃがれた声で語りかける。桜の身に茨の刺が食い込み、黒炎が伝い焼く。
『貴様に私は斬れぬ。何故なら、貴様は主の位に傲り、天地創造に力を使い過ぎたからだ』
『何を……俺は、まだ……』
桜は激痛に苦しみながら声を絞り出したが、黄泉は意にも介さず続ける。
『貴様は子らに力を与え過ぎた。私を含めてな』
『……!』
黄泉は腕を振り上げ、桜を黒炎の塵と化す。
『さあ、もう一度だ。貴様の心が折れるまで、何度でも』
煉獄の門の前で、再び絶望したタネが呪詞を唱える。
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花よ 永遠に咲け
たとえ天地を 灰と化しても
……――――――――――◆
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桜は、ひとり輪廻を渡り続け、何度も黄泉に挑んだ。桜が如何に剣の腕を磨こうとも、タネに呪詞を唱えさせないよう手を尽くしても、世の導き方を変えようとも。桜花の剣は黄泉に届くことは無く、タネは何度も心を砕かれ、輪廻を繰り返す。
◆――――――――――……
花よ 永遠に咲け
たとえ天地を 灰と化しても
……――――――――――◆
灰人として地に落とされる度、天を仰ぐ。
『俺の心は、決して折れん。まだ負けてはいない』
◆――――――――――……
花よ 永遠に咲け
たとえ天地を 灰と化しても
……――――――――――◆
『俺が斬るのだ。俺が、斬らねば――』
◆――――――――――……
花よ 永遠に咲け
たとえ天地を 灰と化しても
……――――――――――◆
『俺の、心は――……』
◆――――――――――……
花よ 永遠に咲け
たとえ天地を 灰と化しても
……――――――――――◆
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輪廻を繰り返すこと十三、桜が地に落ちてから三千九百年。桜花の剣を振るい続け、その身の内に咲く花は、もうわずかに残るばかりとなった。
最期の戦いが、始まろうとしている。





