005 更なる航海
艦隊の受け渡しが終わった後、1人が訪ねる。
「司令、艦隊の名前はどうしますか?」
「そうだな・・・ 我々にとって艦隊名と言ったらこれしかないだろう・・・ 『第104囮艦隊』だ。」
「そうですか? いや、そうですね。 早速全艦船に『国際連合宇宙軍 第104囮艦隊』の文字を刻む事としますか。」
「ああ、そちらは任せる。 ところで、1万もの艦船名はどうやって付けたんだ?」
「実は・・・ 番号をふってあるだけで、名付けていません。 流石に1万もの名前を考えるのは・・・ ですので、必要に応じて適宜そちらで付けてください。 良い暇つぶしになりますよ、きっと。」
「そうそう、100年もあればきっと名前の1万や2万、思いつきますよ。」
「おい、今2万って言ったな! まだ何か隠しているのか?」
「いえいえまさか。 ただ、将来的に自己学習したAI船だけの分艦隊を作ったりしていけば・・・ まぁ数は増えていくなと思いまして。 理論的には幾らでも数を増やせますから。」
「ただ、教育だけはしっかりしてくださいね。 バイオコンピューターは今までのコンピューターと違い僅かですが個性がある為、経験をデジタル化して全艦で共有、同じ性能UPとはいきません。 共有した情報を基にそれぞれが学習する必要があります。」
「あぁ、変な心配はしなくていいですよ。 学習の末、反乱を起こしたりとかは無いんで、艦隊規約や基礎道徳等は製造段階で不変領域に焼き付けてあるので、基底部分のところは変わりません。」
「さすがに100年以上使い続けた例はありませんが、研究室のバイオコンピューターは約20年使用して問題を起こしていません。 まぁ艦船には初めて搭載しましたから、将来どうしても不安だと思ったら従来型のコンピューターに乗せ換えてください。 性能は落ちますが、それでも新型艦は動くように造ってあります。」
「そうか、了解した。 しかし、100年か・・・ ずいぶんと進化したな。」
「はい。 それなのですが・・・ 司令、研究職の人間も我々8人だけになりました。 それに年も取りましたし、これ以上の研究は続けられないとの結論に達しました。」
「そうか・・・ 皆よく頑張ってくれた。 本当によく頑張ってくれた。 とても感謝している。」
「はっ、ありがとうございます。 そこで・・・」
「そこで、老い先短い我々ではありますが、人類の復興を夢見てコールドスリープでの眠りに就きたいと思います。」
「そうか・・・ 皆同じ思いか?」
「「はい。 許可をいただきたく存じます。」」
「もちろん許可する。 ・・・それでこの艦隊とシステムを作ったのだな?」
「はい。 新兵器の開発はできなくても、このシステムがあれば推進装置のユニットを追加して高加速タイプの船にしたり、対艦ミサイルのユニットを対空機銃のユニットに交換して対空能力をUPしたりと、状況に合わせた改装が手軽にできます。」
「司令にはこれから先、少しでも長く使ってもらえるようにと我々で考えました。」
「そうか、皆の思い確かに受け取った。 後は私に任せ、ゆっくりと休んでくれ。」
「はっ。 ・・・最後に1つお願いがあります。 これから先、1万年、10万年と過ぎ、それでも人類が見つからなくとも、司令が老い人類復興が無理だと判断なされた時には我々を覚醒させて下さい。」
「そうです。 是非お願いします。 最後は皆で同じ時を過ごしたいと思います。」
「あぁ、それはいいな・・・ やるだけやって、それでもダメな時は・・・ 最後に皆で酒でも交わすとするかぁ。」
「「 ・・・はい。」」
その後、艦隊の完熟訓練、人類捜索計画の見直し等で1ヶ月の時を共に過ごし、年老いた8名はコールドスリープでの長い長い眠りについた。
そして・・・
1万もの宇宙船に囲まれながらも十色は1人、人類を探す長い航海へと旅立っていった。