132 三笠の修理
さて、なんだかんだ言いつつも十色は『三笠』達の修理に取り掛かった。 (三笠だけは、その巨体が祟って修理開始では無く、修理準備開始となった。)
と言っても元通りにするだけなら十色が直接何かをする必要は無く、部下に丸投げにするだけなのだが・・・
なので今の十色は、主に撃沈された護衛艦24隻分の再設計を行っていた。
本来、護衛騎士の乗艦たる護衛艦は1つとして同じものが存在しない為、通常は1隻づつ専用の再設計が必要となり、膨大な時間を必要とするのだが・・・
過去に行った改装作業によるデータの蓄積も十分溜まり、バイオコンピューターの支援も有る事から十色は2日で24隻分の図面を仕上げて見せた。
図面のデータを送られて来た各護衛騎士家では、あまりの速さに驚きつつも当主によるチェックが早々に行われ、速い所では1週間とかからずに護衛艦の建造が始まった。
ただし、前回の戦闘で当主が戦死した騎士家もあり、葬儀や跡取りの当主襲名儀式など、中々図面のチェックが出来ずにいる家もあった。 又、襲名したてで経験不足から思うように図面のチェックや変更箇所の指定などができずに建造開始まで半年以上かかった家もあった。
そんな中、『三笠』の修理には準備に時間が掛かった。 新造した時はドックに入りきらないので、ドックの外でユニットを組み立てたのだが、ボロボロの今の状態でユニットのパージなんかしたら剝がれ落ちたりした部品によるデブリが大量に発生してしまう為、第3工業コロニーの造船所に大型艦対応のドックを新設して対応する事にしたのだ。
ほとんど張りぼての様な簡素な造りだったが、大きさが大きさの為、完成に1年近くかかってしまい、永らく『三笠』は王家専用の軌道桟橋に係留されていた。 (因みに、ボロボロになっても戦い続けた『三笠』を一目でも見てみたいと日々人が訪れ、半ば観光地と化していた。)
なので、完成したドックへ『三笠』が回航される時は、まるでお祭り騒ぎと言った賑わいを見せ、その様子は各局のニュース番組で放送された。
さて、ドックに入渠した三笠は早速ユニットの連結を解き、十数の輪切り状態になったかと思うと、損傷したブロックを次々と新品と入れ替えて行った。 ドックに入渠するまで1年もあった為、交換部品の準備はバッチリである。
無数の作業機械がバイオコンピューターの制御の下、効率良く作業・・・
半日程度で全ての損傷ブロックは取り替えられ、あっと言う間にユニットの再連結まで完了してしまった。
ボロボロだった『三笠』が翌日には新品同様の姿でドックから出て来た事に気が付いた人々は訳が分からないと呆けていたが、時間が経つにすれ驚きと共に騒ぎが拡大していった。
超巨大戦艦、一晩で元通り・・・
魔法か? 奇跡か?
在りえない・・・ これは現実か?
人類には不可能だ・・・
何で・・・
どうして・・・
・・・
・・
・
テレビでは特番まで組まれ討論会まで・・・ 中小企業にすぎない赤板グループはどんなトリックを使ったんだと、世間の話題を独り占め・・・
ますます目立ってしまう結果となった。
さて、少々やる気を無くしながらも新地球の生活を楽しんでいた十色だが、空間圧縮航行の実用化の目途が立ったとの連絡を受け興味が移っていた。
同盟各国との共同研究の結果、月で開発された空間圧縮航行システムは基本的に完成しており、運用方法さえ間違わなければ十分実用にたりるとの結論に至ったのだ。
早速、運用方法の確立やシステムの普及についての会合がおこなわれ、軍艦にシステムを搭載する場合は外付けユニットにする事が決定された。 ユニットには自立航行機能を持たせ、『ファースト』や未知の敵と戦う場合には『戦場に持ち込まない』、『敵の目に触れさせない』事が規則として制定された。
人類生存圏の爆発的拡大期がすぐそこまで来ていた。




