表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

第六怪 釘磔男子


 久美:「こんにちはー…」


 彰:「よお、今日も来たな」


 部長はいつものように同じ席にいたが副部長の姿はない。


 彰:「言っとくがタクは弓道部でいないぞ」


 久美:「では、今日の七不思議の調査は私だけになるわけですか?」


 彰:「実は、今日は違う。今回調べてほしいのは、七不思議の弱点だ」


 久美:「弱点?」


 彰:「幽霊や都市伝説には弱点がある。火事で死んだ人の幽霊なら火が苦手だったり、水難事故の幽霊なら水が…死因に関したものならそれに魂が刻まれていたりするんだ、それで、未だに弱点が分からない七不思議がある。それが「釘磔男子」の事だ」


 ~釘磔男子~


 ある男子生徒の話だ。彼は一人暮らしのために学校から割と近いアパートに引っ越したらしいんだが、そこの大家さんが学校の関係者らしくてな、家賃を安くする代わりに、大工道具の買い出しや手伝いをしていたらしい。

 だが、その大家さんが少しのミスも許さない人でね。ミスを繰り返す度、大工道具で虐待をするようになって、最終的に学校の教室の黒板に釘で磔にされていた。

 しかし、その翌日、大家さんが自室で同じ殺され方をされて以来、その教室で磔になりながらもこちらを睨む男子生徒の姿があったという。



 彰:「その教室は知っているんだが、その霊はなんと、釘は刺されたまま黒板を離れて追ってくるのがあって、追いつかれたら同じ殺され方で死ぬってお前が好きそうなやつなんだ」


 久美:「でも、やっぱりマヌケな奴なんでしょう。動きがめっちゃ遅いとか」


 彰:「確かに全身を釘で刺されたから、襲われた生徒や卒業生もノロマなやつで助かったとは聞いた…だが、こいつには弱点を見つけなくてはならない。というのも七不思議は弱点があってこその七不思議なんだ」


 久美:「…?でも、足が遅いなら、それはそれで弱点なんじゃ…」


 彰:「今までの七不思議には明確な弱点があった。「屋上の飛び降り霊」は飛び降りれないようにする。「死者のフルート」は叩くだけでいい「理科室のマッドティーチャー」は生きた人間だから論外「非常階段の無数手形」は水をかければいい「中庭の怪物」はブロッケン現象だからこれも論外、どうだ?どれも弱点が明確だろう?」


 久美:「…いくつか弱点がないのが混じっていましたが…」


 彰:「そもそもオカルト事象じゃないからな、だが、俺も何回か試してみたが、これの弱点だけは分からなかった」


 久美:「それを私に?」


 彰:「あぁ、そうだ。でも当てずっぽうで行かせるわけにもいかない。俺が試したやつを教える。後はお前がそれ以外の方法で試してくれ」


 中等部二年生廊下


 久美:「と、言われて行かされたものの…随分と試してるのね、部長」


 釘で磔にされていたから釘を見せつけたり投げたりしたものの動じず、金槌とかの大工道具でも反応なし…ね。


 久美:「大体の怪異って話の内容から弱点があるっていうのが定番なんだけど、そう言うものでもなさそうね」


 それなら更に情報が少なくなるってものだから、特別に何か持ってくるものもないし手ぶらできちゃったけど、それにしても何で部長が部室にモデルガンなんて隠していたんだろう?多分部費で買ったやつだよね…?


 久美:「クラスはっと…ここか」


 扉に耳を当てると、水滴がポタリ…ポタリと明らかに水にしては重い音がしている。外の日の沈みかけの静けさと相まってより、不気味さが辺りを漂う。


 氷の手に心臓が鷲掴みされたように感じながらも好奇心に抗えずに今度こそ6つ目にして目的のオカルト的恐怖を感じられる。


 扉を開けると中から飛び込んできたのは異臭、むせかえるような臭いに顔をしかめるが、そこから連想される色と光景に自然と目をむけてしまう。


 部長から聞いたとは言え、その生々しい光景は吐き気を覚えるには十分だった。


 片目には釘が五本以上刺さって、もう片方の目は光を宿さなくなって、乾きかけの涙が助けを求める目のように思える、何よりも目を引くのが全身に釘で磔になりながらも傷口から絶えず血が噴き出している。


 両手で口と鼻を抑えるが、それと同時に心が掬われたような、こんなに凄惨な光景で、現実的な事象があっていいのだろうかと思った。


 すると、ぐちゃと音が聞こえて磔にされた人の身体がびくりと跳ねて、肉を釘ごと引き抜き、にじり寄ってくる。


 久美:「っと、取りあえず教室から出ずに逃げるしかないわね」


 相手は遅いとはいえ、すり抜けはしなくても机を飛び越えたりする可能性はある。動きやすいようにブレザーとカーディガンを脱いで少しでも早く動けるようにする。


 すると、磔男子は突然動きがピタリと止まった。いや、止まっているというより、止めて何かを待っている…?


 久美:「…まさか」


 Yシャツの第一ボタンを外すと、焦点のあってなかった目が胸に釘付けになる。第二ボタンを外すと更にジロジロと見つめる。


 そのまま胸元の谷間が見えるか見えないかのところまでボタンを外すと磔男子は両目を覆って霧のように消えていった。


 久美:「…え?」


 そして、教室の中はいつものように血の異臭も凄惨な光景もスクリーンに照射されていた空間のように元の状態に戻った。

次回8月11日

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