第1話 花は散れども種芽吹く
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花よ 永遠に咲け
たとえ天地を 灰と化しても
愛する主を亡くした姫は、死者を呼び戻す禁術に手を染める。開いた煉獄の門は黒炎を噴き出し、天地を灰と化した。
【樹教典】第一巻 終と始の章 より
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世界が色を失って早三百年。今、ある農村で希望の種が芽吹かんとしている。
忠告しておこう。
この物語を読まんとする者は、覚悟しておかねばならない。
桜は、必ず散ると云うことを。
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「み、見つけた! あったぞタネ!」
「何があったの、根助」
山頂の焼け落ちた御神木の周りで、這いつくばって地に積もる灰を漁る私と根助。空はいつだって厚い灰雲に覆われているのだ、上を向いたって仕方無いからね。十七の乙女の膝は灰だらけ(豊穣タネ、心の一句)。
「だからタネだよ、種! ほら!」
食いしん坊で泣き虫の太っちょ根助が、丸い腕をずいと差し出す。見れば手の平にとっても小さな黒い粒。割れていて芽が出なかったみたい。
「根助、あんたこんな小さいの良く見つけたね……! 確かに何かの種っぽいかも!」
「おらの鼻に間違いはねえ、絶対果物の種だ! ほらタネ、早く早く!」
期待に鼻をふんすか鳴らす根助から粒を受け取ると、両手で祈るように握り、気を込める。どうか甘くて美味しい果物の種でありますように!
「えいっ!」
気を込めた粒を地に放ると、粒はにょきにょきと芽を出し根を張って、あっという間に成木していく!
「ほら種だった!」
「こっからよ、もうすぐ花が咲く!」
ぎんぎんに目を見張る私と根助。薄紅色の蕾が開いて白い花が咲き、やがて黄色く丸い果実がいくつも実る。ふたり顔がつくほど寄って嗅いでみれば、何だか甘ぁい良い香り!
「みみみ、実ったぞ! タネ、これ何だ!? 食ってもいいか!?」
「ちょっと待って! これは、えっと……」
私は母上から貰ったとっても古い植物図鑑【本草図譜】を急いでめくる。万が一でも毒があるものだったらいけない。
「あった! リンゴ……林檎っていうみたい。毒は……無いね。蜜があって甘味のある果物だって!」
「でかした! いっただっきまーす!」
「私も!」
言いながら根助は林檎をもぎ取りかぶりつく。私も負けじともぎ取って、一口かじる。思わず私と根助はバッと顔を向き合わせた。
「「あまーーーーーーい!!!」」
静かな灰山に2人の歓喜の叫びがこだまする。
「何だこれ!? うま、うま!」
「美味しいねーっ!」
あっという間に1個食べきると、根助は両手でどんどんもぎ取っていく。お腹の膨れた私は短刀を取り出し、幹を削って薄く小さな木札を作る。初めて見た植物は何でも木札にすることにしているのだ。筆でちょちょいと林檎の絵を描く。
「よし、【林檎の札】いっちょ上がり。これでいつでも林檎食べ放題! 私、母上に報告してくるね。これで村の皆お腹いっぱいになるよ!」
「もぐんぐ……いっへらっしゃい! んぐ!」
詰まったのか胸をどんどん叩く根助。口いっぱいに頬張るからだよ。私は腰の札入れに木札をしまい、かわりに和紙の原料である【楮の札】を取り出すと、出来上がりを想像しながら気を込めて頭上に放る。
木札はぽんと煙を上げ、大きな和紙製の三角凧に姿を変えた。私はひょいと跳んで持ち手を掴み、風を受けてそのまま山肌を滑空する。
「ひゃほーーーぃ!」
まばらに生えた木々を避け、麓の村まで一直線。風が涼しくて気持ち良いーっ! あっという間に村に着くと、すとっと着地して三角凧を木札に戻す。まったく自慢にならない村一番のボロ家の木戸を、勢い良くガラガラっと引く。
「母上ただいまーっ! ――っんぎゃっ」
開けながら駆け込んだ瞬間、土間に立っていた男の背にどんとぶつかり、尻もちをつく。
「ご、ごめんなさい!」
尻もちを着いたまま咄嗟に謝ると、男が振り向いた。私より歳上、二十代くらいだろうか。上等な白い羽織に、何かの花柄の袴、腰には二振りの刀。どう見ても位の高そうな侍だ。でも何よりびっくりしたのは、無造作に縛った淡紅色の長髪。あと単純に顔がめちゃイイ。凛々しくてちょー好み。
ほけーと見上げる私に、侍が手を伸ばす。
「大丈夫か」
「だ、だいじょぶ!」
林檎の蜜でねたねたした手を大慌てで拭って、差し出された手を取る。握った手は、何だか冷やっとした。
「あ、手冷た」
「! すまん」
ああいや、悪気は無かったんだけど。心があったかいとか言うし。侍は優しく手を引き私を立たせ、胸に抱き寄せる――て、ええっ!? 急に何! ドキドキするんだけど!?
