123 新地球
さて、第104囮艦隊は『かねつき』近傍宙域に進出したのだが・・・
「司令、『フヒム・エー』から業務引継ぎについての問い合わせが来ていますが、何時頃交代なさいますか?」
「ふじ、私は『フヒム・エー』にもっと経験を積ませるつもりでいる。 交代はしないと伝えてくれ。」
「はい、了解しました。」
十色は、『第1特務部隊』の『フヒム・エー』に外交を任せていた。
それでは、十色が何をしていたかと言うと・・・ 『新地球』に関する情報を解析しながら今後について考えていた。
「彼等は200年以上前に行った此方の問い掛けに返事を寄こさなかった。 故意にこちらを無視していると考えていいだろう。
しかし、『かねつき』方面宙域に対する武力侵攻は停止している。 これは、現場と中枢部の考えが違うのか、それとも別の何かが・・・ 」
「はい。 返事が無いのは中枢部の意見統一が成されていないからの様です。 各派閥の主張が大きく異なっています。」
「派閥か、彼等は一枚岩とはいかないみたいだな。」
「はい。 一番大きい派閥として企業共同体があります。 名前の通り各企業が集まり利益の追求を第1目標に掲げており、拡大路線を推し進めているのがここです。
そして、二番目に大きいのが貴族連合となっています。 各国の王族、貴族の子孫達の集まりで、企業共同体の強引なやり方に異を唱えております。 また、地球の奪還を目標に掲げていますが・・・ 企業共同体との力の差は歴然で、年々発言力が下がっています。
三番目には警察と一部の政治家や軍人の集まりがありますが、殆どの政治家と軍人は企業共同体か貴族連合に仕えている為、さほど力は有りません。
四番目以降は、派閥と言うほどの勢力は有りません。」
「そうか・・・ 私としては、さっさと逃げ出した企業家どもの子孫より、子供達だけを逃がし、ほとんどの大人が地球と共に散った各王族、貴族達の子孫には頑張って貰いたいところだな。」
「はい。 どうなさいますか?」
「そうだね・・・ 手頃な中小企業を乗っ取れないかな? 後はそこを通して貴族派と繋がりを作り、段階的に支援が出来れば・・・
反対に企業共同体の方は力を削れると・・・
よし、企業共同体とも繋がりを持とう。 こちらは相手をミスリードする方向で発言力を下げるよう工作しよう。」
「はい。 しかし、新地球の管理体制はかなり優秀です。 簡単にはいかないかと・・・」
「ああ、今すぐが無理だったら、100年でも200年でも、それこそ1000年かかっても、少しずつ少しずつ侵食していけばいいさ・・・
此方にはいくらでも時間が有る。」
「はい、了解しました。 各企業の情報収集と選定作業を行います。」
さて、今回の十色は新地球からの返事が無かった事もあり、表から乗り込む事を止めた。 その代わり、こっそり内部から動き出したが・・・
これを受けて『かねつき』方面宙域は引き続き『フヒム・エー』の『第1特務部隊』が新地球の現地部隊を抑え込み、他の宙域については同盟各国の調査艦隊が中心となり領宙域の拡大を計る新地球艦隊を牽制する事になった。 (もっとも、広大な宙域を調査艦隊だけで対応するのは不可能なので、第104囮艦隊に同行した護衛隊群が裏方として暗躍していた。)
そして、それから長い月日が過ぎ、十色の新地球内部での本格的な行動が開始されたのは、100年以上経ってからだった。




