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処刑された彼女の晨光(しんこう)の物語  作者: コトウラ セツ
2章 シャンタル・ブランシュ公爵令嬢誘拐事件
19/45

18話 ハノーヴァー4

「私はここに残る」


「なんでだ、今度こそ処刑されちまうぞ!」


 ハノーヴァーは叫んだ。そして、牢屋の中に入ってきて、私の腕を掴み、引っ張り上げようとする。

 しかし、それを私はやんわりと避けた。


「お前にもやるべきことがあるように、私にはやるべきことが残っているんだ。このまま逃げるわけにはいかないさ」


 にっといたずらに私は笑ってみせる。


 ーーうまく笑えているだろうか。


 正直に言えば私だってここから出て、日の目を見たいと切実に願っている。しかし、運命はそれを許さないのだ。

 私は過去に戻り、救えなかった人々を救わなくてはならない。そして、未来を変えてみせる。

 それだけは絶対に曲げられない私の願いだった。


「なあ、今生の別になるだろうから教えてほしい,お前の目的は一体なんだ? 何を求めにここに大人しく捕まっていたんだ?」


「っ、俺は、俺の目的はーー」


「おいハノーヴァー! 急げ! 監囚が来るぞ!」


 ハノーヴァーが口を開いた瞬間、間が悪く彼の知り合いが彼を呼ぶ。

 それに、ハノーヴァーが返事をした後、一度は私から逸らした視線を私に向ける。


「どうしても、ここから逃げないのか」


「ああ」


「ならまた会った時、俺を頼れ。いつでも待ってる」


 苦虫を噛み潰したような、そんな顔を彼はした。

 彼とは今生の別れとなるだろうに、私は頷いた。


「ああ、必ず」


「ああ、そうだ。俺の目的はーー。」


 彼が最後に言い残して行ったのは、ーーだった。

 私はそれに驚いた。なぜ、彼がそれを調べているのか、彼を引き留めようとしていたその時、監囚たちがドタバタと慌ただしくこちらにやってくる音が聞こえ、口を閉ざした。

 私は、彼ともう一度目を合わせ、頷いた。


「さようなら、ハノーヴァー。武運を」


「ああ、シャンタル。また」


 彼は仲間と共に引き上げていった。まさに噂に聞く脱獄王と言わんばかりの素早い所業だった。

 彼はさよならとは言わなかった。それになんとなく嬉しくなって、1人残った牢屋で私は笑った。



 そうして、その数日後、シャンタルは広場で処刑された。

 しかし、彼女は知らない。

 広場にハノーヴァーがいたことを。

 処刑されゆく彼女を見て、エリオットが膝から崩れ落ちたことも。

 そして、首だけになった彼女を見て、ハノーヴァーが涙をこぼしたことも。


「秘策があるなんて、真っ赤な嘘じゃないか」


 処刑人はシャンタルの首を鷲掴みにして掲げている。群衆は沸き立ち、歓声で地面が地響きのように揺れている。

 どこか清々しい表情を浮かべたまま死んでいった彼女。その彼女に対して彼が一人呟いた声は群衆の声にかき消された。

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