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処刑された彼女の晨光(しんこう)の物語  作者: コトウラ セツ
2章 シャンタル・ブランシュ公爵令嬢誘拐事件
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16話 ハノーヴァー2

 ハノーヴァーとの出会いは、私が身分が剥奪された後、捕えられた先での牢屋だった。

 ジメジメとした薄暗い牢屋の中、目の前にいる小さな少年が成長した姿のハノーヴァーと時々ではあるが会話をしたことがある。

 その時も、通路を挟んだ先の牢屋に彼がいたことを覚えている。

 薄暗い中に浮かぶ獰猛な獲物を待ち構えているかのようなきらりと光る目に、はじめは私はあまりの怖さになけなしの布団がわりの布で自身を隠し、牢屋の端の方に縮こまっていたのだが、彼が何度も退屈凌ぎと称しては話しかけてくるためそうもいかなかったのだ。


「なあ、なんであんたこんなとこにいるんだ?」


 それが彼が私に幾度となく問うてきた言葉だった。幾度となく問われたそれに、とうとう私も痺れをきらし、意地悪に答えたのだ。


「さあな。なぜだと思う?」


 それから彼は考えた。どうやら、何もないこの牢獄の中での退屈凌ぎにはなっているようで、彼はずっと考えていた。

 そうして、出された結論はーー。


「わからねえ」


 という答えだった。当てずっぽうでも何か罪名を適当に答えればいいものを、と私は思ったが彼がそう思った理由が知りたくなった。


「なぜ、そう思う?」


「だって、お前からは罪の匂いがしない。何もやっていないんだろ、あんた」


 私はその言葉に思わず目を見開いた。勘かなにかなのかわからないが、彼がそれを当ててみせた。

 有よりも無を当てる方が難しく、当てられないという自信があった。しかも、彼が独り言のように呟く言葉から貴族というものを好ましく思ってはいないということもなんとなく察していた。それなのに、彼は当ててみせた。

 いつからか嘘は真となり罪人として扱われてきた私にとってその言葉は救いにすらなり得た。


「なんで、わかったんだ」


「なんだ、やっぱり正解か。目を見ればわかるさ」


「ハハっ」


 そんな根拠なのかどうかもわからないような事柄で真実を当てられたのがどうもおかしくて、私は笑った。

 乾いた喉で笑ったせいか、思わず咳き込んでしまうが、それもどうでもいいように感じられた。


「お前、面白いな、名前は? 私はシャンタル・ブランシュ……いやいまはただのシャンタルか」


「俺はハノーヴァーと呼ばれている」


 ニヤッとニヤけながら言う彼の言葉に私は固まった。


「ハノーヴァーってあの」


「ああ、新聞なんかじゃ脱獄王なんて呼ばれているみたいだな」


 震えた声で呟く私をよそに、彼はドッキリが成功したように大声で笑った。

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