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処刑された彼女の晨光(しんこう)の物語  作者: コトウラ セツ
2章 シャンタル・ブランシュ公爵令嬢誘拐事件
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12話 異変2

「おい、ハミルト! 何かおかしくないか?」


 私は御者のいる席に通じる小窓を窓側にいるシルパに開けさせて、御者のハミルトに声をかける。

 辺りが真っ暗闇に包まれているため、外にいる彼の姿が、よく見えない。しかし、私は何か不気味なものを彼に感じていた。

 

「おかしい、とは何がでしょう」


 平坦な声で言った彼に、私はおかしいと直感で感じた。

 彼は普段明るく、ハキハキと喋る性格だ。そんな彼がこんな平坦な声で話すとは思えない。

 私は本当に馬車を動かしているのは私の知っているハミルトなのかと疑問に思い、馬車の中で立ち上がり、小窓から彼を覗き見た。

 その時、街頭が彼を照りつけた。


「っ!」


 彼は耳の後ろに大きなホクロと引っ掻き傷があったはず。それが、なかった。見えなかったわけではない。まっさらな肌しかなかったのだ。


「お前! ハミルトじゃないな!」


 ホクロ以外どこからどうみてもハミルト以外の何者でもない彼をきっと強く睨みつける。

 

「ひっ!」


 偽のハミルトは首を180度回転させ後ろにいる私を真っ直ぐに見、そしてニイっと不気味に笑った。

 そんな彼に私は腰を抜かし、小さな悲鳴をあげた。隣でことの成り行きを見守っていたシルパも彼のその様子を見てギョッとした表情を浮かべている。彼女は驚きのあまり声すら出ないという様子で、口に手を当てて目を見開いていた。


「し、シルパ! 飛び降りるぞ!」


「は、はい!」


 怪我をしてもいい、彼から離れなければと思いながら、私は馬車の扉を開けようとした。しかし、鍵がかかっているようで、びくともしなかった。


「くそ! いつ鍵をかけたんだ!?」


 ドアがダメなら、窓ガラスを割ろうと私が拳を振り上げた時だった。


「うわっ!」


「きゃあ!」


 馬車が大きく跳ね、私たちは体勢を崩した。

 馬車が街道をはずれ、森の方向へ突っ走っていっているようだった。馬車は速度を上げて走っており、これでは飛び降りたら大怪我をしてしまうどころか打ちどころが悪ければ死んでしまう可能性すらある。

 逃げ場がない、とグッと拳を強く握った私を横目に、偽の御者が、あ、そうだ、と声を上げた。


「なんだ!」


「ハミルトは私ではありません」


「そんなことわかっている!」


 飄々とそんなことを言ってみせる彼に私は苛立ち抑えられずに声を荒げる。


「彼の居場所。知りたくないですか? すぐそこにいるんですよ」


 ーーそうだ。本物のハミルトはどこにいるんだ?


 さっきまでは自分達の身しか考えることができなかったが、彼に問われたことで彼の行方が気になった。


「……どこにいる」


 彼を刺激しないように、私は絞り出したかのような声で彼に問うた。


「あなたの座っていた椅子の中、ですよ」


 私はシルパの隣に腰を下ろし、さっきまで私が座っていた席の蓋を恐る恐る開ける。

 生きているのなら、早く助けないと、という淡い期待をよそに、密閉された空間には、惨殺されたハミルトの遺体が入っていた。

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