124 先ずは海軍
十色達の侵食作戦は、病院のデータ改ざんから始まった。
1日に何人もの赤ん坊が産まれる大病院のデータに複数の出生記録を潜ませる。 次に金で雇った貧民街の住人に赤ちゃんバイオロイドを育てさせる。 (この時に引っ越しをさせ、健康診断等は別の病院を使わせる。)
複数個所で育ったバイオロイド同士による偽装結婚と各種職業への就職・・・ これが第一段階。
第二段階は、医療関係に就職したバイオロイド達が集まり独立して病院を建てる。 この病院を利用して偽装夫婦のバイオロイド達が子供を産んだ事にし、新地球の戸籍を持ったバイオロイドを増やす。
そうしているうちに最初のバイオロイドの為に金で雇った親達が寿命で死んでいくと共に、この頃になると最初の出生データ改ざんも病院の各書類の保存期間が過ぎて処分されているため、調べる事が出来なくなる。
そして第三段階、遂に潜入バイオロイドによる中小企業の買収が開始された。 対象とされたのは、民間向けの小型推進装置の製造会社や大手メーカー製機器の消耗品 (安い互換品)を作る、業績がいまいちの会社等だった。
その次に買収されたのは、大手を含む多数の会社にボルトやネジ等を納入している下請け部品メーカーで、目立たぬようゆっくりと時間かけ複数社が買収されていった。
こうして下準備が整った十色は次の段階へ進んだ。
先ずは貴族派の軍との取引の実績を作る為、赤板工業 (十色が買収した会社の一つ)を使い惑星上で使用する海洋型艦艇の選考会の支援船部門に新型船を出品した。 (赤板工業は100年以上前だが軍の雑用船に対してエンジンを納入していた実績が有り、何とか参加資格を得る事が出来た。 但し現役艦艇で赤板工業のエンジンを使用している船舶は無く、軍関係者にとってほとんど無名の会社であり、当初は見向きもされなかった。)
この赤板工業の新型船は大企業の新型船に比べ、カタログスペックの上では9割程度の性能でしかなかったが、軍内部で行われた運用試験において現場の評価は非常に高かった。 (大手の新型船は、用途ごとに高価な専用のオプション装備を必要とし、なおかつ、オプションの変更作業が煩雑なのに対し、赤板工業の新型船はオプションを必要としないばかりか、いちいち用途変更作業を必要としなかった。)
「正直、性能表を見た時は貴社 (赤板工業)の新型船に興味を持っていなかった。 大手のオプション選択方式の方が無駄が無いと思えたしね。」 (一般的に何でもかんでも船に積めば良いというわけではない。 目的に必要でない物を搭載すれば、場所もとるし重量が嵩んで燃費が悪化する。 又、使用しなくても船に搭載しているだけで潮風などによる腐食や故障が起きやすくなるので、維持整備にも余計なお金がかかる。)
「ええ、当社としても新しいコーティング技術により従来の欠点を克服出来ていなければ、新型船を発表したりしなかったでしょう。 それに採用された際、現場での使用状況データを提供して頂ける前提での開発費の圧縮により、低価格で提供出来る見通しが立ちましたので・・・ 」
「ふむ、実に素晴らしいですな・・・ ただ、やはり過去の実績と言うのはそれなりに重要視されます。 赤板工業の製品が軍で採用されていたのはかなり前の事ですし、最近では全く軍との繋がりが無かったのは・・・ 」
「確かに実績は大事です。 しかし、何事にも最初と言うのは//~中略~//ではないでしょうか?
ところで、この新コーティング技術を軍民問わず多方面に広げる為の新部署なり子会社なりを設立する事を計画しています。 又、軍との円滑なコミュニケーションを取る為にも軍関係者用の会社役員の椅子をそれなりに用意する予定なのですが、それには新型船が採用される必要が・・・ 」
「ほう・・・ 役員の椅子ですか。 いや、貴社の新型船は実に素晴らしい。 知り合いに声をかけておきましょう。 ただ、椅子は8つほど有ればほぼ確実なのですが?」
「さすが大佐、素晴らしい人脈をお持ちのようだ。 椅子は12個程用意しますので、後はお願いしても?」
「ええ、そこまで用意して頂けれは確実に・・・ 」
「「ニヤリ」」
こうした一幕があったとかなかったとか・・・
又、予算的にも各種オプションを揃えた場合の大手新型船に比べ半額以下で購入が可能な事から、赤板工業の新型船は多用途支援船として採用される事になった。
その後も十色は、赤板工業を始めとする買収企業の商品をじわじわと浸透させていき、更に20年が過ぎた頃になると小規模ながらグループ会社による企業体が作られ、宇宙産業への参入も始まっていた。
この頃になると企業共同体から、取り込みのためらしき接触も始まり・・・




