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夜薔薇《ナイト・ローズ》~闇夜に咲く薔薇のように  作者: 椎名 将也
第3章 蒼龍神刀
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9 夜薔薇 vs 混沌龍

 凄まじい破壊力を秘めた漆黒の奔流に、アトロポスは死を覚悟した。超烈な闇の魔力が巨大な螺旋を描きながらアトロポスの体を包み込んだ。

「助けて……、シルヴァァアア……!!」

 両目を固く閉じると、アトロポスは断末魔の絶叫を上げた。


(……! ……!?)

 だが、いつまで待っても、死神の鎌が振り落とされる気配はなかった。アトロポスは恐る恐る黒瞳を開いた。

「え……ッ? 何が……?」

 無意識に混沌龍(カオス・ドラゴン)に向けて突き出した<蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>が、漆黒の奔流を吸収していた。<蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>に嵌められている天龍の宝玉が黄色から黒色に変化し、眩いほどの闇の閃光を放っていた。


 全身に纏っている天龍の革鎧ヘルムドラーク・ハルナスも、同様に超烈な闇の魔力を吸い込んでいた。漆黒の革鎧が(つや)やかな輝きを増し、黒い光輝を放っていた。

「そうか……! 混沌龍(カオス・ドラゴン)衝撃波(ブレス)は、闇属性なんだわッ!」

 闇の魔力による攻撃は、闇属性のアトロポスにとって自らの能力(ちから)を増幅する原動力(エネルギー)に他ならなかったのだ。


 体中が打ち震えるほどの昂揚感に包まれ、信じがたいほどの万能感が全身を駆け巡った。先ほどまで感じていた圧倒的な恐怖さえも払拭する強烈な自信を、アトロポスは実感した。

「今なら行けるかも知れない!」

 アトロポスは天龍の革鎧ヘルムドラーク・ハルナスに付与された速度強化と筋力強化を解放した。二百五十倍に強化されたアトロポスの体がブレると、地面を大きく抉った跡を残して消失した。


「ハァアアッ!」

 <蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>で居合抜きを放つと、漆黒の神刃(しんじん)が大気を切り裂きながら宙を浮遊している混沌龍(カオス・ドラゴン)に襲いかかった。


 キンッ……!


(効かないッ? なら、もう一度ッ!)

 混沌龍(カオス・ドラゴン)の暗黒の(うろこ)に阻まれ、漆黒の神刃が弾かれた。アトロポスは<蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>を左下から逆袈裟に斬り上げて、再び漆黒の神刃を放った。だが、硬い金属音が響き渡り、二発目の漆黒の神刃も弾き返された。A級魔獣とは比べものにならない強固さに、アトロポスは驚いた。

(これなら、どう!?)

 アトロポスは両手で<蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>を握りしめると、大きく上段に構えた。


「ハァアアッ!」

 裂帛の気合いとともに、<蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>を一気に振り抜いた。強大な黒炎が螺旋を描きながら、奔流の衝撃波となって混沌龍(カオス・ドラゴン)に襲いかかった。

(これでもダメなのッ!?)

 漆黒の奔流は混沌龍(カオス・ドラゴン)に激突した瞬間、まるで吸い込まれるように消滅した。闇属性同士の戦いでは、互いの魔力攻撃を吸収してしまうようだった。


「覇気が効かないのなら、直接攻撃はどうかしら!?」

 そう告げると、アトロポスは再び天龍の革鎧ヘルムドラーク・ハルナスに覇気を流し込んだ。速度強化と筋力強化を最大まで増幅すると、アトロポスは地上から二十メッツェ以上の宙を浮遊している混沌龍(カオス・ドラゴン)めがけて跳んだ。


 キンッ、キンッ……!!


 強固な混沌龍(カオス・ドラゴン)の鱗に阻まれて、<蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>が何度も弾かれた。二百五十倍に強化したアトロポスの斬撃でさえ、混沌龍(カオス・ドラゴン)に傷一つつけられなかった。


 次の瞬間、混沌龍(カオス・ドラゴン)がアトロポスに向かって巨大な口を開いた。鋭く大きな牙に覆われた口の中で、漆黒の魔力が渦巻いた。同時に、壮絶な破壊力を有する暗黒の衝撃波(ブレス)がアトロポスを直撃した。

「……!」

 咄嗟に<蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>を正眼に構え、アトロポスはその超絶な黒い奔流を防いだ。いや、<蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>で吸収した。

 だが、足の踏み場のない宙にいたアトロポスは、その衝撃によって押し流されて二十メッツェ以上の高さから地面に激突した。


「ぐふっ……!」

 天龍の革鎧ヘルムドラーク・ハルナスが大部分の衝撃を緩和したにもかかわらず、アトロポスは口から鮮血を吐き出した。左胸に激痛が走った。激突の衝撃で肋骨が折れ、左肺に突き刺さったようだった。呼吸をするだけで左半身が引きちぎられるほどの激痛が走り、アトロポスは立ち上がることもできずに<蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>を杖代わりにして片膝を立てた。


