第二怪 死者のフルート
次の部活動の日、私は震え上がるオカルトを期待しながら、部室へ向かう。
彰:「やあ、いらっしゃい。待ってたよ」
部長は前と同じ席で、紙束をペラペラとめくっていたが私が来たらその手をピタリと止めて、ひらひらと手を振る。
久美:「その紙束って何ですか?」
彰:「この前に他の七不思議を紹介するって言ったでしょう?だから、過去の調査報告書を印刷してきたんだよ。七不思議にも順番があるからね」
久美:「順番?」
彰:「まぁ、気にしないでいいよ。俺もそんなに詳しくないし、共通点もないけれど、大体、前任者から引き継いだものだと思ってくれればいいよ」
久美:「わ、分かりました」
彰:「次の七不思議は…うん、「死者のフルート」か」
~死者のフルート~
これはある日、女生徒が先生に許可貰って夜遅くまで吹奏楽の演習をしていた時、1人で演奏している時、明らかに違う音が混ざっていたんだ。
最初は寝不足で音が響いているとか、チューニング不足で何か異常があるとか思ってて特に気にしていなかったんだけど、続けていくうちにある事に気が付いたんだ。
その音が自身の背後から聞こえてきて明らかにその音が近づいているって…
もちろん、振り返っても何もいないし、風も吹いていないから、音が響くはずもないんだよ。
でも、演習を続けている間も後ろからの音に段々と不安になってきてね。これくらいにしようと思って、出ようと思ったらね。
何故か、ドアが開かないんだよ。どれだけ力を込めてもね。その子、キューバとかも持てる力強いのに何かが挟まっているくらいなら、無理矢理開けることが出来るのに、何でだろうと思いつつも力を入れているとね。後ろからこんな声が聞こえたんだよ。
「…まだ、まだ途中だよ?」
その後、耳を塞ぎたくなるほどのフルートの音が鳴り響いて、音楽室には人魂があふれかえってしまった。
次にその子が気が付いたのは学校の保健室だった。見回りの先生が倒れているのを発見して、運んだらしい。ひどく衰弱していて病院で検査したけれど、異常はないって、でもその日から、夜に音楽室では人魂とフルートの音が鳴り響くようになった。
彰:「これが七不思議の二つ目「死者のフルート」の話だ。いい話だろ?」
久美:「そうですね。これなら前のようなものじゃないでしょうし、早速行きましょう」
彰:「あせんなあせんなって、この時間はまだ吹奏楽部の奴らが使っているだろうし、最初許可を貰わなきゃな、フルートがあるのはとなりの準備室らしいから、ちょっと待ってな。俺のクラスメイトに吹奏楽部の部長がいる。準備室は音楽室からしかいけないから、少し話をしてくる」
久美:「今、部活中なんじゃないですか?突然電話したら迷惑なんじゃ…」
彰:「そうだな、でもだからと言ってやめることはない出るまで何件何十件何百件でも着信履歴を残してやる」
久美:(それチャインだと、返信送るタイミング逃すやつ…)
彰:「あっもしもし、一回目で繋がるのか…いや、そういうわけではない。学園の七不思議の2覚えているか…そう、うちに新入部員が入ってな、それを見せるために準備室を開けてほしい。そうだな、3分くらいかかると思う、一曲くらいなら演奏する時間はあるんじゃないか?
