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35話 お祭り1

 ハノーヴァーと別れ、私たちは大通りにやってきていた。


「さて、ルーク。これからどうする?」


 この格好で、私が従者と思われる少年に敬語を使っていては逆に目立つため、私は彼にタメ口のまま問いかける。

 私はさっさと帰ってしまい違ったが、一応王子の意向を聞こうと思ったのだ。


「お嬢様、ではこれから買い物などはどうでしょう」


「……はい?」


 いうても、食事をして解散だろうなとたかを括っていたが、彼はそれを上回る提案をしてきたようだった。

 そうして、彼は私の耳に口を近づけこう言った。


「もうこんな機会、そうそうないからね。楽しそうじゃない?」


「え、ええ」


 ふふッと笑うエリオットに私は拒否することもできずに、チラリと彼の騎士マルティンを見ると目を逸らされた。

 こうして、このまま一風変わったデートをすることとなった。

 私は気が進まないのだが仕方ないと腹を括ることにした。

 お願いだから、誰も彼が王子であることに気づかないでくれ、と神様に祈る。


「それにしても、今日はなんだか屋台が出ていないか?」


「ああ、今日はバザールの日ですからね」


「へえ、よく知っているな?」


「ええ、調べてきたので」


 ーーえ、もしかして、今日行われるイベントをあらかじめ調べてきていたのか? 初めからそのつもりで?

 と疑問に思うがさすがに怖くて聞けなかった。うん、と答えられれば私はなんと返答すれば良いのか分からなかったし、別の話題に切り替えることにした。


「こういう場所、私は初めてだが、何がおすすめなんだろうか」


「新鮮な南国のフルーツが取り扱われているみたいですよ、お嬢さま。あとはバザール限定の商品なども取り扱われていることがあるみたいですね」


 ーーや、やっぱり調べてきている!

 ばっと彼を見るが、彼はニコニコとするばかり。彼はこの状況をとても楽しんでいるようだ。


「じゃあ早速回ろうか」


「ええ、もちろん。お供いたします」


 仰々しく彼はお辞儀をしてみせた。



「あ、待ってください。お嬢様」


 私は彼に連れられるまま、バザールの中を歩いていた。

 そんな時、彼にふと足を止められたのだ。


「これ、食べてみませんか?」


 そう言って、彼は飴細工を指差した。

 白鳥、うさぎ、子犬。色も着色されまさまざまな動物を模された飴細工に私はただ感嘆とするだけだった。


「うわあ。綺麗」


「はは、そう言ってもらえて何よりだよ」


 店主兼飴細工職人はガハハと笑う。そうして、気を良くした店主は言葉を続けた。


「どうだい、お嬢さん。ここにあるのはもう作ったものだけど、今からお嬢さんとボクと兄ちゃんのために作ろうか?」


 ここで言われた保護者というのは護衛のマルティンのことだろう。どうやら、彼が青年で、私たちが平民の格好をした小さな子供ということで、家族か何かだと勘違いされているようだった。彼がロングコートを羽織っているせいで持っている剣が見えないことも一因だろう。

 そんなことよりも、私は店主の言った言葉に反応した。


「え、本当……ですか」


「ああ、何がいい? 色の希望も聞くよ」


「じゃあ、僕は青い蛇でお願いします」


「それじゃあ私は白鳥で。もちろん白で。マルティンは?」


「では、僕は猫でお願いします。桃色のをお願いします」


「ねこ?」


「ええ、こう見えて猫好きなんです。私」


 へえ、そうは見えないと彼の顔を見やると、照れているのか顔を赤くしている。

 エリオットも初耳なのか、少し驚いていた。


「はは、わかった。見ててくれよな」


 そういった店主は飴を練り、それぞれの動物に見えるように形を整えていく。その素早く熟練された動作に私は思わず声を上げた。

 そうして、数分後には3つの飴細工を手渡された。私たち三人はそれぞれお礼を言いながらそれを受け取る。


「これ、お礼です」


「え」


「まいど! バザールを楽しんでくれ!」


 エリオットは、飴細工3つ分の代金を素早く払うと、店主に向かった一礼し私の手を引き歩き始めた。

 私は払ってもらったことに困惑しながら、彼に話しかける。


「ルーク。なぜ、私の代金も払ったんだ?」


「そんなの、女の子に払わせられるわけがないじゃないですか」


「そんなの関係ない! マルティン、後で返すから金額を覚えておいてくれ」


「かしこまりました」


「そんなのいいのに」


「いいえ。こういうことはきっちりとしておかないと」


 そんな言い合いをしながら歩いていると、何やら遠くから陽気な音楽が流れていている。そちらを見ると、人だかりができていた。


「あれはなんだろう」


「うーん、なんでしょうね。よし、行ってみましょうか!」


 そう言い、エリオットは私とマルティンの手を引き音のする方へ走り始めた。

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