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処刑された彼女の晨光(しんこう)の物語  作者: コトウラ セツ
2章 シャンタル・ブランシュ公爵令嬢誘拐事件
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10話 婚約者との邂逅

「シャンタル! 会いたかった!」


 私が馬車を降りるや否や、抱きついてくるのはこの帝国の第一王子のエリオットだ。人目を気にすることなく抱きついてくるエリオットに私はギョッとしたものの、誰かに気づかれる前に平静を装う。

 最近では忘れていたが、この年齢の時、エリオットはかなり私に甘えたがる性格をしていた。彼に頼られるのが嬉しくて、私は婚約者でありながら姉のような振る舞いをしていたのが懐かしい。

 私たちは、お茶会の会場に向かって歩きながら談話をしていた。


「お久しぶりです。エリオット殿下。本日は宮殿に招いてくださり、誠にありがとうございます。殿下に会える日を楽しみにしておりました。そのせいで寝不足なんですよ?」


 私はドレスの端を掴み、お辞儀をして見せる。

 会える日を楽しみにしていたのは嘘だが、寝不足なのは本当だ。大人の体ならともかく子供の体で3時間睡眠はだいぶと堪えるものがある。

 私は自分自身に感心した。いや、馬車の中でエリオットと会った時どういう態度を取るかというのを一生懸命シミュレーションした成果なのかもしれないが、完璧なのではないだろうか。

 

「シャンタル。なにか、他人行儀だね」


 太陽の光の下、金色の髪を持つ彼がムッとした表情を浮かべた彼に、ドキっと心臓が一度跳ねたが、これはいつも言われていたことだと思い出す。


「殿下相手に軽々しい態度は取れませんわ」


「そんな。君と私の中なのに、つれないね」


 はあっとしょげる彼を相手に私は何かこの話を逸らすための話題はないかと考えた。

 数秒後、絶好の話題があることに気づき口を開いた。


「殿下、それよりも私を見て、気づくことはありませんか?」


「気づくこと? あ! 私が送った服を着てくれているんだね!」


 彼はそういうととても嬉しそうに笑って見せた。

 こういうところが好きだったのにな、と思いつつ、私は笑顔を取り繕い口を開いた。


「ええ、殿下からのお気持ち痛み入ります。どうでしょうか、似合っていますか?」


「ああ! すごく似合っている! さあさあ、座って座って」


 お茶会の会場につき、王子自ら引いた椅子に座る。この時の私はこれほどまでに大事にされていたのかと、改めて気付かされる。


「シャンタル、その服着てくれて本当に嬉しいよ」


「ええ、とても気に入っていますの」


 ニコニコとした笑みを浮かべながらエリオットはそばに仕えたメイドが入れたばかりの紅茶を嗜む。

 私もそれに倣い、お茶を飲み、驚く。これはシャペーニュ地方の紅茶だ。この時でもとても貴重で皇族しか飲めない代物だったが、未来では第一人者が死亡したことに伴い、品質が劣化して飲まれなくなったものだ。まさか、この最高品質の紅茶をまた飲める日が来るなんて。

 ごくごくと飲み干したい気持ちを我慢して、カップを皿の上に乗せる。


「殿下、こんな貴重な紅茶を振る舞ってくださりありがとうございます」


「あ、さすがシャンタル。気づいたんだね」


 私は自分の言った言葉に、まずいと後悔した。

 エリオットは重度の紅茶愛好家だ。このままだとーー。


「シャンタルも気付いたようにこの紅茶はシャペーニュ地方のもので、その香りの高さと味わい深さが特徴なんだ。僕としては、ブランシュ領の紅茶も好みなんだけどーー」


 すっかり忘れていたが、彼は紅茶の話になると長時間熱く語る癖がある。それを触発してしまった今、彼が止まることはないだろう。

 結局彼に許された1時間のうちのほとんどが紅茶の話で終わってしまい、彼も私も後悔する羽目となったのだった。

今日の20時ほどにもう1話投稿します。告知通り来週の日曜日も2話投稿します。よろしくお願いいたします。

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