…そうか、じゃあ、あれだ。駅前のお好み焼き、あれの一番人気のやつおごりなんてどうだ?この前中々手を出しにくい値段とか言ってただろう。約束する、明日や明後日ではない。今日だ」
部長はその後、ガッツポーズをして、振り向く。
彰:「交渉成立!」
久美:「何で相手の人食べ物に勝てなかったのだろう…」
彰:「あいつ食い意地半端なぇからな、食に対する愛情はフードファイターレベルだ。さて、早速ゆかん、音楽室へ」
音楽室へ続く廊下を歩いていると、演奏の音が聞こえる。
彰:「さぁ、飛び入り参加の観客、入場だ」
バンッと大きな音を立てようとしたが丁度、曲の盛り上がりだったようで、ドアの音はかき消された。
しかし、指揮者はこちらに気付いたらしく、手を止め演奏をやめさせる。
???:「よお、待ってたぜ。少し、遅かったんで二番も演奏してたんだが…」
彰:「それくらい、知っている。少しの時間も無駄にしないお前の事だ、谷繫 それはそうと準備室は」
谷繫と呼ばれた女性は親指で奥の扉を指しながら、入っていいぞと言ったあと、私に視線を向けた。
谷繫:「へぇ、この子が新しい部員の子?確かに怖い話が好きそう。怖いのが苦手だけど怖いもの見たさでついつい見ちゃう天邪鬼ちゃんかな?今もあのフルートを見る人がいるなんてね」
部員A:「フルートってあのフルート?」
部員B:「フルートってあの一つしかないからそうだろうね」
部員C:「あー、あれ少し迷惑なんだよね。学校側で処分してくれないかな」
部員がひそひそとフルートの話題を喋っていると谷繫先輩はパンパンと手を叩いて注目を集める。
谷繫:「はいはい、部活中にだべらない。この人たちは置いといて、演奏を続けるぞ。おら、さっさと咥えて」
彰:「俺たちはフルートを見に行くぞ。もう目と鼻の先だ」
久美:「は、はい」
音楽準備室は薄暗く、足元を見ないと何かに躓きそうになる。他にはギターや、マイク、軽音楽で使うような楽器が多く見られる。どれも埃一ついていない事から手入れはこまめに行っていることが分かる。
彰:「あったぞ、あれだ」
部長が指をさした場所は隅にある壁のフックにかけられている。見た目はやけに古いようで、所々黒ずんでいる。
近づこうとするととなりの音楽室から曲が流れてくる。
すると、それに反応するように、かけられていたフルートがふわりと宙に浮いて、音を奏で始める。
その音はどこかつたないようであり、上手い下手の高低差があるようで、協調性というよりかは無理に音を合わせようとしている。
久美:「こ、これは…」
いい、これはいい。屋上の飛び降り霊より、オカルティックな現象、後はこれを調べて…
彰:「よし、じゃ、戻るぞ」
久美:「えっ!?」
スタスタと歩く部長その足取りに迷いは無く、ただドアの方へ向かう。
フルートは音を出しながら、ドアの方へ向かい、引き留めるように部長の周りを飛び回る。その姿はまるで自分の存在をアピールするようだ。心なしか服をつかんでいる青白い手が見えるような気がする。
それを鬱陶しいと言わんばかりにフルートを平手打ちする。
壁に叩く付けられたフルートはふらふらと揺らめきながら元の位置に移動してプルプル震えていた。
その後、演奏中の吹奏楽部の部長に軽くお辞儀をして、音楽室を後にする。
久美:「あの…あのフルートの事なんですが…」
彰:「あぁ、実はあれは「死者のフルート」とは呼ばれているが、簡単に言えば付喪神みたいなものなんだ。
調べて分かったことは、昔、あれを学園に贈った生徒がいたこと、その人が卒業した後に噂が広まったんだ。多分、メリーさんのような者だと思う」
久美:「メリーさんって、女の子の人形を捨てた後、電話がかかってきて、最後に「今、あなたの後ろにいるの」で終わる、あの?」
彰:「そうだ、でも、あれは人を怨むんじゃなくて、ただ仲間に入れてほしい。かまってちゃんだからな。ほら、部員の奴らも言ってただろう?処理してほしいって、あれを演奏の場に置くと勝手になりだすのが、いやなんじゃなくて、下手な部分の時誰が間違えたのか区別がつかないから、なんだよな」
久美:「えぇ、今度こそ危害を加えるようなものだと思ったのに…」
彰:「危害はあるだろ?はた迷惑って危害が」
久美:「そうではなくって…うぅ~」
彰:「…今回は早く終わったな。もう一つ行ってみるか…次は、「理科室のマッドティーチャー」だ」
次回7月14日