「こら、何してんだい残花。タネもさっさと入りな」
残花と呼ばれた侍の胸越しに、母上の呆れた野太い声が届く。
「……すまん。つい、な」
ついって何? でも残花は真剣に申し訳無さそうな顔をして私を離し、頭を下げた。私は慌てて手をぶんぶん横に振る。
「あ、いえ、役得なんで! 全然」
「ふ」
あー笑われた! 思わず赤面してうつ向く。あーもう滅茶苦茶だよ! 本音駄々もれ!
――その時だ。
「てえへんだ、てえへんだあっ! 山に【灰人】が出たぞおっ!! 皆早く逃げろおっ!!」
必死に叫ぶ声が響き、わずかの沈黙の後、村中一斉に悲鳴が上がる。みなが家を飛び出し大混乱だ!
【灰人】だって!? かつて煉獄の炎で生じた灰に、死者の魂が宿り形を為す異形の化物……!! 一度形を為したら灰ある限り何度でも蘇る、あの灰人!?
私が戸惑っている間に、大薙刀を持った戦衣装の母上が奥からずいと出てきた。家の前で母上が石突を地が震えるほど強く打つと、皆驚いて足を止める。母上は大きく息を吸って、割れんばかりの大声で叫んだ。
「皆待ちなぁッ! 下手に逃げれば何処で出くわすか分からんッ! 家で大人しくしてんだよッ!! 村に現れたらこの【戦女】巴がたたっ斬る!」
母上は身の丈七尺、縦も横もめちゃデカくて無双の女武将だった人だ。右足を失い義足になっても尚その言葉は心強い。村の皆は何とか混乱をおさめ家に戻っていく。母上がキッと残花を睨み下ろした。
「尾行けられたんじゃないだろうね」
「そんなヘマはしない。野良だろう」
「……信じよう。だがこいつぁ潮時だ、いい加減隠れるのは仕舞いにしようじゃないか。タネには十分【樹法】を仕込んである」
何だか私の分からない話をしている。……ん? あっ!
「根助!!」
突然叫ぶ私に、母上と残花が顔を向ける。私は2人に向かって続けて叫ぶ。
「山頂にいるの!!」
そうだった……! 根助の奴、食い意地張ってるから絶対まだ山頂で林檎食ってる! 今すぐ連れ戻さなきゃ! 私が焦ってんのに母上は残花に捲し立てる。
「聞いたね、残花。山頂にゃ御神木もある。あんたが来た日に山に灰人が現れるなんざ、こりゃ天啓だよ! 天下の合戦の幕開けだ、腹ぁ括りな!」
「言われずとも」
「あたしゃこの足だ。山頂へはあんたが行くんだよ、タネを連れて。タネも分かったね!」
母上は急に私を向き、強く言った。もー母上いっつもこう!
