070 帰ってきた
「当初予定していた、今回の『ファースト』の出現ゲート予想地点 (火星人の元母星近傍宙域)に居るであろう敵艦隊の撃破とゲートの調査もしくは破壊ですが・・・ 中止にするべきではないでしょうか? 補給部隊の物資も予想以上に消耗していますし・・・」
「我が方も星団連盟に同意します。 戦いの前に自軍のアップデートを行うべきです。」
「 ・・・分かりました。 今回の遠征は此処までとしましょう。 お恥ずかしい話ですが、当方の特別捜索隊が未だに敵の位置を特定出来ていないのです。 ここから予想宙域へ移動する約200年の間に発見出来るとは思いますが、100%保証できるものでも無いですし・・・」
「賛成して頂けて良かった。 地球艦隊は未だ29個護衛隊が健在ですから、撤退には反対なさるかと思っていました。」
「いやいや、十色司令は慎重ですからね・・・ 当方は撤退に同意を得られると思っていましたよ。」
などと・・・ 以後の作戦中止と撤退が決まったことで、重圧から解放されたのだろう全体の雰囲気が明るくなった。 各国の派遣艦隊は早速撤退準備を始めたが、敵艦の残骸の内で程度の良い物を研究資料として持ち帰る作業に時間が掛かり、出発できたのは2週間後だった。 (敵艦の内、爆散せずに形を保っている物に外部推進装置や遠隔操作装置を取り付け持って帰る事に)
同盟各国の派遣艦隊がコールドスリープで静かになって行く中、十色は艦橋から艦隊を眺めていた。
「ふじ、この戦いに終わりはあるのかな・・・ 」
「戦いに疲れてしまいましたか?」
「戦いに、なのかな・・・ 終わりの見えない未来に気力が湧かなくなった。 のかな・・・」
「それでしたら、戦いは我々に任せてもらってもいいのですよ。 司令は地球でのんびりと過ごして頂いて、好きな事をしていればいいのです。 そうすればまたやる気も出てきます。」
「ふじ、あんまり俺を甘やかすなよ・・・ 大丈夫、まだやれるさ・・・」
「ふふふ、そうですね。 まだ全ての避難船団が見つかった訳でも無いですし、シングルナンバーの残りも居ますものね?」
「ああ、それに地球もまだまだこれからだしな。」
こうして帰路に就いたわけだが、星団連盟まで130年、更にテラⅡまで10年、そこから更に地球まで15年・・・
長い年月の間に敵艦の技術解析も終わり、現行艦のバージョンアップが始まっていた。
しかし、その数は膨大であり、全艦の改修には400~500年掛かる見込みである。 しかも、今回の戦いにより敵『ファースト』がこちらに対応した強化改造を行う事はほぼ確実と見られ、こちらも新技術の開発に乗り出していた。
101護隊の破壊されたコア2511個については十色達派遣艦隊が戻ってくる前に、月基地でバックアップからの復元がなされ、コアブロック状態にまで組み立てが済んでいた。 因みに、機能不全に陥っていた139個のコアは、長い年月をかけ完全回復を遂げており、今回の戦闘で被害を受けた全コアは元通りに復活した。
但し、101護隊は今回のバージョンアップ計画から外されており、部隊の6割強が船体を持たないコアのままであった。
今後、この部隊は次世代の護衛隊のひな型となるべく、新システム及び新型艦が完成次第、待機中のベテランコアを搭載し運用試験を行う事になっている。




