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樹法師タネの桜散る天地創造 ――灰で覆われた世界に花を取り戻す和風アクション旅譚――  作者: 星太
第四章 機ノ都

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第31話 急げ、命尽きる前に

「馬鹿な……これが、神……これでは人に勝ち目など……」


 御殿の中庭にて、咲良は天から降り注ぐ無数の灰人を仰ぎ、へたり込んだ。轟炎が剣先を残花に向け、叫ぶ。


「桜よ、最早猶予無し! 死して譲れ! でなければ皆死ぬぞ!」


 轟炎は獄炎刀を振りかぶり、残花に斬りかかる――


 ――ガギィィンッ!


 断十郎が間に駆け込み、斬灰刀で弾き返した。


「馬鹿言ってんじゃねえ! 今すぐ黄泉を斬るんだよッ!」


 残花が何かを見つけ、駆け出す。視線の先は奥の回廊――大きな白兎が二刀を咥えている。見ないと思ってたら残花の刀を取り返してたんだ!


「タネ、行くぞ!」

「うん!」


 残花は私の手を引き、兵達の間を縫って白兎の元へ駆けた。すかさず轟炎が道を阻まんと駆けてくるも、断十郎が立ちはだかる。


「どけい断十郎、民を見殺しにする気か!」

「見殺しになんかしねえ! 奴は黄泉を斬る! てめえの相手は俺だッ!!」


 獄炎刀と斬灰刀の剣戟が響く――! 残花は駆けながら断十郎に叫ぶ。


「断十郎、頼んだぞ!」

「さっさと斬ってきやがれッ!」


 轟炎と断十郎が剣を交わすうち、天から降る翼の灰人達がいよいよ地響きを立てて着陸し、中庭で灰人達と機巧兵達との戦いが始まった。激しい剣戟の中、残花は白兎から二刀を受け取るとバッと背に飛び乗り、私に手を伸ばす。


「乗れ、行くぞ!」

「うん!」


 残花の手を取り、白兎の背に飛び乗ると、残花はすぐさま手綱を引いた。白兎は御殿の屋根の上に高く跳び上がり、降る灰人を避けながら屋根の上を駆けて御神木の元へ向かう――。


 ◆


 機ノ都の御神木は、御殿の裏庭にひっそりと生えていた。巨木のように太いツル状の幹が、私の胸の辺りの高さで焼け落ちている。


「さあ」

「急ぐね」


 残花に促されるより早く、御神木の前に立ち両手を添える。躊躇う理由も暇も無い。


「はあああああ……!!」


 初めから全力で気を込める。御神木はこれまでに無い速度で急激に色を取り戻し、伸びていく。私の力は海の御神木の復活を経て、自分でも気付かぬ内に段違いに強くなっていた。


 緑色の太いツルが、天に向かって大きな螺旋を描きながら伸びていく。途中にいくつもの芋の葉のような大きな葉を広げながら、ぐるぐると伸び、都に降る灰人を宙で掻き消していく。


「はあああああ……!!!!」


 まだまだ、もっと気を込める。天高く伸びるツルはやがて灰雲を突き、螺旋のそこかしこに黄色い花が咲くと、花の根元が徐々に緑に膨らんで行く――。


「もう少しだ、頑張れ!」

「――――!!!」


 残花の励ましに、私は気力を振り絞る。緑の実は林檎よりもっと大きな球状に膨らみ、外皮に網目状の模様を浮かばせる――!


「良し!」

「――っはあっ、はあっ……!」


 私がへたり込むと、残花はすぐに私を抱えて白兎の背に乗せ、自分も飛び乗った。


「良くやった! 御神木のツルを伝い、急ぎ天ノ島へ行くぞ!」

「……はあっ、ふう……うん」


 息を切らせながら、何とか返事する私。……え、これを登るの?


 残花がぐんと手綱を引くと、白兎は灰雲へ伸びる御神木の太いツルの上に跳び乗り、螺旋階段を上るようにぐるぐると登っていく!


「うわあっ!? 天ノ島って御神木登って行くの!? 怖あっ!」

「そうだ。機ノ都の御神木こそが至天の樹――地から天へ至る唯一の道。白兎を信じろ、必ず俺達を天に届けてくれる」


 話している間に、白兎は螺旋ツルを駆け、あっという間に都上空を登っていく。もう都が遠く下に見える。途中、残花がツルに成る実を刀で斬り、欠片を渡してくれた。


「休んでいる暇は無い。すまんが道中食べて気を癒せ」


 実は中も緑色で、何だか瓜みたい。一口齧ってみると、すんごく甘い果汁が口に広がり、身体中に気がぐんぐん染み渡っていく。


「……何これ!! 今まで食べたどんな果物よりすっっごい甘い!」

「これは甜瓜てんかだ。別の呼び名でメロンとも言う」


 どんどん天にのぼる白兎の背で、メロンをぱくぱく食べていく私。……ん? てんか?


「もしかして【天果の札】って、この樹? すっごく甘いから、神力も相当強いだろうし」

「……いや、違う。それは他に無い特別なものだ。いざという時の為、決して失くすな」

「? うん、わかってる」


 メロンを食べて気を充実させながら、引き続きぐるぐると御神木を登っていく――。


 ◆


 もうすぐ白兎が灰雲に入る頃、私は意を決して聞く。


「あのさ、残花……灰人、なんだよね」

「……ああ。隠していてすまなかった」


 手綱を握る残花の腕を、ぎゅっと抱いた。


「ちゃんと教えてくれる?」

「話せば長くなる。今は時間が無い。黄泉を斬った後、話すと誓おう」

「……」


 色々と聞きたいことがある。でも、たくさんは教えてくれそうにない。だったら――


「残花は、残花だよね」

「ああ」

「私達、家族だよね」

「ああ」


 残花は即答した。淀み無い、心からの声だった。


「じゃあ……いい」


 だったら、良いや。いや、全然よくないけど。教えてほしいけど。……でも、いい。今はそれだけで。いよいよここまで来たんだ。急いで天ノ島へ行かなきゃ。あらためて上空から地上を見渡せば、都周辺だけじゃなく世界中に灰人が降り注いでいる。早くしないと地上の皆が危ない。


 黄泉を斬る――残花の使命を果たす時が来た。

 桜花の剣は、振るう度残花の命を散らす。灰人にも魂はある。あの日、海上で残花が本気で伝えてくれたからには、灰人だから散らないわけでは無いだろう。


 後で必ず話してね、残花。


 散らないで。


 絶対だよ――……。

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