「いや全然分かんないんだけど、もう行かなきゃ!」
「行っといで! 二人に向日葵姫の加護の在らんことを!」
話してる場合じゃないんだからっ! 山へ駆け出しながら、腰の札入れから【蔦の札】を手に持つ。
山の斜面にはまばらに高い木が生えてる。木札に気を込め蔦に変化、すぐさま伸ばして高枝に巻き付け、縮めてはまた次の高枝へ蔦を伸ばす! 伸縮は一瞬、次々に高枝へ跳び移れば走るよりずっと速い! 残花も後ろから追って来てるみたいだけど、急がなきゃ根助が灰人に襲われちゃう!
風を切って高速で跳び移るうち、山頂が見えてきた。御神木のそばに灰色の大きな熊のような影が見える。あれがまさか――
「かか、灰人だああああ!!」
根助の悲鳴が響き渡る!
――バギィッ! ドゴォ!
灰人はごつい岩のような腕を振り回し、周囲の木々を薙ぎ倒す! あんなの根助にかすりでもしたらひとたまりもない……! もうすぐ着く。私は急いで札入れから【松の札】を出し、松ぼっくりに変化させる。蔦は左手に持ったまま、叫びながら右手で思いっきり投げ付ける!
「こっち向けええッ!! 【三尺玉】ッ!」
松ぼっくりには気を込めてある。灰人の背に当たる直前、径三尺の巨大な松ぼっくりとなってぶつかる!
――ドシィンッ!
灰人の背がぐらりと揺れ、のそりと振り向くと辺りを見回し、攻撃を止め私を鈍重な足取りで探す。効いてない、でも根助の近くから離せた! 急いで死角から灰人の頭上の高枝へ蔦で跳び移る。灰人は私をまだ見つけてない、よし!
これが灰人……! 頭上から見ると、ゴツゴツしてて、灰積岩で出来た二足歩行の熊みたいな化物だ。あの母上よりさらに一回りデカいぞ。私は気付かれないうちに真上のさらに高い枝に跳び移る。
天高く伸びる遥か高枝の上で、私は一層気合いを入れる。一発でぶっ倒すんだ。じゃないとまた暴れられたら根助が危ない。私は蔦を木札に戻し、札入れにしまう。
「ふうー……」
遮るもの無い上空で、静かに息を吐く。大丈夫、教えどおりやるんだ、大丈夫。自分に言い聞かすように心で呟き、木札を取り出す。唯一自作じゃない、母上から譲り受けたとっておきの切り札――
「――【天果の札】」
祈るように両手で握り、気を込める。私は天果の木を見たことが無い。本草図譜にも無かった。だから、これは想像だ。母上――捨て子の私を女手ひとつで育て、朝から晩まで鍛えてくれた。デカくていっちばん強いひと。お願い、力を貸して……!
木札を天に放る。高く、高く。どんぴしゃり灰人の直上へ。
【天果の札】は輝きを放ち、変化する――どでかいどでかい、天まで届く大薙刀へ!!
「落ッちろーーー! 【天果・巴御前】ッ!」
今さら頭上を見上げてももう遅いッ! 全部木製の超特大薙刀は、木の刃を下に急降下し、見事灰人をぶっ潰す!!
――ドオオオォォォンッ!!!!
その衝撃は山を揺るがし灰煙を上げ、激風激音がはるか地平まで震え轟く!
瞬間、大薙刀を木札に戻す。もうもうと上がる灰煙の中、三角凧でくるくると旋回しながら着地すれば、灰人は粉々に散っていた。大事な天果の札を回収し、腰を抜かした根助のもとへ駆けしゃがみ込む。
「根助、大丈夫!?」
「おかげさまで……ってそれより、すっげええ! タネおめあんなことも出来たのか!? 何だよさっきのどでかい薙刀は!」
「どーせ私のこと食いモン生やすだけだと思ってたんでしょ」
「ああ!」
根助の即答に、思わず吹き出す。
「「あっはっは!」」
安心した私達は、大声で笑い合った。根助は怖くて泣いてたみたいで、頬の跡に今度は笑い泣きの涙が伝う。
……やがて、舞い上がった灰煙も収まった。
「さ、帰ろ根助。急がないと灰人が復活しちゃう」
「おう。 !! ……あ……あ……!」
突然根助が怯え出し、震える指で私を差す。背後でさあっと灰が集まり、ゴツゴツと岩がぶつかり合うような音がする。まさか、嘘でしょ……こんなに早く――。私は蔦の札を手に取りバッと振り向き構える!
