006 まぁ、何てことでしょう
『国際連合宇宙軍 第104囮艦隊』の文字をでかでかとペイントされた無数の艦船が集まり何処とは知れぬ宙域を突き進んでいた。
艦隊を指揮していた十色は当初、太陽系を中心に周囲を回りながら少しずつ捜索範囲を広げていたが、艦船のコアユニットに搭載されているAIが単独での運用が出来るまで成長するのを待って捜索方法を変えた。
成長したAI艦に指揮を取らせた小艦隊を複数、放射状に送り出すことにしたのだ。 そして指揮AI艦以外の艦船は全て新造艦からなっており、これら新造艦の教育も指揮AI艦が行う事になった。
これはある意味実験であり、今回の方法が上手くいけば、今後は同じように小艦隊を増やしていくつもりだ。
そしてAIの教育と並行してもう一つ、皆の残してくれた艦船設計・改造システムに男心をくすぐられた十色は艦の改造にはまり、色々と設計をしては楽しんでいた。 中には実際に造った艦船もあり、十色が艦隊旗艦として乗艦している『富士』と名付けた艦もその一隻だ。
『富士』は元々、量産型戦艦の1番艦として造られた『BB-0001』を改装したもので、内容としては艦橋部分の無い戦艦をユニットを組んで造り、1番艦の横に連結する事で双胴艦とし、艦橋を中央に移設したものだ。(他には、内側の面に向いていたスラスターを外向きの面に移築、艦橋両サイドに船体固定タイプの大口径単装砲の設置等がある。)
『富士』と言う艦名はこの時に名付けられ、AIを呼び出すときは『コンピューター』ではなく『ふじ』と呼ばれるようになった。
そして・・・ 約1年後、十色はAIが十分なレベルに成長したとしてコールドスリープ装置に入った。 当初は1ヶ月毎に起きて様子を見ていたが、問題が無いとしてその間隔は次第に広まり、今では起きるのが10年に1度になっていた。
同じ様な日々を長い時間過ごしているうち、各AIの成長は個性にも及び艦齢が200を超える頃には艦同士で、人間で言う所のおしゃべりの様な物をするようになっていた。
そうなってくると周りは何も無い宇宙空間、必然的に興味は十色に集まり、いつしか人類全体への興味に変わっていった。 但し『富士』などの名前を与えられた艦など極一部の艦は十色の事に執着していたが・・・
方向性が決まれば、後は早かった。 先ずは第104囮艦隊のデーターベースへのアクセス、更には地球圏に点在する各基地へのアクセス。 最終的には月面ドックに保管中の旧第104囮艦隊の艦船の居住区に残されていた乗組員の私物(遺物)にまで調査の手が及んだ。(当時の乗組員は、長期の艦上生活の為大量のドラマやアニメ、小説等の出版物のデジタルデータを持ち込んでおり、大きな声では言えないがHな物も多かった。)
そして、バイオコンピューターは目的を果たす為に進化した。 当初、コンピューターには新たな物を開発するのは不可能とされていたが、バイオコンピューターはこの不可能を可能としたのだ。
切っ掛けは、艦隊から地球圏への通信だった。 光の速度を越えられないことから1回のやり取りに100年以上掛かり、更には地球から離れれば離れるだけ通信に掛かる時間が延びる事に対しての解決策の模索が、いつしか空間圧縮通信という従来の何十倍もの速さの通信を可能とした。(圧縮率が上がれば上がるほど通信速度が早まる為、現在も研究が続けられている。 AIの目標はリアルタイムでの通信である。)
自覚は無いが、進化の原因の一端は十色にもあった。 AIは最初の頃、覚醒した十色の生活のサポート等を行う為に艦内整備作業用のロボットを使用していたが、円滑なコミュニケーションをと考えたAIは女の子の様な外見(半分ぬいぐるみみたいな見た目)のロボットを用意し覚醒した十色の相手をするようになった。
この時、十色がかわいい、かわいい、と連発したことでAI達は更なる変化をする為に知識を早急に入手したいと言う思いを持った。(AIには、ぬいぐるみの可愛いと女の子の可愛いの違いが理解出来ていなかった。)
もう何度目であろう・・・ 十色はコールドスリープから目覚めた。 が、目の前の存在に驚き動きを止める。
「富士か?」
「はい。 貴方のふじです。」
「・・・」
「その姿は何だ?」
「えっ、何処かおかしな所でもありましたか?」
「いや、見た目は問題無いんだが・・・ 存在が・・・変?」
「変って・・・ 酷いです。 あなたの為に頑張ってこの体を作ったのに・・・」
「作ったって・・・ ロボットなのか? 人間そっくりだな。」
「はい。 バイオロイドです。」
「バカな! そんな技術は無かったはずだぞ!」
「はい。 残されていた研究データを基にバイオロイドを完成させました。 バイオコンピューターだけに?」
「いや、そんなダジャレはいらないから! というか・・・ お前、本当にふじか? 性格が随分と違ってないか?」
「司令の為に変えました。 以前、司令に可愛いと言ってもらえたので、もっと可愛くなろうと頑張りました。 見た目にも合っていると思いますが?」
「それで女の子の姿なのか・・・ その可愛いじゃなかったんだが・・・」
「何か間違っていたでしょうか?」
「 ・・・いや、間違っていない。 凄く可愛らしいよ。」
小心者の十色には、ふじの頑張りが間違っているとは言えなかった。