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婚約破棄は卒業の前に

作者: 仲川瑞樹

「ティサ・ツョーノカゲ子爵令嬢!貴様との婚約を破棄する!!」王立ユーノウ学園、別名『選定の学園』の卒業パーティにて、わたくし婚約破棄を突き付けられました。

そんな婚約破棄で始まる学園卒業のお話。


謎解きはディナーの後で、みたいなタイトルにしたかったのにどうしてこうなった。

生暖かい目でお読みください。



3/5評価&誤字報告ありがとうございます!

3/10コメディー月間38位が信じられません、ありがとうございます!

「王太子から言われた婚約だが、もう我慢の限界だ!ティサ・ツョーノカゲ子爵令嬢、貴様との婚約を破棄する!!」



 王立ユーノウ学園の卒業パーティにて、目の前にズビシィッと真っ直ぐ指を突き付けられました。

 ちょっとあまりにも近いのですけど、これうっかり目に入りましたらどうなさるおつもりでしょうか。

 ゲス顔…失礼いたしました。ドヤ顔を晒すのはわたくしの婚約者であるドーラム・スコノバーカ伯爵令息。

 美しく光り輝く金髪に、一級のエメラルドのような瞳を持つ美青年でございます。

 この学園に入学すると同時に婚約いたしました。

 申し遅れました、わたくしはティサ・ツョーノカゲ。

 見ての通り婚約破棄を言い渡されている真っ最中にございますわ。



「ドーラム様、ただいま卒業パーティの最中でございます。そのような私的なことは後程、卒業証書を戴いた後に…」



 そう、最初に申し上げた通りここは卒業パーティ会場なのです。

 王立の貴族のご子息ご令嬢が、なによりも王族の方も通われる規律と伝統を大切にする王立ユーノウ学園、別名「選定の学園」なのです。

 無事に卒業できれば大変優秀であると国からお墨付きをいただけます。

 また、卒業生の中でも特に優秀なものは王の側近にスカウトされるのです。

 当然のように最終学年を終えた生徒やそのご親族、先生方がいらっしゃいます。

 有能な生徒をスカウトしようと、国中から公立民間問わず様々な方がいらっしゃっております。

 なので、この学園に通う者は家から耳にタコができるほど「真面目に勉学に取り組みなさい、羽目を外してはいけません、問題だけは絶対に起こすな」と忠告されるのです。

 そんなところで何を血まよ、いいえ、御乱心されていらっしゃるのかしら。

 これからダンスが始まろうというフロアの中心で、ドーラム様は声を張り上げ皆様の注目を集めてしまいました。

 例えどのような理由であろうとも、仮にも由緒正しき卒業生に名を連ねようとした者がこのようなこと許されません。



「いいやダメだ!俺は元婚約者として、貴族として!大衆の前で権力を振りかざす貴様を断罪しなければならない!」



 左手の人差し指と中指を額に当て、さも苦しそうな顔で仰け反られます。

 全身で悲しみを表現していらっしゃるご様子。

 以前から思っておりましたが、ドーラム様は舞台役者がお似合いだと思いますわ。



「俺は貴様と婚約破棄しアンナ・ムカック男爵令嬢と婚約する!アンナ!」

「はぁい、ドル様ぁ」



 ドーラム様に呼ばれて無謀、失礼、考え無し、いえ、これも失礼ですわね。

 えぇっと、そうですわね。意気揚々と登場なされたのは、この学年で知らぬ者はいないご令嬢でした。

 ふわふわとしたボブショートの髪と、今にもこぼれそうな大きな瞳は栗色で、リスのように愛らしいと男性陣から熱狂的な人気を誇る方ですわ。

 一方女性陣からは…いいえ、きっと皆さま何となく御察しがつくでしょう。

 なぜならこれは『てんぷれーと』と呼ばれるもの………







 そう、今国中の貴族の間で巻き起こっている婚約破棄劇では、たいてい構図が一緒ですもの。

 何をご想像されたのでしょうか?

 めたはつげん…?メタルですか?金属が発現するのでしょうか、夢みたいですわ。

 ええ、現実逃避している場合ではありませんでしたわね。

 目をしっかりと見開き、誠心誠意真心を込めてドーラム様とアンナ様へ向けさせていただきます。

 このお二人いわゆるお勉強のという意味では非常に優秀なのですが、それ以外はあっぱら…大変夢見がちな方々なのです。



「またそうやってアンナを睨むぅ…ドル様怖いですわぁ…」

「貴様いい加減にしろっ!アンナを脅したところで、俺の愛は手に入らないぞ!」



 睨んだつもりはまったくもってないのですが…まだ誠意が伝わらないのでしょうか?

