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樹法師タネの桜散る天地創造  作者: 星太
第三章 沖ノ島

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第19話 荒波に散る花

「タネ、アンタは船室に引っ込んでな! 海に落っこちるよッ!」


 操舵輪を握る江良が私に気付き、叫んだ。帆船が、荒波に飲まれそうな程大きく揺れる。まともに立つのも難しく、私は必死に船壁の手すりにつかまる。


「アイツは【灰王烏賊】だ、いつもはもっと沖にいるはずなのに……よりによって何でこんな嵐の夜に! 鎖銛砲、撃てぇッ!」


 ――バズッ! ジャラララッ、ガキィンッ!


 焦りながらも攻撃の指示を出し、かつ波に飲まれないよう舵を取る江良。帆船だけで五十人、手漕ぎ船も計五十、総勢百人もの船員の命を預かるお頭は、必死の形相だ。


 灰王烏賊は銛をものともせず、天を衝く足を思いっきり船縁に振り下ろす!


 ――ドカアアァアンッ!!


 甲板の右舷が派手にぶっ壊され、帆船は大きく揺れ軋む! 船員達は思わずぐらっと体勢を崩して悲鳴を上げた。先に甲板に出ていた残花が叫ぶ。


「タネ!」

「――! わかった!」


 残花の視線で、私はすぐに意図をつかむ。――直すんだ、私の力で! 風雨吹き付ける甲板に両手を着き、気を込める。


「はあああ……!」


 船だって木だ、私に操れない木は無いッ! 壊れた船板はメキメキと軋む音を立てながら枝葉を伸ばし、あっという間に穴を塞ぐ! 不格好だけどしょうがない、今は綺麗に造る余裕は無い!


「上出来だ!」

「――ぶはあっ、はあっ!」


 残花の声に、私はびしょ濡れになって甲板にへたり込む。でっかい船に一気に気を込めたから、尋常じゃないくらい疲れる……! いつの間にか葉の繁る船縁に立っていた残花が叫ぶ。


「良くやった、足は俺が斬る! 銛は効かん、江良は操舵に専念しろ!」


 斬るって、いったいどうやって!? 驚いているうちに、残花は船から飛び下りる――!


「「残花!?」」


 叫ぶ私と江良。江良は操舵輪を離せない。私はよろけながらも船べりに駆け付け、身を乗り出して見る。残花は、海に落ちてはいなかった。荒波に木の葉のように揺れる手漕ぎ船に跳び乗り、桜花の剣を抜いて大足を斬る!


 雷光で照らされた暗海に桜の花弁が舞う。残花は激しい風雨に打たれながら海に揺れる小船を次々と跳び移り、帆船を囲むイカの足を斬っていく――!


「すご……!」


 灰王烏賊は暴れに暴れ、次々と足を海に打ち付けるも、残花は船を跳び移りかわしていく。イカの攻撃が残花に集中する分、江良も操舵に専念し嵐に立ち向かう! 手漕ぎ船は次々にイカの足で壊され、波に消えていく。乗員はみな帆船に避難済みみたい。でも、残花の足場がどんどん無くなっていく!


 再び、暗雲に閃光が疾る。雷光が船先に照らし出すは、帆より大きな灰王烏賊の本体――! まるで急に海から断崖絶壁が生えたみたい! 残花も本体に気付き、船べりの私に向かって叫ぶ。


「タネ、蔦を頼む!」

「わかったッ!」


 ざんざんと打ち付ける雨と荒波に負けぬよう大声で応え、手漕ぎ船に立つ残花に蔦を伸ばす。残花が蔦を握ったのを確認すると、船べりの柵に蔦を結び付け、一気に縮める!


 ――シュルルルルーッ!


 蔦の先を握った残花は、蔦の収縮に合わせて船を跳び、船べりを越えて甲板に降り立った。


「助かった。後は任せて休んでおけ」

「任せるって、どうすんの!? もう跳び移るほど船は無いよ!」


 残花は応えず、桜花の剣をすらりと抜いた。雷光が桜色の刀身を照らす。


「……残花、まさか」

「船の舳先から跳んで斬る」

「無茶だよ、そんなの――そうだ、じゃあ私の蔦を胴に巻いて行ってよ!」


 私は再び蔦の札を出し、蔦に変化させて残花の胴に巻き付け、もう片側を帆柱に巻き付けた。


「本体を斬ったら、すぐ縮めて引き上げるから。もし一刀で斬れなかったら、一回戻すからね。……残花、絶対に――」


 甲板に打ち付ける雨粒が、私の声を掻き消して。荒波が船を大きく揺らし、私はぐらりと身を崩す。その隙に灰王烏賊が足を振り上げるのを見て、残花は駆け出した。勢いのまま船の舳先へさきに足をかけ、ダンと大きく跳び発つ! 残花の身は、高く、遠く、風雨吹き荒ぶ海上、灰王烏賊の目前へ――


 ――サンッ……


 時が、止まったような気がした。

 バツバツと降る雨粒も、暗雲に走る閃光も、うねる荒波も。

 全てが止まって見えて。

 宙に浮く残花が、上段に構えた桜花の剣を振り下ろし、断崖のごとき灰王烏賊本体が、桜の花弁と散る。


 その時。振り上げていた足が最期の力で残花を打ち、蔦が千切れて。残花はそのまま舞い散る花弁と共に――波に消えた。


「「――残花あああッッッ!!!」」


 私と江良が叫び、一気に時が動き出す。雨は再び激しく打ち付け、荒波が船を大きく揺らす。


 ――ドオオオォォンッ!


 轟く雷鳴が、大気を震わす。でも、よろけてなんかいられない! 私は迷わず船の舳先に駆ける!


「行くなあッ!」


 止まれるわけないッ! 操舵輪を握る江良の制止も構わず、舳先に足を駆け、ダンと跳び発つ。残花が落ちた、うねる真っ黒な荒波の中へ!


 ――ドパアンッ!


 残花、残花、残花……!

 何も見えない、荒波に飲まれ全く泳げない、上も下も何もわからない、苦しい……! 激しい流れに身がもがれそう! 意識が……真っ暗な海底に、引きずり込まれてく――!


 残花、どこ? ねえ、残花、残花――……。

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