11話 異変
結局のところ、『シャンタルに一番似合う紅茶の香りは何だろう』という彼からの話題でお茶会は終わりを告げた。そんなこと私にわかるはずがないので適当に相槌を打ちつつ、早く終われ〜と念じていたのだった。
年々、彼の紅茶愛好家としての気質はなりを潜めていたことが理由で忘れてしまっていたが、紅茶に関して熱の入った彼の話は彼にお熱だった当時の私も少々苦手だったことを思い出した。当時の私が少々で済んでいたことに現在の私は驚くばかりである。
「シャンタル、今日はすまなかった。また、近々会おう」
「ええ、楽しみにしていますわね」
名残惜しそうに見つめる彼になんとも思わなかったわけではないが、そろそろ出ないと夜になってしまうため、私は会話もそこそこに馬車に乗り込んだ。
「次は絶対楽しませて見せるから!」
「ええ、楽しみにしていますわ」
そう意気込む彼に、ああ、私は彼のこういうところが好きだったんだな、と思い起こされる。もし、あんなことがなければ、私は今頃彼と結婚し幸せに過ごしていたのだろうと思うと、どうしてもやるせなさが優ってしまう。
契約結婚をしているのだから結婚することになるのは百も承知だ。だから、少しでも良い関係性を気づかなければならないんだ、と痛む心を見ないようにして、私は彼に笑顔を向けた。
♢
城を出てしばらくしたところで、シルパがバスケットを膝の上に乗せ口を開いた。
「お嬢様、サンドイッチはいかがでしょう」
「ああ、いただくよ。お腹が空いていたんだ」
卵とハムのサンドイッチを手に取り、かぶりついた。
「美味しい」
「それはよかったです」
シルパは笑みを口に含んだ。
シルパからもらったサンドイッチは塩味が程よく、口の中に広がる。空きっ腹の私にはちょうどいい塩加減で、食が進んでいく。
そしてそのまま卵とハムのサンドイッチとベーコンとキャベツと卵のサンドイッチを平らげる頃には、城下街を抜け街道に入っていた。
シルパと談笑すること数十分、辺りが暗くなる頃私は異変に気づいた。
「なあ、シルパ」
「はい、お嬢様」
「何か辺りがおかしくないか」
従来、この街道は馬車の往来が激しいはずだ。確かに行きの道でもブランシュ領へ向かう何台もの馬車とすれ違っていた。
なのに、帰りの道ではここ三十分ほど一台ともすれ違っていない。
ーーおかしい、何が起きている?
けたたましい警鐘が頭の中に響き渡る。
そう、そしてその数分後、私たちは何かが起きていることに気付かされることになったのである。