 ドーラム様はアンナ様を庇うように自分の後ろへ隠してしまいました。



「嫉妬に駆られてアンナを害した貴様の罪はすでに明白っ!婚約破棄を受け入れるがいい!」

「はぁ…何を仰っているかわかりませんが、ドーラム様がわたくしと婚約破棄したいのだけは理解できましたわ」

「白を切るつもりか?!淑女の風上にも置けん愚者であるな、今まで怖かったであろうアンナ、これからは俺が守ってやるからな」

「ドル様ぁ、アンナ嬉しいですぅ」



 人目も憚らずに抱き合って、完全に二人の世界に入ってしまわれたようですわ。

 害した、と言われましても心当たりなどございません。なんとなくの見当はつきますが。



「なんにせよ、婚約破棄の意志承りましたわ。また後日正式な場でお話合いいたしましょう」

「今更殊勝なことよ、だが理解したならば、なおさら今ここでアンナに謝罪せよ」

「いいえ、やってもいないことで謝罪はできませんわ」

「そ、そんなぁ、アンナに暴力振るったりぃ、ドレス引き裂いたりぃ、アンナのこといじめたじゃないですかぁ」



 やはり、学園内で起きていたアンナ様への嫌がらせの件でしたか。


「確かに、アンナ様の仰っていることがあったのは事実です。ですが、わたくしは関係ありません」

「なんだと?!貴様「待たせたね、皆の衆!」

「な、ケイ殿下?!」



 話も聞いて下さらずに罵声を浴びせるドーラム様とわたくしの前に、この国の王太子殿下ケイ・ショシャ・ユーノウ様が颯爽と現れてくださいました。

 突然現れたケイ殿下に、当然のように生徒たちはざわつき始めました。

 殿下は去年卒業され、今年は王族関係の方は卒業なされませんから、全く予想外の人物の登場なのでしょう。

 保護者の貴族方と学園関係者、スカウトに来られた方々は全く動じません。

 そして、わたくしも。そう、わたくしはケイ殿下がここにいらっしゃることを知っていたのです。



「王太子殿下、お久しゅうございます」

「元気そうでなによりだ。卒業おめでとう、ティサ」



 最上の礼をすれば、殿下はにこやかに笑ってくださいます。



「殿下!その女は悪魔のような女です、危険ですので離れてください!」

「そうですよぉ、ケイ様!こっちへ来てくださぁい」



 バk…失礼なことをドーラム様とアンナ様はしてしまいました。

 挨拶も断りもなく殿下に話しかけ、さらには手をいきなり引っ張るなど不敬です。

 非常に大変なことをしでかしたことに、周囲は息を呑みますが当のお二人だけは全く気付いていないようです。

 全く嘆かわしいことですわ。

 しかし、殿下は怒るでも叱るでもなく、美しく笑ってアンナ様の手を離させます。

 一見すれば美しいですが、その目は笑っていません、氷点下です。

 いったい何を勘違いすれば頬をそめられるのでしょうか、その思考回路どうなっていらっしゃいますの?



「話はちょっと聞かせてもらっていたよ。ティサ嬢と婚約破棄したいんだよね、スコノバーカ伯爵令息は」

「ええそうです!ティサは悪女です!このかわいらしきアンナを苛め抜いていたのですから!」



 殿下が登場して、また熱が上がってしまったのでしょうか?

 ドーラム様の手振り足ぶりが大きく、まるで本当に劇を見ているようですわ。



「良いよ、王族の権限でティサとドーラム・スコノバーカ伯爵令息の婚約破棄、そしてアンナ・ムカック男爵令嬢との婚約を認めよう。書類の準備を!」



 殿下の言葉に、ドーラム様とアンナ様は花が咲いたような笑顔を見せました。

 殿下付きの文官がすぐに契約破棄に関する書類を持ってきます。

 異様に枚数が多いですが、これから起こることを考えると妥当な数でしょう。頭が痛くなりますわね。

 書類の束の一番上の紙に、殿下がサインし、ドーラム様とアンナ様にサインを促しました。

 殿下と二人のサインの入った書類を、印籠を突き付けるようにドーラム様はわたくしの前に突き付けます。

 指といい、書類といい、どうして至近距離で突き付けるのでしょう。

 視力が良くても、近すぎてぼやけて読めませんわ。



「はぁ…ドーラム様、本当によろしいのですね?後悔いたしませんね?」

「ふん、貴様と縁が切れると思うと最高の気分だ、まぁ、もちろん後でアンナに土下座してもらうがな」



 謝罪から土下座にレベルアップいたしました、最終的に土下寝になるのでしょうか?それとも東洋での最上級の謝罪というハラキリ?

