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36話 お祭り2

 人だかりができている方向に向かうと大きなテントの前で花を配っている人たちがいるようだった。

 南国エリゴバルトの民族衣装を着ていることを見るに、彼らはその国からわざわざやってきたのだろう。

 彼らはどうやらテントの中で行う演目の客寄せとして花を配っているようだった。そして、主に花を受け取っているのは子供たちで、どの子も花を受け取ると輝かんばかりの笑みを浮かべながら会場に入ってゆく。

 それがどうにも微笑ましくて、私たちは顔を見合わせ笑い合った。


「せっかくなので、僕たちも催し物を見ましょうか。お嬢様」


「そうだな。どんなお花をもらえるのか気になるし」


 列に並び、どんな花をもらっているのか見えてくるはずだ。南国なんて行ったことがないから、どんな花をもらえるのかとワクワクする。

 少しずつ列が前に進んでいく。

 そうして、花がはっきりと見えた時、私は凍りついた。

 彼らが配っていたのは、一度見たら忘れられないような鮮やかな色をした赤色の綿毛の花。


「殿……いや、ルーク、マルティン! 用事を思い出した! 着いてきてくれ!」


 私は慌てて、エリオットとマルティンを引っ張り近くの裏路地に入った。

 

「ど、どうしたんだよ。シャンタル」


 当然ながら、彼とマルティンは困惑していた。

 私はそれに謝りながら、一刻も早くあの場所から離れたかったのだと告げた。


「殿下、あの花はご存知ですか?」


「いや、初めて見る花だったよ」


 マルティンを見ると、彼も同意見だったようで首を縦に振っている。


「あれはフランルートルという危険な花です。少しでも早く殿下を引き離したかったのです」


「フランルートル? 聞いたことがないけど……」


「それも無理はありません。あの花は南の国で咲く花であり、この国では使用している者がほぼいないため、この国では規制対象外の植物です。なので、検問所もこうして通してしまった。しかし、あの花は、あまりにも絶大な負の面があるのです」


「それは?」


 エリオットが王子としての顔を見せた。


「一般に出回っている嗜好品よりも強い中毒症状と幻覚症状や罹患リスクの高さに加え、ミントやドクダミのような繁殖力の高さがあります。一度、根付いてしまえば、根絶するのには相当な時間と金銭がかかるでしょう。現にエリゴバルトでは、全面的に規制されている花です」


 エリオットやマルティンには言わなかったが、これは南国エリゴバルトが故意に行っていることだろうと算段をつける。

 なぜならば、私は知っているからだ。将来、あの花により、弱体化した南国が攻め入ってくることを。

 あの時はあの国になんとか勝利したが、その戦争により国民の生活に大打撃を負わせてしまった上に、中毒性が明らかになり規制するまでに莫大な中毒者数を産んでしまった。

 そうして、生活もままならなくなった市民や農民が、鬱憤を晴らす対象が必要だった。

 その対象に不幸にも選ばれてしまったのが、エリオットに婚約破棄された上に両親や外戚がいなくなったばかりで、さらには大量殺人を行なっている証拠が出てきたことで、その基盤が揺らいでいた公爵家の令嬢ーーそう私だ。

 通常であれば貴族が大量殺人を行ったくらいでは処刑されるはずもないのだが、私の時はそういう事情で国民の溜飲を下げるために処刑されたという側面も持つ。

 なんとも迷惑な話だが、まあ過去のことは変えられないので、今に注力することにする。今ならば未来を変えることができるのだから。

 あの花はいわば私の因縁の植物だ。絶対にこの国から排除してやるからな、そう意気込んだ。

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