003 本部の人達
定時報告から十色が艦隊を率いて中継基地に向かっていることを知った本部基地(月面に有る旧星系軍本部)では、地球圏に居る人達である話し合いがなされていた。
「生き残っている人員の少なさから、今後は敵艦の残骸から異星人のテクノロジーを調べたり、新たな技術開発はほぼ不可能と考えている。」
「その考えにはまったくの同意だ。 既存の技術による製造や整備作業ならロボット達で可能だが、新たな物を考えだす力はない。」
(艦艇乗り組みの専門教育を受けた人材は、第104囮艦隊のような三桁艦隊にはほとんど回されてこなかった。 その為、知識人なら一般人よりは船を上手く操作できるだろうとの考えで、主流派ではない派閥の学者や研究員らが民間船と共に多く集められ、乗り込んでいた。 その結果、第104囮艦隊の生き残りが殆ど研究職の人間になってしまっていた。)
「そこでだが、十色司令の人類捜索艦隊は第104囮艦隊の頃の艦艇をそのまま使用していて、まるで骨董品だ。 しかも商船改造の船ばかりで能力も低い。 オーバーホールなどではなく、今持てる技術の粋を集めて新造艦を造るべきではないだろうか。」
「あぁ、そうだな・・・ 我々も皆年老いた。 最後に、せめて新型艦ぐらいは司令に残してあげたいな・・・ 」
「「・・・」」
(十色司令は、何か問題が起きた場合を除きほぼコールドスリープ状態なので殆ど歳を取らないが、地球圏に残っているメンバーはエイリアンテクノロジーの解析や新技術の確立、人が住めなくなった地球環境の改善など、基本的に人が監督する必要のある仕事をしているため、あまりコールドスリープ装置を使う事がない。 その為、高齢化が進んでいる。)
「幸い、司令が戻るまで約1年ある。 製造はロボット達に任せるとして、我々は少しでも良い艦を設計しようじゃないか。」
「そうだな・・・ よし、皆で司令の度肝を抜いてやるとするか。」
「ああ、今から司令の驚く顔が楽しみだ。 早速、例の3人を除いた残りの皆も起こすとしよう。」
本部基地では最後の大仕事と言わんばかりに人々が動き出した。 彼らは、戦艦、巡洋艦、駆逐艦、空母などの戦闘艦艇だけでなく。 資源採取・精製船、物資製造船、農業船、整備・作業船、補給船、病院船などあらゆる分野の艦艇を設計した。
そして時間の許す限り、試作艦の建造と改良を重ねた。
そして半年後、月面ドック内に並べられた試作艦を眺めながら皆が集まって話をしていた。
「船の建造、量産にかかる時間を考慮すればこの辺りが設計に回せる時間の限界だろう。」
「そうだな、いくら工場で製造されたユニットをロボット達が24時間休みなしで組み上げるといっても限界があるからな。 残りの時間は建造と中継基地への移動に回すとしよう。」
「もし時間が余ったとしても、交換用のユニットを増産でもしておけばいいしな。」
「ああ、これらの船は完全なユニット構造のおかげで造船所のドックに入らなくてもユニット交換で船の性能を維持できる造りだからな、交換ユニットは多ければ多いほどいい。」
「それはそうだが、ほどほどにな。 ユニットは使い捨てじゃなく、整備・作業船でオーバーホールすれば使いまわしがきくし、多すぎると補給船に積みきれなくなる。」
「ハハハ、そこまではやらないさ。」
皆、近年まれにみるやる気を見せ、活気に満ちていた。
ーー例の3人について説明ーー
戦時中、第104囮艦隊は破壊された民間船からコールドスリープ装置を3基回収した。 幸い内部電源がまだ生きていたので中の人は無事だったが、その頃には既に地球に人類は無く、引き渡す先が無かったので、そのまま旗艦内部でコールドスリープを続けていた。
戦後、改めてコールドスリープ中の3人を覚醒し、状況を説明。
(生き残った人類はここにいる約500名のみ、今後は避難船団を探し出し地球へ帰還させるつもりでいる。)
3人(父、母、娘)は改めて地球に人類が戻るまでコールドスリープ装置で眠りにつく事を希望したため、月面の本部基地の地下深くに隔離された。
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