 まぁ、もうわたくしとしてもいい加減疲れたので、ドーラム様の意志を確認してサインするやいなや、殿下に素早く奪われました。



「さて、これでティサ嬢とドーラム・スコノバーカ伯爵令息は婚約者じゃなくなったね!僕が証人だ」

「さぁティサ!ケイ殿下が認めたのだ!早くアンナに謝罪しろ!」

「謝罪さえしていただいたらぁ、アンナもう気にしませんからぁ」


「アンタらバッカじゃねーのか?」



 もう偽る必要がなくなり、わたくしから私に戻るとドーラムとアンナだけでなく、周囲もポカーンとした顔で私をみる。



「ティサ、長い間不自由を掛けた」

「全くですよ殿下、お嬢様なんてキャラじゃねぇですってのによぉ…あー、ほんっと疲れた…」


 

 私の言葉遣いに同じクラスだった女生徒がめまいを起こしたのを、近くにいた男子生徒が間一髪受け止めた。

 うん、わかるぞ。今まで貴族として貴族としか接していなかったから女が、しかも今まで淑女の皮をかぶっていた同級生が、こんな口をきくなんて衝撃だよな。

 心の中で彼女に謝りながら結い上げた赤髪を乱雑にほどき、殿下の前に傅く。



「王家の影ティサ・ツョーノカゲ、ケイ殿下から承った任務の最終報告をいたします」

「では聞こう。手始めにそこのスコノバーカ伯爵令息とムカック男爵令嬢からだ」

「ハッ、二人とも見ての通り不合格ですので、卒業は取り消しとなります」

「ま、待て、不合格とは、そして卒業取り消しとはなんだ!!」

「そうですよぉ!っていうかぁ、あなたになんでそんなこと言われないといけないんですかぁ?!」



 卒業取り消し、の単語を聞き、生徒たちがざわめき、当然のように二人は私に噛みついてくる。

 視線だけで殿下に許可を取り、立ち上がりドーラムとアンナと向かい合う。

 この期に及んでまだ無様な格好を晒すなんて、本当にバカの極みだと思う。



「卒業取り消しは卒業できないって意味だよ、それも言われねぇとわかんねぇのか?」

「意味を聞いているのではないわ!!それよりも貴様先ほどからそのような口振り…貴族として恥ずかしいと思わんのか!」

「まだわかんねぇの?私は貴族じゃねぇよ、王家の影、隠密。アーユースタン?」

「貴族じゃないならば、なぜこの学園にいるのだ!この学園は貴族のためのものだぞ!」



 本当に理解できないのだろうか、貴族しか入れない別名「選定の学園」と呼ばれる王立の学園に王家の影が居る理由が。

 優秀なものは王家の側近に直接スカウトされるということが。

 親親族から口酸っぱく問題を起こすなと言われる理由が。

 そして、未だ卒業証書を貰っていないことの意味を。



「なぁ、なんでこの学校が選定の学園なんて言われてると思ってんだ?どうして無事に卒業しろって何度も言われたか不思議に思わなかったのか?」



 そう、この場に居る大人たちは、結婚で平民から貴族入りした者や他国の者少数を除いて、全員この学園に在籍したことがある。

 全員が全員、()()()()()()()が。



「いうなればここは王家の人間農場だよ、優秀な人間を育成して自分たちの益にする」

「ティサ、その言い方だと僕たち悪者だよ。もっと発言をオブラート100枚ぐらいに包んでほしいな」

「ッチ、失礼しました殿下」

「舌打ちしないっ!」



 一つの場所で同じように教育し、競わせることで出された評価を基に優秀なものは王家の側近や王立機関へスカウトされるのだ。

 もちろん、ここに民間企業も参加できる。要するにドラフト会議だ。

 だが決して強制ではない。本人がいくら適性や能力があろうとも、やる気がなければ意味がない。

 卒業後に指名された生徒と指名した側(複数あれば複数人)とが対談し、最終的にどこに行くかは本人が決める。

 指名されたところに行くのも、断るのも自由だ。




()()()()()()




