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処刑された彼女の晨光(しんこう)の物語  作者: コトウラ セツ
2章 シャンタル・ブランシュ公爵令嬢誘拐事件
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9話 夜

 衣装選びが終わり、夜になった。

 子供の時にしか着られないような可愛らしい服と正式なパーティで着ていく洗練された綺麗な衣装をたくさん買い込み、今はまさに来たる明日に備えて寝ようとしているところである。

 天蓋付きベットの羽毛布団に体を埋め、目を閉じるものの、明日はエリオットに会う当日なのだと思うとなかなか寝付くことができなかった。


「はあ……」


 目を閉じてどれくらいになっただろうか。いくら経っても訪れない眠気に嫌気がさして、私は目を開き上半身を起こした。

 そして、サイドテーブルに置いてある水の入ったコップを手に取ると一気に胃に流し込んだ。

 私を最後まで信じてくれなかったエリオット。明日、彼に会った時どういう顔をして会えば良いのだろうか。当時のように、笑顔をつけることができるのだろうか。上手くやれるのだろうか。そういった不安が頭をグルグルを駆け巡る。

 明日になってみればわからないとはいうものの、実際に会ってみて失敗したらと思うと足がすくむ思いだ。彼とはこれから定期的に会わなくてはならない。それなのにこの体たらくさに腹が立つ。


「失敗することはできない。絶対に」


 ふと処刑台で見た最後の彼は何を言おうとしていたのか、気になった。あんな必死な表情で彼は何を言っていたのか。今となってはそれを知る術もないし、どうでもいいことには変わらないけれど。

 それでも、私はあの瞬間、彼に謝ってもらいたかった。絶対にそんなことはあり得ないとはわかっているものの、彼に謝ってもらえていたならばあの仕打ちを自分の中で整理することができていたかもしれないと思うとやらせなかった。

 重力に押されるまま、私は再びベッドに身を預けた。太陽のような包み込むような暖かさを持つ太陽ではないけれど、そっと見守ってくれているような気にさせる月明かりが窓から降り注いでいた。


「もう寝よう」


 いつまでも起きていたらナイーブな考えが膨らんでしまう、と私は目を閉じた。



 朝になった。窓から注ぎ込む日差しによって私は目が覚めた。

 今日はついに、エリオットに会いに行く日だ。気が進まないが、誰にも悟られるわけにはいかないと私はスリッパを履き、ベッドから降りた。


「おはようございます。シャンタル様」


「ああ、シルパおはよう。今日は頼む」


「ええ、重々承知していますわ」


 私はシルパに手伝ってもらいながらドレスを着た。そうして、シルパに促されるままに私は鏡台の前の椅子に座る。


「昨日言ったとおりにしてくれ」


「はい、かしこまりました」


 シルパは私の髪を時間をかけて丁寧に解くと、非常かなように私の髪にリボンを編み込み、お団子にした。

 私は目の前の鏡で、変なことになっていないかを確認すると、頷いた。


「完璧だな。ありがとう、シルパ」


「とんでもございません、お嬢様。さ、馬車がもう出発する準備ができているそうですが、朝食はいかがいたしましょう」


「エリオット殿下に会うというのに遅れるわけにはいかないから、朝は何も食べない」


「かしこまりました。一応、軽食のサンドイッチの入ったバスケットをお待ちしますね」


 そんな会話をしながら、私たちは一階、そして庭に降りていく。すれ違うメイドたちがみんな私にお辞儀をしている。

 目の前に見えるのは、公爵家の紋章が入った馬車。


 ーーいよいよだ。


 いよいよ、エリオットに会うためにこの屋敷を発つ時が来た。

 私は誰にも気づかれないように息を吐くと、馬車に乗った。

 シルパも乗った馬車は、御者が馬に鞭を打ったことで出発した。


 ーーこの時の私は、まさか午後にあんなことが起きるなんて思いもしていなかった。

5月11日の日曜日に2話投稿する予定です。よろしくお願いいたします。

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