128 十色と月の老兵達・・・ どっちもどっち
さて、十色は早速出来上がった皇室専用艦を引き渡そうとしたのだが、地上の専用格納庫がまだ完成していないとの情報を得て・・・
「どうやら早く造りすぎた様だ。 まさか納入先の格納庫の拡張工事が終わっていないとは・・・」
「はい、仕方がない事かと・・・ 元々工期5年で受注していた皇室専用艦を1年で造り上げてしまったのは予想外すぎたと思います。 現在、こちらに合わせ格納庫の工事も急ピッチで行われていますが、最低でも後半年はかかります。」
「半年か・・・ ただ待っているのも芸がない、専用の大型盾艦を2隻造ろう。 どんな感じにしようかな・・・」
「司令、勝手に船を増やしては契約違反になりますよ?」
「ダメか?」
「はい。 ダメです。」
「「・・・」」
「そうか・・・ よし、皇室専用艦のオプションとしよう。 盾艦では無く遠隔操作の可動装甲としておけば問題無いだろう? あくまでも1隻とその装備品と言う事で・・・ 」
「ダメか?」
「「・・・」」
「 ・・・仕方ないですね。 それならまぁ・・・」 (何処までも十色にあまい『ふじ』であった。)
そうなれば自重知らずの十色である。 可動装甲と言う名の戦艦を2隻同時に造ってしまった。
さて、新地球においては未だタイプ41重レーザー砲が主力兵器として使われており、そこに登場した皇室専用艦のタイプ51重レーザー砲と可動装甲艦のタイプ46重レーザー砲は驚きと共に衆目を集める事に・・・
結果、皇室侮りがたしと威容を高める事になったのだが、新地球産の代替え部品で造ったため、連射に耐えられないと言う欠点が・・・ (15~20発の砲撃で射撃装置の複数の部品がダメになる。)
出力を下げれば問題無いが、それでは大口径砲の意味が無いと十色がこだわりを見せたため、負荷の掛かる部品を一ヵ所にまとめてカートリッジ化し、10発発射する事にカートリッジ交換する方式とした。
但し、カートリッジが大型の為、交換作業に5分以上要する事から10発毎に砲撃を止めインターバルをとらなければならないと言う欠点が出来た。 (この欠点は防衛秘密として、この艦の乗員と一部の皇室関係者のみが知る。)
そして、新地球には大型電磁投射砲関連の技術が無い事からレールガンの搭載を諦め、替わりにガトリング水鉄砲を基に新規開発した広域拡散水鉄砲を搭載した。
これは、レールガンの様な攻撃兵器では無く、レーザー攪乱粒子を混ぜた水をシャワーのようにばら撒き、無数の氷の粒が敵レーザーを乱反射させて威力を減衰させる防御兵器である。
結果として防御重視の艦となったが、皇族の安全性を考えれば悪くない物となった。
こうして十色は新地球に掛かりきりとなった事もあり、テラⅡなどの同盟各国との話し合いなどは現地駐留部隊のバイオコンピューターに丸投げ状態となっていた。 (人類生存圏におけるファーストの殲滅が完了した事で人類の拡散は加速すると見られ、十色は今後人類が勝手に増えて行くに任せる事にしたのも理由として大きい。)
『かねつき』についても、増援部隊の派遣をせずに基本的には静観する構えである。 (新地球に足掛かりが出来たので、前線基地としての必要性が無くなった。) ただし『24番国』~『かねつき』間の安全航宙路は設置する事が決まっており、調査艦隊による航宙路候補宙域の確認作業が実施中である。
その頃月面では・・・
老人達が空間圧縮通信を基に空間圧縮航行システムの試作装置を作り上げていた。 この装置が上手く作動すれば夢の超光速航行が実現できると、老人達はノリノリであった。
そして、開発隊群、次世代艦開発局所属の『装備試験艦エクスマス』ASE-0021を勝手に改造し試験航行を行った。 そして・・・
後になってその事を知った十色は月に怒鳴りに行きたいとの強い思いが・・・ しかし今、新地球を離れる訳にも行かず・・・ (月まで行って帰って来ると、新地球の人々は世代交代が進んでしまい、今までの人脈が無駄になる。)
ただ拳を握りしめ震わせる事しか出来なかった。
「はぁ・・・ ふじ、月の連中が勝手な事をしないように出来ないかな? 自由過ぎるだろ!」
「はい。 無理かと・・・ 司令も大概自由ですし? 何千年も生きていると、普通の人とは感覚が違うのでは? と思っていました。」
「えっ、そんな認識なの? 自分じゃ普通だと思ってたんだけど・・・」
「司令、皇族専用艦に使った重戦艦の技術は『テラⅡ』との共有知的財産ですけど、許可は取ってますか?」
「・・・」
「許可なく最新技術を敵に渡す事が普通だと? 本気で思っていますか?」
「・・・」
いつの間にか自分が呆れられていた十色である。




