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処刑された彼女の晨光(しんこう)の物語  作者: コトウラ セツ
2章 シャンタル・ブランシュ公爵令嬢誘拐事件
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14話 シルパ

「すまない。こんなこと言ってしまって。失望したよな」


 私は自分の失言に気がつき、慌てて謝罪する。身に覚えのない裏切り者というレッテルを貼られるなんて、彼女からしたらたまったものではないだろう。そんなこと、私がよく知っているはずなのに、なんてことをしてしまったのだと涙が溢れる。

 どうにもこの体では、感情が爆発しやすいようで、涙を堪えようとしてもボロボロと涙がとめどなく流れてくる。

 そんな私の様子を見ていたシルパは、懐からハンカチを取り出し、私の目の周りにポンポンと軽く当て、ハンカチに涙を吸わせている。


「いいえ、お嬢様。お嬢様が不安に思うのも、こんな状況で周りが信頼できなくなるなんて当然ですわ。私だってこれからどうなるか不安でいっぱいですよ」


 震えた声でそう言うシルパの顔を初めてまじまじと見た。そこには、先に起こることに震えながらも懸命に目の前で泣いている私をあやそうとしている彼女の美しい姿があった。

 自分で手一杯のはずなのに、この人は私をあやそうとしているのか。その高潔な心はどれほど美しいだろうか。

 取り乱してもおかしくない状況だ。怒って、泣いて、悲しんで、そんな感情を露わにしたところで誰も怒らないと言うのに彼女はそうしない。それどころか他人を思いやる気持ちを持っている。その精神に私は思わず感嘆する。


「あら、涙が止まったみたいですね」


 引き攣った彼女の顔。しかし、私を勇気づけるために無理やり口角をあげ、笑顔を作ろうとしている。

 こんな状況で他人を思いやるなんて、私には絶対にできないことだ。私は窮地に陥った時、自分のことだけで精一杯だった。周りのことさえも全く見えていなかったと言うのに、シルパ、君と言う人はーー。


「シルパ、君だけは何があろうと守って見せる」


 彼女は報われなければならない人間だ。彼女のような人をぬけぬけと死なせるわけにはいかない。絶対に守らなければ。そう私は強く決心した。


「頼りにしてます、お嬢様」


 そう言うシルパの瞳は不安に揺れていた。



「ああ、着きましたよ」


 偽ハミルトはそう言うと、被っていたマスクを脱ぎ捨てる。ガリガリの40代くらいの男性、それが彼の正体だったが、当然見覚えのあるはずもない。

 彼は腹回りに詰めていた布を鞄に入れる、丸めた手を口に当てて鳥の鳴き声のような音を発した。

 その後を合図に現れたのは、5人ほどの武器を持った男たち。

 その男たちに私たちは馬車から引きづり出され、後ろで手を硬く結ばれた。


「なぜ、殺さない」


 すぐに殺せばいいものを、彼らはそうせずに彼らは私たちをどこかに連れて行くようだった。灯りもない暗闇の森を転ばないように歩く。


「そんなの決まっているじゃないですか。そういう依頼、だからですよ。シャンタル様〜」


 ハハハ、と彼は嗤った。


 ーー依頼、ということは闇ギルドか、それに準じる違法な組織か。厄介なことになったな。


 闇ギルドとは、違法な事柄、主に人身売買や身代金目的の誘拐、保護動物の密輸、機密情報の売買を専門に行なっている業者である。

 このギルドはどうやら誘拐や人身売買を専門としているギルドのようだ。

 そんな組織が私に接触してくる口実なんていくらでもあるから、誰が何の目的で誘拐させたのかが全く見当がつかない。


「いや、なにね〜? 今日シャンタル様が王都に行くと聞いて、身柄を引き渡して欲しいという依頼が入ったんですよ〜。これが報酬が良くってーー。あ、逃げようとしたらそのメイドさんを殺すしかなくなっちゃいますからね〜」


「おい、その辺にしておけ」


 この男、力のない女と子供が相手だからってベラベラと話しすぎではないのか、と思っていたところに 30代の屈強な男に呆れられたような声で静止をかけられている。


「あ、そろそろだね」


 60代初老の老人がそういうと、20代の男が棍棒を私たち目掛けて振り下ろした。

 あ、と思った頃にはもう遅く、次の瞬間私たちは地面に臥した。

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