31話 小さな波乱2
「い、今なんと」
「ダメだと言ったんだ」
どうしよう! ヤバいぞ!
2度目の拒否に、私は頭を抱えたくなった。
まさか、拒否されるなんて一ミリも考えていなかったのにこんなところで躓くとは思ってもおらず、私はどうすれば良いのかわからなくなった。
ーーこれならいっそ、黙って行くべきだったか? いや、それだと流石にまずいか。
思考が右往左往し、悶々と考えている私をよそに彼は言葉を紡いだ。
「確かに、お礼はちゃんと伝えたほうが良いだろう。どうしてもというのであれば、私の部下に代わりに行かせよう。何を伝えれば良い?」
「お気遣い痛み入ります。しかし、殿下。なぜ、いけないのでしょうか」
私は震えた声でそう尋ねた。
「その男性に一人で会いに行くというのは、あまりにも危険だ」
「で、ですが少年なのですよ?」
「少年でもだ! その時は協力してくれたかもしれないが信用し切ることなんてできないはずだろう! もしかしたら、別のギルドにシャンタルが来るということを伝えているのかもしれないだろう! また、誘拐、最悪の場合殺される可能性だってある!」
私がおずおずと言った言葉に、彼は一瞬ぽかんとした後、ものすごい剣幕で私に正論を突きつけてくる。
ーーた、確かに! 私にとってハノーヴァーは前世の出来事もあって、信用できる人へと昇格されていたが、彼から見てみると胡散臭い信用に足らない人物として映るのも当然のことだった!
「シャンタル、君のまっすぐな性格はよくわかっている。お礼を直接言いたいという気持ちもね。しかし、先ほども言ったが危険すぎる。誘拐されたばかりじゃないか。僕はまた、そうならないか心配なんだよ」
彼は泣きそうになり、俯いた。少しの間をおいて、啜り泣く声が聞こえてきた。
ーーしかたない。どうしても直接行きたい理由を殿下にも伝えるか。
できるならば、今後のためにもその情報を秘匿しておきたかったのだが、こうなってしまっては仕方がない。
そう思い、私はメイドや執事、騎士たちに一旦席を外させた。
「殿下。私だってお礼をしに行きたいがためにここまで言っているのではありません。気になることがあるのです。あまり人に頼れる案件ではないのです」
「……なんだ?」
人に聞かれないように、私は項垂れているエリオットに耳打ちする。
「殿下も知っての通り、私は聖霊を見ることができません。しかし、あの時、彼に協力してもらった時、水の魔法が確かに使えたのです」
いまの今まで啜り泣いていた声がぴたりと止まった。
「何?」
その少年が水魔法を駆使して、私とシルパを救ってくれたというふうに伝えていたのだが仕方ない。殿下には事の重要性を理解してもらうのが先だ。
「ええ。あまりにもその情報は捨て難くありませんか? 殿下の騎士が信用できないというわけではなく、私以外のものが行けば彼は家族の不信感を募らせ、行方をくらませてしまうかもしれません」
「確かにな。そうなると、やはりーー」
彼は考え込んだ後、私の顔を見た。
ようやく許可が降りる、そう私は安堵した。