002 現状確認
翌日、目を覚ました十色は身支度をした後、艦橋に上がった。
「コンピューター、報告を聞きたい。 先ずは艦隊の現状からだ。」
「了解しました。 艦隊総数171隻、脱落艦無し、人員機材異常なし。」 音声による報告と共に詳細データがモニター映し出される。
十色は表示される情報を確認しながら、気になる箇所を尋ねる。
「弾薬類の消費が多いようだが・・・ 説明を頼む。」
「はい。 航路上の岩礁地帯を啓開する為に砲撃を実施したため、消費量が増えました。 なお、消費量は設定許容量内に収まった為、特異事項に認定しておりません。」
「了解した。 ではシールドエネルギーの消費量が増えたのも同じ理由だな。」
「はい。 破砕された岩屑がシールドに多数当たった為です。」
「なるほど・・・ 後は、各艦の故障の頻度が上がっているように見えるが?」
「はい。 全てレベル2以下の軽微な故障ですが、最後のドック入りから既に100年以上が経過しており全体的に船体剛性が正常値より低下、故障が増加しています。 このままではレベル3以上の故障や事故が起きる可能性も低くありません。 入渠し、徹底的なオーバーホールの実施を推奨いたします。」
「そうだな・・・ 普通なら艦齢30年で廃艦となるところを100年以上使っているからな・・・ よし、一番近い中継基地で整備を行う。 進路を変更してくれ。」
「了解しました。 現在進路変更中、中継基地まで約13ヶ月かかる見込み。」(艦隊は地球を出発した後、上下左右全天360度を地球を中心に円というか球を描くように索敵範囲を広げていたので、100年以上航海を続けていると言っても直線距離で見た場合それ程地球と離れていない。 ましてや中継基地はそれよりも近い場所に存在する為13ヶ月でたどり着ける。)
「よし、では次だ。 この一年間、友軍の手がかりは有ったか?」
「有りませんでした。」
「 ・・・そうか、このデータを見る限りこちら方面は望み薄のようだ。 中継基地での整備作業を終えたら捜索計画を一から見直した方が良いかも知れないな・・・」
「では、1年間の本星からの通信連絡を確認する。 定時報告以外の連絡は何件ある。」
「はい。 1件です。」
「そんなものか・・・ モニターに出してくれ。 定時報告は後で確認するので艦長室の端末に転送してくれ。」
「了解しました。 表示します。」
「 ・・・そうか、山下技官が亡くなったか・・・ あの戦争が終わった時、第104囮艦隊には500人近くの生存者がいたんだがな・・・ これで生き残りは私を含めて12人か・・・ 生きているうちに脱出して行った避難船団を見つけられればいいが・・・ せっかく地球を取り戻したのにそこに住む者がいないのではあの苦労は何だったのか。」
「 ・・・さて、念の為確認するが、敵についての新たな情報は?」
「有りません。」
「そうか、私は艦長室に戻り1年分の定時報告に目を通す。 今日こちらから発信する報告には、進路変更と中継基地でのオーバーホールについて忘れず入れておいてくれ。」
「了解しました。」
十色はその後1週間をかけ、各艦の視察や情報の分析等を行いながら過ごしていた。 そして・・・
「コンピューター、私はこれからコールドスリープ装置に入る。 今回は1年後ではなく、中継基地到着の1週間前に覚醒させてくれ。」
「了解しました。」
十色は長い眠りについた。
ーー避難船団の説明ーー
正体不明の敵艦隊に太陽系内まで攻め込まれた時、撃退は不可能であるとの結論から地球からの人類脱出計画が発動された。
初期の避難船団(第1次~第5次避難船団)は1船団あたり100万人規模の避難民を乗せており、そのほとんどが権力者や富豪などから構成されていた。 ただし、世間の目をごまかすために約1割程は無作為抽選で選ばれていたが、乗り込んだ宇宙船は豪華客船と貨客フェリー程の違いがあった。
中期の避難船団(第6次~第15次避難船団)は1船団あたり100万人規模は変わらないが、船団の艦船や装備の質が下がっていった。
後期の避難船団(第16次~第25次避難船団 但し戦況の悪化により第25次避難船団は中止、その後避難船団は編成されなかった。)は1船団あたり1000万人と規模を拡大したが、避難民をコールドスリープで眠らせ貨物船での輸送という事で、生活環境は最悪であった。
それでも地球に残った数十億人の人々が死滅したことを思えば、避難船に乗れた人々は幸運であったといえるだろう。
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