117 戦いの前・・・ の日々
『第1特務部隊』の『フヒム・エー』による『新地球統合軍』と『かねつき』の停戦については一応の成功?を収める事が出来た。
そこで十色は、一番の懸念事項となる『ファースト』の新艦隊について、同盟各国との調整を進めていた。
「ふじ、今回の敵艦隊に対する各国からの意見はどうなっている?」
「はい。 殆どの国が従来通りの監視に留め、人類の生存圏に近づくまで様子見を との事ですが・・・
一国だけ別の意見を述べています。」
「ふむ。 どの様な計画だ?」
「はい。 最新鋭の『ファースト』新艦隊がゲートを離れた後、ゲートと従来型の艦船からなるゲート守備艦隊を壊滅させ、その後に敵の新艦隊と戦う事で敵に対し情報を秘匿できる可能性があるのでは? と言っています。」
「成程、敵の通信手段は依然不明だが、ゲートが通信の中継ハブとして機能している可能性は大いにあるな・・・
ゲートの守備に就いている旧式艦隊相手なら此方も1世代前の艦船で十分に対応出来るし、バレて困るような技術も無い・・・
なかなか興味深い案だな、しかし『ファースト』との接触を全て断つことになるか・・・
今後の監視が出来なくなるが、候補の一つとして採用しよう。」
「はい。 了解しました。 候補として作戦計画の検証を行います。 又、この案が採用された場合のゲート襲撃用に、星団連盟にてバージョンアップ中の第12護衛隊群の中から、第B08~第B10護衛隊の3個護衛隊3万隻を旧バージョンに留めおきますが宜しいでしょうか?」
「ああ、それで構わない。 それと・・・ 『電波妨害艦』と『電波妨害機』に対しては何か案はなかったか?」
「はい。 有用性の有る案はありませんでしたが、今後の安全航宙路の増設に鑑み、安全航宙路管理部隊への移管案が一番現実的かと、パトロール船と索敵機として使えない事もないので・・・」
「それしかないか・・・ 他の任務に支障をきたさない範囲で移管処理を進めてくれ。
何百年も様子を見て電波妨害に有効性が有ると判断したのだが・・・ 今回は完全に読み違えたな・・・」
「はい・・・ 手続きを開始します。」
この様に十色達は早々に物事をきめていったのだが、新地球関係は返事が来るまで何十年も掛かりそうだし、第104囮艦隊本隊を動かすにしても、24番国の安全航宙路の開通を待つ関係から100年は動けそうにない・・・
『ファースト』の新艦隊発見に騒ぎ出していた同盟各国も、実際に対峙するのが何世代も後と言う事で関心が薄くなっていった。 (戦闘艦の性能アップを怠ると将来的に詰むことを理解しているので、技術開発だけはそれなりの熱意を持って続けられていたが・・・)
最近やる事と言ったら24番国の開発支援や軍備増強支援・・・ 十色のモチベーションが目に見えて下がって行った。 そして、釣られる様に私生活面でも・・・
ふじは色々と十色に話しかけていたが、反応がいまいちであった。 が、その日は比較的十色の反応が良かった。
「新地球統合軍が使用している戦闘艦が統一されていない理由は利権がらみだと思うよ。」
「利権ですか?」
「そう、兵器メーカーが複数存在する場合、一つのメーカーの物だけとはいかないのさ、独占禁止法とか有っただろう?
健全な経済活動を考えるならメーカーを競わせないと・・・ 一社だけだと値段ばかり高くて、性能の低い艦船でも買うしかなくなるからね。」
「!? それは、自由経済主義だと言う事ですか?」
「そう、そして見覚えのあるメーカー製である事を考えると、企業の創業者一族やお抱え技術者が乗り込んでいた第1~第5次避難船団が新地球の正体だと思うんだよね。」
「元地球の特権階級ですか・・・ 新地球を名乗って居る辺り地球への思いが強そうですし、現状を知れば地球へ移住して来るのではないですか?」
「おそらくね・・・ そして、地球の盟主づらするだろうさ」
「司令は彼等の移住に否定的なのですか?」
「何せ、真っ先に地球を見捨てて逃げて行った連中だからね・・・ 好意的にはなれないよ。」
「それで『第1特務部隊』経由で渡した資料が『ファースト』関連に偏っていたのですね?」
「ああ、地球の事はしっかり見極めてから教えるか決めるつもりだ。」
「それでしたらサッサと『ファースト』との決着をつけ、新地球に行ってみないとですね。」
その日から『ふじ』は、十色のやる気を少しでも出そうと『新地球』を話題にする事が多くなったが、どちらかと言うと新地球に対する十色の負の感情が増えて行ったことから、『新地球』にはいい迷惑であった。
いずれ行われる『新地球』とのコンタクトが平穏無事に済む事を祈るばかりである。




