116 話し合い 続き
『新地球』『かねつき』両方の緊張が高まる中、『フヒム・エー』が言葉を続ける。
「この問題は時が経ち過ぎている為、今更証拠を出せるわけも無く水掛論にしかなりません。
そして、この宙域の発見の古さを根拠にしている『新地球』にはこう言いましょう・・・
『国際連合宇宙軍』の調査船団 (第142捜索隊)がこの宙域に来たのは1500年前であり、発見の古さで宙域の領有を認めるならば、『国際連合宇宙軍』の所有宙域と言う事になります。」
「ふざけるな! そんな話が信用できるか! それこそ証拠見せろ!」
第7艦隊司令『テイラ・F・サクラー』が思わず声を荒げる。 『フヒム・エー』としても、当時の観測データ等は残っているが、相手が偽造だと騒ぎだすのが目に見えているのでこれ以上この話はしない。
「この様に水掛論が続くばかりです。 そして、こんなことに無駄な時間を費やす余裕は人類に残されていないと忠告させて頂きます。
人類滅亡を避けるためにも停戦と協力を強く進言させて頂きます。」
『かねつき』側は状況を理解しているので顔を強張らせてはいるが、黙って話を聞いている。 しかし、『新地球』側の反応は・・・
「成程、進言させて頂くなどと言ってはいるが、力の差は歴然・・・ 今はそちらの言い分を聞くしかないが、いずれ本国からの増援も来る。
何時までも好き勝手出来るとは考えないでいただこうか!」
「不満はあっても、停戦には同意していただけそうで何よりです。
それに増援ですか・・・ 我々としてはこの宙域の人類側戦力が増える事を歓迎します。」
「「・・・」」
「それは、そちらの言う人類滅亡に関する話でしょうか?」
「その通りです。 『新地球統合軍』は約3000年前に地球を蹂躙した敵についてどの程度理解していますか?」
「圧倒的な数と技術力で人類を滅ぼしたと・・・ しかし、その後彼等を見かける事も無く、太陽系外に出て来る気配が無い事から、太陽系に近づかなければ問題無いと言うのが我が軍と政府の公式見解です。
それに、よしんば戦う事になっても我々の戦力と技術力は当時の地球の比ではない。 戦う事になっても問題無いと考えています。」
「そうですか、その認識がこの様な行動を容認している一因のようですね・・・
さて、我々『国際連合宇宙軍』と同盟各国ではこの敵を『ファースト』と呼称しています。
そして『ファースト』は『ゲート』と呼ばれる空間跳躍装置を使い、いきなり現れます。 又、『ファースト』は進化します。 戦えば戦うほど戦訓を取り入れ強くなるのです。
地球戦役から3000年、あなた方は『ファースト』と出会う機会がなかった為に危機感が無いようですね・・・」
「・・・それは・・・ それが人類滅亡に繋がると?」
「我々は今現在も『ファースト』の艦隊を補足し、情報収集をおこなっています。 正直言って貴国の戦闘艦艇の能力では相手の10倍以上は数が必要だと思われます。
戦力を集中させておかないと、『ファースト』が現れた時に簡単に国が滅ぶ事になるでしょう。
領土拡大により無駄に戦力を散らすのは愚策と言わざるを得ません。 国のリソースは可能な限り戦力増強と技術開発に回すべきかと・・・」
「相手の10倍必要? 正直信じがたい・・・ 我が軍の戦闘艦は地球戦役の頃より格段に進化している。 そこまでの差があるとは考えられない、そもそも奴らの数も判らない現状では・・・」
「『ファースト』の艦隊は、現状1万隻を1個艦隊として運用しています。 そして現在我が軍が監視している『ファースト』の艦隊は3個艦隊3万隻になります。
戦えば戦うほど敵が強くなることから、基本的に人類の生存圏に近づかない『ファースト』の艦隊については監視のみとしています。
それでも1000年前に『ファースト』と戦う事になり、技術力では負けているのを確認しています。」
「そんな事が?」
「ええ、それらの戦闘データを含めた『ファースト』関連の資料をお渡しするので、本国とよく検討していただけたらと思います。
そうすれば人間同士で争っている場合では無いと理解して頂けるかと・・・」
「分かりました。 しかし、情報の伝達にかかる年数や内容の裏付けを取るのにそれなりの時間が掛かると理解していただきたい。」
「勿論ですとも。」
その後、現場の判断と権限による一時停戦が合意され、今後の連絡方法等の細かい事項が話し合われ解散となった。