――サンッ……
時が、止まったような気がした。
目の前の光景が、あまりにも綺麗で。
そこにいたはずの灰人は消えていて。
代わりに視野いっぱいに無数の花弁が舞っていた。
見たことない綺麗な淡紅色の小さな花弁。
……いや、さっき見た。あの人の袴だ。
……――『桜』――……
何? 頭の中に、知らないけどどこか懐かしい女性の声が聞こえた、気がした。
「無事か」
聞き覚えのある男の声にざあっと花弁が散り、時が動き出す。見れば残花が、淡紅色の透き通る刀身をした美しい刀を構えていた。私はまた、ほけーと見上げている。すっごく綺麗で、格好良くて、強くて、ずっと胸が高鳴っている……。残花は音も無く納刀した。
「安心しろ。灰は桜の花と化し、散った。二度と形を為すことは無い」
「……サクラ……」
私の呟きに、残花は頷く。さっき見た綺麗な花は、桜って言うんだ。袴の柄をよく見れば、さっきの刀身も残花の髪も、同じ色だ――もしかして昔は淡紅色じゃなくて【桜色】、なんて言ったのかな。よし、これからそう呼んじゃお。
「……そうか、初めて見たな。……お前の母が好きだった花だ」
? 母上の好きな花は、菖蒲のはずだけど……。残花の差し出した手を取り立ち上がる。またついを期待したけど、今度は無かった。ちぇっ。
「さて、悠長にしている暇は無い。さっきの灰人は蘇らずとも、一度現れた地は他の灰人も生じやすくなる。灰がある限りな」
「! じゃあどうするの?」
「来い」
残花はそのまま私の手を引き、御神木のもとへ連れていく。私の身の丈ほどしかない、幹が焼け落ちて炭と化した真っ黒の御神木だ。
「治せ。出来るはずだ」
「ダメ! 御神木は治しちゃダメって母上が……何でいま御神木を治すの!?」
「その地の御神木は周囲の灰を草木と変え、浄化する力があるからだ。巴が禁止していたのは、時を待っていたため。さあ、早く」
残花が急かす。気付けば、根助もそろそろと私の傍に来ていた。
「何だかわからねえけど、やってみろよタネ。おめなら大丈夫だ」
とんと私の背を叩く丸い手は、微かに震えていた。瞬間、私の腹は決まった。
「うん。やってみる」
二人は黙って頷いた。私は御神木に両手の平を当て、静かに息を吐く。
「ふうー……」
大丈夫、教えのとおりやるんだ、大丈夫。自分に言い聞かすように心で呟き、気を込める。
「はああ……!」
徐々に、徐々に御神木が根元から色を取り戻していく。やがて色が焼け落ちた部分まで到達すると、幹が少しずつ伸びていく。気のせいじゃない。気付けば御神木の周りの灰が芝草や花、小木へと姿を変えていく……!
「頑張れ、もっと気を込めろ!」
残花の激励が響く。これ、滅茶苦茶キツイ……多分御神木だけじゃないんだ。見える範囲全部ごっそり対象だ。体中の血が無理矢理吸い取られるみたいに、気が全部持ってかれる……!
「はああああああ……!」
弱音は吐いてられない。途中で止めれば込めた気が霧散する。一度気を込め始めたら、最後まで込めなきゃならない。母上に叩き込まれた【樹教】の教えだ。気合い入れるっきゃない……!
「まだまだ、もっとだ!」
「…………!!!」
息を吐くのも惜しいほど、身の内の隅から隅まで気を手の平に集め、御神木に込める!