「ところで殿下、今年の卒業生は半分と少しです」

「137人で?今年は多いな、君の目が緩いんじゃないか?」

「いいえ、大変優秀な先生たちの教育の賜物ですよ」

「そうか、では労わなければいけないな」

「センコーどもおおおおおっ!!殿下が褒美弾んでくれるってよおおおっ!!ひゃほおおおおおおおっ!酒池肉林じゃああああっ!!」

「やめなさい!僕の権限だとボーナスに色付けるぐらいしかできないから!!あと口調と言葉選び!!まだ外見だけならドレス着てる美しい令嬢だからね?!」



 先生と半分と少しの生徒に心当たりのある親は歓喜に湧き、別の意味で心当たりのある親は膝から崩れ落ちてしまった。

 この光景を目にする、今の今まで学生にはこの学園を卒業する意味は誰もわからなかっただろう。

 親も兄姉たちも、その周囲にも、王家からの厳しい緘口令が敷かれていたから、勉強を教えられても、卒業することを教えられなかった。

 私の発言によりどうやら察した生徒が数人いるようだ。彼らは、確かちゃんと卒業できる生徒だな。

 未だによく状況を理解できない生徒たちに、なにより目の前でぽかんと口を開けている間抜け面二人に説明してやらないといけないようだ。



「評価する人数が多ければ多いほど、いろんなところでバラバラに競わせるより、同じところで評価したほうが順位付けは楽。それはわかるよな?」

「しかし、それでは性格やそれ以外の優れた点はわからんではないかっ!」

「だから私がいるんだよ」



 そう、ドーラムが言ったように性格やその他素行はテストや成績だけでは測れない。

 だからこそ、私のような王家の影が入り込み学年を見張るのだ。

 どんな交友関係で、どんな行動をしているのか、影で何を行っているのか。

 それを観察し、王家へ報告するのが私が殿下から承った任務だ。



「私だけじゃねぇ、各学年にもな。なんなら先生や職員の中にも影はいるぞ」

「それってぇ、プライバシーの侵害じゃぁないですかぁ」

「馬鹿言ってんじゃねぇ、王族貴族にプライバシーなんてあってないようなもんだろ」



 王族は全国民のためにすべての力を注いで、貴族は生活を支えてくれる民と国を導く王のために働く。

 これが現王の考え方だし、もう何代もこの考え方だ。

 だからこそ邪な腹を持つ狸は、政に入れてはいけない。



「私たちはこの学園の中、どこで何が起こったか全部見ている。例えば、アンナ・ムカック男爵令嬢が自分でドレスを引き裂く場面や、自ら池に荷物を放り込んだうえで飛び来み、ドーラム・スコノバーカ伯爵令息が通りかかるのを待っていたのも。……寒くなかった?あれ?」

「本当かアンナ?!真冬の池に飛び込むなんて寒かっただろうに!」

「そこなのスコノバーカ伯爵令息」



 的外れなドーラムの心配と、殿下のツッコミを受け、アンナは真っ青な顔で寒かったに決まってるじゃない、と呟いたきり黙り込んでしまった。



「他にも?ソコイ・ジノワール伯爵令息とその取り巻きである3人がヨワクナン・カナーイ男爵令息へ陰湿な嫌がらせをしていることも。アリエ・ヘンモン辺境伯令嬢がチャーラー・オギャール侯爵令息とえげつない浮気していることも。ソン・タクスル先生がエーライ・オーレサマー公爵令息のテストだけ簡単にしたことも。私たち王家の影はすべて把握してる」



 手始めに名指しされた人たちから周囲がササっと距離を取り、孤立したようだ。

 顔面真っ青で崩れ落ちるぐらいならやめとけばよかったのにねぇ?