(まずい……! 今、攻撃を受けたら……)

 アトロポスの焦燥を混沌龍(カオス・ドラゴン)は見逃さなかった。巨大な翼をはためかせると、凄まじい速度で混沌龍が肉迫してきた。同時に、眼にも留まらないほどの速さで長大な尾を振り上げると、鞭のようにうねりを上げながらアトロポスに向かって振り落とした。


「ぐふッ、アァアアア……!」

 混沌龍(カオス・ドラゴン)の尾は、それすべてが筋肉の塊だ。その尾による攻撃は、小さな丘くらいであれば一撃で平地に変えるほどの破壊力を秘めていた。

 天龍の革鎧ヘルムドラーク・ハルナスの物理防御力を遥かに超えた圧倒的な衝撃に、アトロポスは百メッツェ以上の距離を凄まじい勢いで飛ばされた。何度も大地に叩きつけられ、木の葉のように翻弄されながらアトロポスは全身を襲う激烈な痛みに苛まれた。左腕が粉砕され、あり得ぬ方向に曲がっていた。左半身全体が麻痺し、どこの骨が何本折られたのかさえ分からなかった。


(痛いッ! 痛いッ! 体中が……痛いッ!!)

 想像を絶する激痛に、アトロポスは涙を流しながら叫び声を上げようとした。だが、折れた骨が肺に突き刺さっている状態では、呻き声を漏らすだけで精一杯だった。全身を襲う激痛の中で、アトロポスは天龍の革鎧ヘルムドラーク・ハルナスに治癒魔法を付与しなかったことを後悔した。


(これは……死ぬわね……。クロトー姉さん、ごめんなさい……。シルヴァ……、もう一度会いたかった……)

 神経を直接抉られるような凄絶な痛みのあまり、アトロポスは大粒の涙を流しながら愛しい二人の顔を思い浮かべた。だが、二人は笑顔を浮かべているどころか、アトロポスに対して怒っているように見えた。


(クロトー姉さん、何でそんな顔をしているんですか……? シルヴァも、勝手にいなくなっておいて怒りたいのは私の方なのに……)

 朦朧としていく意識の中で、アトロポスは二人に向かって文句を言った。

(私、これでもがんばったんですよ、クロトー姉さん……。シルヴァ、そんな怖い眼で見ないでよ……。もう、体中が痛くて立てないわ……)


 アトロポスはシルヴァレートの視線から逃れるように、薄らと眼を開いた。自分がうつ伏せに倒れているのが分かった。目の前に、右手に握った<蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>の宝玉が見えた。天龍の宝玉は美しい金色の輝きを放っていた。

(分かったわよ、シルヴァ……。あと一回だけ、やってみるわよ……それでダメだったら、もう休ませてよね……)


 うつ伏せに倒れたまま、アトロポスは残った魔力を丹田に集めて練り込んだ。アトロポスの全身から漆黒の覇気が湧き上がった。その覇気が急激に膨張し、黒炎となって爆発するように燃え上がった。

(<蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>、あなたの真の力を私に貸して……)

 はばき(・・・)に埋め込まれた天龍の宝玉が、急速に黒く染まっていった。アトロポスの膨大な魔力を吸収し終えると、漆黒に染まった宝玉から闇の光輝が閃光を放った。


(<蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>の宝玉は、私の力を二十倍に増幅してくれるはず……。あとは天龍の革鎧ヘルムドラーク・ハルナスの速度強化と筋力強化を最大まで上げて……)

 <蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>が吸収しきれなかった覇気を、アトロポスは天龍の革鎧ヘルムドラーク・ハルナスに流し始めた。漆黒の革鎧が闇の覇気を纏い、艶やかな黒色へと変化していった。


(二百五十倍に高めた筋力強化を、さらに<蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>で二十倍にする……。全部で……五千倍? これでダメなら、もう無理ね……)

 全身を襲う意識を失いそうなほどの激痛を噛み殺し、アトロポスはゆっくりと立ち上がった。左腕はブランと垂れ下がり、指一本動かせなかった。

 アトロポスは漆黒に変わったブルー・ダイヤモンドの刀身を納刀すると、両脚を大きく前後に広げて居合いの構えを取った。


 三十メッツェほど先で宙に浮遊している混沌龍が、巨大な口を開いていた。研ぎ澄まされた剣のような牙の奥で、暗黒の魔力が渦を巻いていた。アトロポスにとどめを刺すべく、混沌龍が闇の衝撃波(ブレス)を放とうとしていた。

(か弱い女の子相手に、何度もそんなものを放つなんて、可愛くないわね!)


