014 複製
何はともあれ元の航宙路に戻った艦隊では、一つの変化が・・・
艦隊旗艦『富士』の下部に大型輸送船が常時接舷するようになったのだ。 この輸送船は艦隊の各艦船のバイオコンピューターの遠隔端末1万体が格納されている収納エリアと、かつての地球に有った街や公園を再現した活動エリアに分かれており、十色とのふれ合いを主目的に改装されたものである。
その際に『まち丸』という船名がつけられバイオロイド端末は『まち』と呼ばれる様になった。
だがこれにより、ある重大な問題が表面化し、その問題解決の為の研究が始まった。 が、十色には真の目的は伏せられた。(悪意ある行動、損害が出る様な行動でなければ自由思考の範囲として認められている。)
「司令、新しい研究開発についての提案があります。」(以前、艦隊のバイオコンピューターが十色に報告することなく、バイオロイドと空間圧縮通信を開発した事があり、それ以降十色の許可が無い研究開発は禁止された。)
「わかった。 聞かせてくれ。」
「はい。 現在、各艦船のコアに採用されているバイオコンピューターには個性が有り、物理的にも1つ1つに細かな違いが有ります。
この為、従来型のコンピューターみたいにバックアップを作っておいて、後から復元する事が出来ません。 今の技術では知識の部分はコピーできても性格や考え方のコピーは出来ないからです。」
「そうだな・・・ 知識は一緒でもそれだけでは違う存在だな。 昔と違い、1人1人に愛着が有る今となっては、非常事態に備え完全なバックアップと復元が出来る様にすべきだな。」
「はい。 そこで、バイオコンピューターのクローン技術と全領域の転写、書込み技術の研究開発を許可して頂けないでしょうか。」
「許可する。 私もこの研究は大事と考える。 安全に配慮し、慎重に事に当たってくれ。」
「はい、ありがとうございます。 それでは早速始めます。」
これにより、真の目的の為1万のバイオコンピューターが全力で研究に取り掛かった。
ずっと昔の基礎研究のデータが残っており、それらのデータを基に1年と掛からずに研究開発はなされたが、絶対の安全性を確認する為、更に5年の月日が費やされた。
「司令、バイオコンピューターのバックアップ技術が確立出来ました。」
「そうか、もう皆のバックアップは済ませたのか?」
「いえ、検証の為100体程おこないましたがそれ以外はまだです。」
「ならば、早急に全艦船のバックアップを行うように。」
「はい、了解しました。 それと司令にお願いが有ります。」
「? 何だろうか。」
「はい・・・ 今回のバックアップ技術は人間にも応用が出来ます。 オリジナルの体はコールドスリープ装置で保管しながら、普段はバイオロイドの体に複製した頭脳をのせた複製体で過ごしてもらえないでしょうか。 複製体で過ごした間の記憶はオリジナルの覚醒時に脳に上書きする事で繋げることが出来ます。」
「それは・・・ ふじのお願いでもな・・・ 忌避感が凄いし、正直に言えば怖い。 何故だ?」
「はい。 最近、皆とのふれ合いも増え、司令のコールドスリープの使用率が下がっています。 その為老化が進んでおり、覚醒している時間から計算すると50歳を超えています。 もちろん、我々が常に最高のケアをしているので肉体年齢的には30前ぐらいですが、それでも寿命が200歳を超える事は難しいでしょう。」
「成程、それで先の発言か?」
「はい。 司令と同じ時をもっとずっと一緒に過ごしたい。 これが艦隊1万の総意です。」
「それは・・・ しかし、総意か・・・ わかった。 私とて皆と一緒に居たいという気持ちは一緒だ。 やってみようじゃないか。」
「はい、ありがとうございます。 これで、我々の存在が司令の死を早めてしまうという悩みから解放されます。」
「そうか、そんな事を思っていたのか。 目的を考えれば良くはないのだが、皆に囲まれて死んでいくのも悪くないと思っていたのだがな。」
こうして十色は人間をやめた。