「夜中に寮を抜け出したと反省文書かされたメガ・ミーノヨー伯爵令嬢が、貧民街に食料を配っていたことも、決闘して一週間停学を食らったマカセ・テアーシン子爵令息がいじめられている生徒を守ろうとした結果ということも。あ、二人は卒業できるし既に王族からスカウト何人も来てるから」



 そう告げると、二人は抱き合い歓喜に身を震わせていた…問題起こしたとき両親からどえらい怒られたもんね。

 もちろんルールを破ったことよりも、学園のルールを守ったうえで出来る方法を探さなかったことを。

 でも二人とも婚約者いないとはいえ、感情が高ぶったからといえ、そんな抱き合って大丈夫かな?まぁ両片思いの人たちだったから放っておいていいか。



「卒業生リストです。ケイ殿下、ご発表ください」

「では名前を読み上げるぞ!ミーメ・ウルワシー公爵令嬢!セイ・ギノヒイロ公爵令息!」



 殿下に名前を呼ばれた生徒たちは、自然と殿下の前に並び出る。

 総勢62人がずらりと並び、その後ろでは両親と先生たちがめちゃくちゃ涙ぐんでいるのは仕方ないだろう。

 特にギノヒイロ公爵なんて、兄のアークが卒業できなかったためバスタオルが必要なくらい泣き叫んでいて、息子ドン引きしてるぞ…



「殿下に呼ばれなかったものは卒業できねぇ。が、アンタら心当たりあるだろう。それを直して特別講習で合格すれば一応卒業扱いだ」



 間違えれば多くの国民や領民を失うことにつながりかねない王族や貴族たちに、間違いは許されない。

 しかし人間誰でも間違いはある。特に学生時代の思春期なんて間違えの誘惑だらけだ。

 だからこそチャンスはまた与えるべきだ。

 自分のした行いを反省し悔い改めればよし。分からなければそこまで。

 隠遁させてもらえばいい方だろう。爵位降格か、あるいは……

 まぁ、自分の行いなんて自分が一番わかってるからな!



「待て!黙って聞いておれば!どうして俺が卒業できないのだ!」

「居たわ、わかってねぇ奴」

「俺はアンナに騙されたのだぞ?!お前と婚約破棄したのもそのためだ!成績が優秀な俺が卒業できないなどあり得ぬ!!!」



 マジでこれ以上バカを晒さないでくれぇ…これでも在学中ずっと一緒に居たから少しだけ情はあるんだ…



「そうだな、確かにアンタは成績優秀で正義感も強かった。思い込みも強かったが、卒業させない判定を下すほどじゃねぇ」

「ならば何故っ!」

「それがわかってねぇから卒業できねぇんだよ。王太子から賜った婚約者放って浮気した自覚あるのか?」

「浮気ではないっ!貴様が俺に寄り添わなかったから!」

「寄り添わねぇって、キスしなかったことか?アンタが夜這い仕掛けたときに追っ払ったことか?それとも到底無理な要求に応えなかったことか?」



 私の発言に周囲はざわめく。今までドーラムに要求されたこと全てを羅列していく。

 ドーラムは外面のいい内弁慶というか、自分の女に非常に支配的だった。

 なんというか、ドSを勘違いしたというような。



「入学前、ドーラム・スコノバーカ伯爵令息は王家に入れる最有力候補だったんだよ」

「え?殿下、それは…?」

「今他国にいらっしゃる王女殿下の結婚相手として、それを見極めるために私が婚約者になったんだよ。アンタに王女殿下は任せられねぇ。大人しく勉強しなおしな」



 周囲からの冷たい視線に耐えられずに、ドーラムは膝をつき項垂れた。



「ふぅ、これで全部終わったぜ」

「まだ終わってないぞティサ。僕の命令はこの学園で卒業生を選定すること、そして僕の妹の結婚相手を見つけること」

「え、それってまさか…」

「うん、君は来年も学園に潜入だ」

「えーーっ?!!また女装しなきゃいけねぇのかよ?!24歳の男にやらせるなよっ!!!」



 私の心からの嘆きに、会場に居た全員からの視線が集まった。

お気づきかと思いますが、登場人物のお名前です。

モブのは声に出して読んでみてください。


ティサ・ツョーノカゲ→偵察用の影

ドーラム・スコノバーカ→ドラ息子のバカ

アンナ・ムカック→あんな、むかつく

ケイ・ショウシャ・ユーノウ→継承者有能

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後の24歳の男に全部持っていかれた
2021/03/10 14:27 退会済み
管理
[良い点] 単純に笑わせてもらいました [一言] 最後の最後に耐え切れずコーヒー吹いた
[気になる点] ボンクーラ・○○王子とかノウキン・〇×辺りならそれほど気にならないんですが 苗字も含めてぶつ切りだとノイズが非常に気になって話の6割位しか頭に入りませんでした
2021/03/05 21:01 通りすがり
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