 混沌龍が漆黒の衝撃波(ブレス)を放った。想像を絶する超絶な覇気の奔流がアトロポスに襲いかかった。

「ハッ……!」

 短い気合いとともに、アトロポスが<蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>で居合いを抜き放った。混沌龍の衝撃波(ブレス)に勝るとも劣らない壮絶な闇の奔流が、巨大な螺旋を描きながら漆黒龍に向かって翔破した。


「……!」

 混沌龍とアトロポスとの中間で、二つの絶大な奔流が激突した。その衝撃でビリビリと大気が震撼し、大地が大きく抉られながら鳴動した。

 一瞬の均衡を保った次の瞬間、アトロポスの放った闇の奔流が混沌龍(カオス・ドラゴン)衝撃波(ブレス)を凌駕した。

 混沌龍(カオス・ドラゴン)衝撃波(ブレス)を呑み込んでその威力を急激に増幅すると、闇の奔流は百メッツェを超える混沌龍(カオス・ドラゴン)の巨躯を包み込んだ。


 ズッドォオーン……!!


 十五階層すべてを震撼させるほどの轟音が響き渡り、混沌龍(カオス・ドラゴン)の巨体が爆発飛散した。漆黒の肉片が(ひょう)のように降り注ぎ、闇色に輝く巨大な魔石が地響きを立てながら地面に突き刺さった。


(やったわよ、シルヴァ……。休んで……いいわよね……)

 汗と血に塗れた美貌に微笑みを浮かべると、アトロポスはガクリと両膝を地面についた。そして、そのままうつ伏せに倒れ込んで意識を失った。


 満身創痍になりながらも、『夜薔薇(ナイト・ローズ)』は初めてSS級魔獣の単独討伐を成し遂げたのであった。



 意識を取り戻すと、アトロポスはクロトーに口づけされていた。口の中に流し込まれた液体を嚥下すると、アトロポスは驚いて訊ねた。

「クロトー姉さん、何を……?」

 一瞬で真っ赤に染まったアトロポスを笑いながら見つめると、クロトーは優しい眼差しでアトロポスを抱きしめた。

「気づいたわね、良かった……。上級回復ポーションを飲ませてたのよ。もう大丈夫だと思うけど、痛いところはある?」


「え……? い、いえ……。ありがとう、クロトー姉さん」

 左腕も完治し、全身の骨折も嘘のように治っていた。クロトーは抱擁を解くと、緑色の液体が入った小瓶をアトロポスに差し出した。

「これも飲んでおきなさい。上級魔力回復ポーションよ」

「はい、ありがとう……」

 小瓶の栓を抜くと、アトロポスは一気にポーションを呷った。丹田のあたりが急速に熱くなり、全身に魔力が甦ってきたのが実感できた。


「ローズが殺されたと思った時のおばあちゃんの慌てよう、凄かったんだよ。全身血だらけのローズの体をブンブンと揺すって……。僕が止めなかったら、ローズはおばあちゃんに揺すり殺されてたよ」

 クロトーの横で笑いながら告げたレオンハルトに気づき、アトロポスは慌てて頭を下げた。

「レオンハルトさんも来てくれたんですね。ありがとうございます」


「余計なこと言うんじゃないよ、レオンハルト。それに、誰がおばあちゃんだって?」

 ジロリとクロトーに睨まれ、レオンハルトは慌てて横を向いた。そのやり取りを笑いながら見ていたアトロポスに、クロトーが告げた。

「それにしても、今回の異常発生(スタンピード)混沌龍(カオス・ドラゴン)が原因だったのね。よく一人で倒せたわね、ローズ」

「はい。途中で諦めかけたんですが、クロトー姉さんとシルヴァに怒られて……」

「え……?」

 アトロポスの言葉に、クロトーが驚いた表情を浮かべた。


「二人に睨まれたので、最後にすべての力を振り絞りました」

 笑顔で告げたアトロポスの言葉に、クロトーは満足げに微笑んだ。最愛のシルヴァレートと一緒に自分のことを思い出してくれたアトロポスが、クロトーには愛おしかった。

「そう。でも、あたしはそんなに怖い顔しないわよ」

「はい。私には優しいです、クロトー姉さんは……」

 そう告げると、アトロポスはレオンハルトの顔を見つめた。「僕にも優しくして欲しいよ」と囁いた声が聞こえ、アトロポスとクロトーは顔を見合わせて笑った。


「ところで、さすがに混沌龍(カオス・ドラゴン)の魔石は大きいわね。SS級魔獣だけあるわ……」

 二十メッツェほど先の地面に突き刺さっている漆黒の魔石を見つめると、クロトーが感嘆しながら告げた。その言葉を聞いて、アトロポスは驚愕しながら訊ねた。

「SS級だったんですか!? てっきり、S級かと思ってました」

「まさか……。あの魔石の大きさは、天龍や水龍と同じくらいよ。間違いなくSS級魔獣の魔石だわ」


 クロトーの言葉どおり、混沌龍(カオス・ドラゴン)の魔石は今まで見たことがないほどの大きさだった。形は六角柱で両端が錐状に尖っており、その下部が地面に刺さっていた。全幅は四十セグメッツェほどもあり、全長に至っては百セグメッツェを超えていた。色は透明な黒色で、中心部に燃えさかる黒焔のような模様が浮かんでいた。