いよいよ御神木ははるか頭上で枝葉を伸ばし、薄紅色の巨大な蕾が開いて白い花が咲き、やがて黄色く丸い果実がいくつも実っていく。山肌は全て緑に変わり、心地よい草の香がそよいでいく――。
「上出来だ!」
「――ぶはあっ、はあっ、はあ……」
残花の声に私は手を放し、思いっきり息を吐いた。ぜえぜえと肩で息をしながら、その場にぺたんと座り込む。
「よくやった」
残花が横に立ち、優しく微笑む。ぜえ、はあ……ずるいなあ……そんな顔も出来るんだ……ふう……。私は、いつもほけーと見上げるだけだ……。
「す……すっげえええ! すげえぞタネ! おめどえらいことやったなあ!!!」
汚いほど涙を撒き散らしながら、根助が飛び付いて来た。私は思わず抱き止めよろける。とと、太いんだってばあんた。
「へへ……どーだ、私のこと食いモン――」
「ああ、食いモンだよ!」
「へ?」
「ほら、上見てみ!」
私と根助は、揃って遥か高みの果実を見上げた。デカいけど見覚えある黄色くて丸い果実、そういや何だか甘ぁい良い香り……。目を見開いてバッと顔を見合わせる。
「「林檎!! だあーっはっはっは!」」
ああ、笑いが止まらない。きっと私も汚いほど涙を撒き散らしている。
「あんなでけえの、おらでも食いきれねえぞ!」
「ひとりで食おうとすんじゃないっ!」
バンバン叩き合って笑う私と根助。でも、残花は少しも笑っていなかった。小声で何やらひとり考えているようだ。
「……これで【黄泉】もこちらに気付く。今のタネでは、とても海や天を司る御神木には耐えられない。順を追わねば。しかし……黄色……」
……何て? それより、良いコト思いついちゃった!
「ねえねえ残花、【桜の御神木】も何処かにあるかなあ? でっっっかい桜の木が咲いたら、すごく綺麗じゃない!? 私世界中の御神木回ってさあ、灰だらけの大地をぜーんぶ花にしたいなあ。滅茶苦茶綺麗じゃん、絶対!」
あらためて立って見渡せば、頭の上は林檎の枝葉、山肌は木々に覆われ、麓の村も芝で色付いて、見渡す限りの大草原。何もかも灰色だった私の世界は、たった一日で激変した! めっっちゃキツかったけど、疲れなんて吹っ飛んじゃうよ!
「! ああ、ある。この林檎の御神木のように大きくはないが、確かに一柱だけある。焦らずともすぐに世界中を回ることになるぞ」
「あるんだ、楽しみ! そう言えばさあ話変わるけど、残花って姓? 名? 名前教えてよ」
いきなりだけど気になるのだ。何か今なら聞けそうだから聞いちゃえ! 残花は私のこと色々知ってるみたいだけど、私は残花のこと全然わかってないからね。
「すまん、名乗っていなかったな。姓は葉桜。残花は名だ」
「へー、葉桜残花って言うんだ。へー」
「何だ」
「別に?」
何だか急に恥ずかしくなって目を背ける。覚えた、葉桜残花、よし。
「それより、せめて今は育った故郷の景色を目に焼き付けておけ。もうじき巴のもとへ降りるぞ」
「はーい」
今日は何だかとっても長かったような、あっという間だったような、不思議な感じ。こんな濃密な日を過ごしたのは初めてだ。
ワクワクが止まらない。ドキドキかもしれない。どっちもだ。これから私、きっと残花と旅に出る。よく分からないこと色々言ってたけど、まとめてみるにそうなんだ。どうも危険みたい。母上も天下の合戦って言ってた。
でも、でもさ。こんなことある? 運命の出会いだよ。自分でもよく分からないけど、魂から惹かれてる気がするんだ。私の中の誰かが、ついてけー、って叫んでる。絶対離すなーって。
だからきっと、最高の冒険になる――!
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でも、この時の私は知らなかったんだ。
だって、だってだって。見たの初めてだったから。わかるわけ無いよね。
桜は、必ず散るってこと。