 その大きさと見事な輝きに、アトロポスは目を奪われた。


「これほどの魔石って、初めて見ました。でも、持ち帰るにしても重そうですね」

「大丈夫よ、レオンハルトが担いでいくから……」

「え……僕が……?」

 クロトーの言葉に、レオンハルトが顔を引き攣らせた。一見して、かなりの重量であることが分かったのだ。

「まさか、女性にあんな物を持たせるつもりじゃないでしょうね?」

 笑いながら告げたクロトーに、レオンハルトはボソリと呟いた。

「鬼畜……」


「あの魔石はローズの物よ。ドゥリンに渡して武器か防具を造らせてもいいし、ギルドに売って換金してもいいわ」

「武器はこの<蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>がありますから、アイザックさんに売りつけちゃいます。いくらくらいになりますか?」

 左腰に差した<蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>に視線を移すと、アトロポスがクロトーに訊ねた。


「そうね……。天龍の魔石と同じだとしたら、白金貨十万枚はいくわね」

「じ、十万……!?」

 <蒼龍神刀(アスール・ドラーク)>の材料としてクロトーが払ってくれた蒼炎炭鋼石ほどではなかったが、予想を遥かに超える金額にアトロポスは驚愕した。


「魔石もそうだけど、混沌龍(カオス・ドラゴン)の鱗や爪、牙なんかも使えるところは持ち帰った方がいいよ。たぶん、それだけでも白金貨一万や二万はするだろうからね」

「そうね。手分けして傷の少ない部分をできるだけ持ち帰りましょう。量が多くても大丈夫よ。あたしが空間転移魔法で運んであげるから」

 クロトーが聞き慣れない魔法の名前を告げた。


「空間転移魔法って……?」

「この世界はいくつもの次元が重なってできているのよ。その次元の一つに、指定した物を転移させる魔法なの。次元転移魔法と言った方が正確かも知れないわね。生きている人や動物は移せないけど、無生物であれば量の制限なく転移できるわ」

「凄い魔法ですね……」

 ムズンガルド大陸最強の魔道士と呼ばれているクロトーだけあり、アトロポスの想像もしない魔法を使えるようだった。


 三人は爆散した混沌龍(カオス・ドラゴン)の鱗や骨、爪や牙などを魔石の近くに集めた。全長百メッツェを超えるだけあり、小さな山がいくつもできるほどの量が集まった。

 クロトーはアトロポスとレオンハルトに少し離れるように告げると、天龍の宝玉がついた魔法杖を頭上に掲げて詠唱を始めた。


「生命を司る大地の精霊たちよ、すべての(ことわり)を観相する精霊の王アルカディオスよ! ()の物たちを次元の彼方に送りたまえッ! 精霊王アルカディオスの名において、その力を我に与えたまえッ! スピリット・トランスファー!」


 光属性の白い光輝がクロトーの全身を包み込み、閃光を放ちながら魔法杖の宝玉に収斂(しゅうれん)し始めた。天龍の宝玉に魔力が満ちたことを確認すると、クロトーは魔法杖の先端を混沌龍(カオス・ドラゴン)の魔石に向けた。

 次の瞬間、宝玉から放たれた光輝が閃光の渦を巻きながら、混沌龍(カオス・ドラゴン)の魔石と集められた部位を包み込むように広がった。

 直視できないほどの輝きに、アトロポスは右手を目の前に掲げて黒瞳を閉じた。再び眼を開くと、山積みされた混沌龍(カオス・ドラゴン)の部位や魔石が跡形もなく消失していた。


「すべて、別の次元に送ったわ。ギルドに戻ったら、地下訓練場を借り切って再び呼び戻すわね」

「凄い……」

「さすが、おばあちゃん……」

 アトロポスだけではなく、レオンハルトまでもがクロトーの偉大な魔法に感嘆の声を上げた。

「こら、誰がおばあちゃんだッ!」

 ゴツンと魔法杖で頭を叩かれ、レオンハルトが涙目になりながら頭を擦った。その様子を見ながら、アトロポスは心の底から楽しそうに笑った。

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